natgoodcompany 2020年6月17日発売、日本のインディーレコードメーカー、ウルトラ・ヴァイヴが発売元となってリリースした、オランダのレーベル「タイムレス」発のリイシューシリーズ「Timeless Jazz Syndicate」第2弾全20タイトルの1枚、日本では初のCD化となるナット・アダレイ・クインテットのアルバム作品。全8曲収録。

 ナット・アダレイは1950年代後半からアメリカのジャズシーンで活躍したコルネット奏者。兄であるサックス奏者のキャノンボール・アダレイのバンドに長年在籍して実績を積むのと並行して自身がリーダーのバンドも率いて活動。また「Work Song」「The Old Country」「Jive Samba」等のジャズのスタンダードナンバーの作曲も手掛け、プレイヤーとしてよりもコンポーザーとしての評価がより高い模様。1975年にキャノンボールが逝去した後も主にリーダーバンドで地道に活動を続け、2000年1月にこの世を去りました。本作は1994年録音の作品ということで、活動の最晩年にあたるアルバムと思われます。

 今回の発売にあたって新規に書き起こされたライナーノーツによると、「1994年のヨーロッパツアー途中でオランダに立ち寄り録音された作品」とのこと。演奏パーソネルはナット(Cor)、アントニオ・ハート(As)、ロブ・バーガド(P)、ウォルター・ブッカー(Ba)、ジミー・コブ(Dr)。数年前まで参加していたヴィンセント・ハーリングが抜けてアントニオ・ハートが加入した時期の五人編成のようです。余談ですがこの後に同じ面子でもう1枚スタジオアルバムをレコーディングしており、そちらは当時(1996年3月)日本盤が発売されていた模様。

 前述のライナーノーツには収録曲を「ツアー用に用意された楽曲構成と思われる」と推測しており、この説が正しければ、ツアー中にライブ用の楽曲をスタジオレコーディングしたアルバム、ということになります。その内容は冒頭の10分に及ぶ組曲風の「Rwanda」、ナット自身のペンによる「Sermonette」やキャノンボールバンドのレパートリーでもあった「Unit Seven」といったファンクチューンから、ナット不参加、ハートがフロントの「Corcovado」、金管二人を除いたピアノトリオでの「Rob's New Tune」、ナットとバーガドの二人のみのバラード「My Romance」など、楽曲のみならず編成的にもバラエティ豊か。実際のステージでどの曲がどういうセットリストで演奏されたのかは今となっては分かりませんが、ライブ映えのするナンバーが取り揃えられ、なかなか聴き応えがありました。

 バンドリーダーのナットはそれほど前に出過ぎず、リズム隊のベテラン二人と共に(当時)若手のハートとバーガドの両者を引き立てる役割に回っており、彼らの個性を後押ししている、という印象ながら、ナット、ハート、バーガドがほぼ均等にソロの掛け合いを繰り広げる「You Don't Know What Love Is」では本作中最も聴き心地の良い演奏を見せてくれるなど、ナット健在もアピールできているアルバム。日本では兄キャノンボールの作品は何度もメジャーレーベルで再発されるのに比べると、彼のリーダーアルバムはそれほど機会が…というのが少し残念なのですが、発売から25年の時を経て、本作の日本盤リリースを敢行してくれたメーカーには感謝の気持ちでいっぱいです。