
2019年はアート・ブレイキー生誕100周年、そして今年2020年は同氏の没後30年。このタイミングで本作のリリースがアナウンスされたのは今年の3月。本来は4月24日に全世界での同時発売を予定していましたが、新型コロナウイルスによる影響と国際状況を鑑みてリリースを8月7日に延期。その後発売が前倒しになり、通常盤SHM-CD、LP盤は7月17日に、SA-CD盤は8月7日にそれぞれリリースという経緯を辿りました。本作のレビューはSHM-CD。なお印刷差し替えが間に合わなかったのか、ジャケットの発売表記が8月7日のままなのはご愛嬌。
録音年月日は1958年3月8日。ブレイキーの録音史としては代表作「MOANIN'」の約半年後の録音で、演奏パーソネルはブレイキー(Ds)、リー・モーガン(Tp)、ボビー・ティモンズ(P)、ジミー・メリット(B)に、「MOANIN'」でのベニー・ゴルソンに代わってハンク・モブレー(Ts)が加わった五人編成。発売レーベルはかつてブレイキーが所属していた老舗のジャズ・レーベル、ブルーノート・レコーズ名義からで、全曲スタジオ録音、ブルーノートの公式レコーディング記録にも残っていた「未発表公式スタジオ録音盤」となっています。
収録楽曲はバラードは1曲もなく、ミディアムテンポとアップテンポが半々ぐらい。ステレオ録音になっており二管はモーガンが左、モブレーが右に配置され、どの曲もモーガンの勢いのあるトランペットと、モブレーの朗々としたテナーサックスの競演にティモンズの転がるようなピアノが彩りを添えるのが基本的な楽曲進行で、ブレイキーはドラムソロをドカドカ披露するというよりも、各演奏者を鼓舞するような合いの手的なリフを入れる曲が多いのですが、未発表曲「JIMERICK」では長尺のソロも披露しており、このソロ直前の「来るぞ来るぞ〜」的なタメがベタながらとても良いです(笑)。
ティモンズのピアノのラインを追いかけて聴くのが楽しいもう1曲の未発表曲「QUICK TRICK」は5分弱、他の曲もスタジオ録音ということもあり、ラストのタイトル曲「JUST COOLIN'」以外は6分半前後の曲で比較的コンパクト。熱いソロが繰り出されるライブ録音盤がメッセンジャーズの醍醐味であり、それに比べると(彼らにしては)随分スマートに演奏してるな、という印象なのですが、収録時間約40分、1曲ごとの適度な長さもあってちょうど集中して聴ける演奏時間なので、繰り返し聴いても飽きないような耐久度を持ったアルバムと呼べるでしょう。
今回のリリースにあたってはクレジットにマスタリングエンジニアとしてバーニー・グランドマンの名前が明記され、音質は今から約60年以上前のマスターを現代においても特に違和感なく聴かせる仕上がり。2020年の今日に至るまでなぜ陽の目を見なかったのか、というのは録音約一ヶ月後のライブで本作の収録曲の大半を演奏した音源が、後に2枚のアルバムとして発売されたから…という当時の状況があったようで。それを差し引いてもここまで眠らせておくには惜しい完成度の作品であり、ジャズ・メッセンジャーズ愛好家には必聴の1枚ではないでしょうか。
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