
デビューから数年間はサウンドプロデューサーに編曲作業を全面委託していた秦基博。次第に自身もアレンジ関連に携わるようになり、前作ではついにセルフプロデュース、ほぼ全ての楽曲を単独編曲するまでになりましたが、4年振りのオリジナルアルバムとなる本作では全13曲中11曲がトオミヨウ(秦と同学年)との共同サウンドプロデュース名義(残り2曲は秦単独)。かつては自分よりも年上で既に実績のあるサウンドプロデューサーを招いていた彼が、同学年の世代とタッグを組むというのは今までになかった形だと思います。また、シングル関連以外でもタイアップのついていた「Joan」「在る」、そして本作のリード曲的な「9inch Space Ship」は発売に先駆けて先行配信がされるなど、時流に合わせたプロモーションを行ってのリリースとなりました。
本作の構成は冒頭1曲目と8曲目にそれぞれ「天動説」「地動説」という短いインストを配置し、既発の各シングル曲や先行配信曲を万遍なく並べた形。特にインストを境に音楽性がガラリと変わる…ということもなく、秦の歌と爪弾くアコギの演奏を中心に据えたいつも通りの楽曲スタイルという安定感のある内容。強いて挙げるならば、前半はしっとりとした「LOVE LETTER」「アース・コレクション」などの打ち込み主体+必要に応じてリズム隊などの生楽器が入る曲がやや多め、後半は「9inch〜」や「Rainsongs」といったバンド演奏を前提とした生楽器全面参加形態による曲がメインという違いぐらいでしょうか。
ただ、アレンジ面では従来よりも楽器が鳴っていてもバンド感が後退したな…という曲が全体的に見受けられました。例えばアッパーな曲調でもうちょっとガツンとバンドサウンドが前に来て欲しい曲、バラード系ではアコギ以外の音の存在感がやけに薄い曲…などがチラホラ。秦の歌声をこれまでより前面に出すという試みなのかもしれませんが、聴いていて彼のボーカルを引き立てる背景の部分にもう一押し欲しいな、という感想を抱いてしまったのが正直なところ。
10周年のオールタイムベスト以降からリリース活動が停滞し、長い間待たされた後での新曲満載のオリジナルアルバムがようやく完成、ということで待望の1枚であったのですが、微妙な喩えをすると「懐石料理を食べようとして席に着いたら、精進料理が出てきた」と言いますか。同じ和食系統なので期待していたのと違う!というほどではないのですが、これはこれでいいんだけどこれまでのアルバムに比べると物足りない部分もいくつか散見されたアルバムでした。
コメント
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分かります。秀逸な例えです。半年近く経って正直もうあまり覚えてないアルバムになってしまいました…。
トオミヨウの薄味アレンジは数曲の起用だと映えるんですけどこういった全面起用だと良さが出ないなと思いました。
楽曲自体は特に何かを変えたわけでもなく今まで通り…という感じなので、アレンジが全体的に薄味になったのがよく目立ってしまうアルバムですよね。