makiharabestlisten 2019年10月23日発売、槇原敬之のカバーアルバム「Listen To The Music」シリーズの総集編的ベストアルバム。全15曲収録。CDのみの通常盤、収録曲のMV入りDVDを同梱した初回限定盤共々SHM-CD仕様。さらに同年12月4日は2枚組のアナログレコード盤でもリリース。収録曲は全形態同一。本レビューは通常盤のレビューとなります。

 SONY時代の1998年に「1」、東芝EMI時代の2005年に「2」、そして自主レーベルBuppu Labelから2013年にリリースされた「3」、これらの楽曲を対象にセレクトされた12曲に、オリジナルアルバムの初回盤にのみ収録されていた「WHAT A WONDERFUL WORLD」(ルイ・アームストロング)、そして新録曲として「若者のすべて」(フジファブリック)、「聞き間違い」(YUKI)の2曲を収録。曲順は基本的にほぼリリース時系列順に並んでおり、「1」と「3」の両方でセルフカバーされた「Rain」(大江千里)は「3」のバージョンが選ばれています。なお、発売元は現在旧東芝EMIを傘下に加えたユニバーサルミュージックが担当。また、ベスト盤にも関わらず歌詞ブックレットには各楽曲ごとの担当楽器等やミキサーの名前が記してあり、懐かしい名前もチラホラと散見されています。

 既にソングライターとしての地位を獲得していた時期にアレンジやボーカリストとしてのアプローチを試みた「1」、事件後に提唱される「ライフソング」的な思想要素を核にしたと思われる「2」、自身のリスペクトアーティストの曲を楽しく歌っているかのような「3」と、ナンバリング毎に根底のコンセプトが異なるこのシリーズですが、今回はシンプルにこれまでの作品の中から各アーティストの代表曲を1曲ずつ厳選した名曲カバー選集といった趣。どれも一般的に耳馴染のある曲ばかりなので、これまでのシリーズを体感してこなかったライトな層にも手軽に取れるのは好ポイント、と思う一方で、ボーカリストとしては「ヨイトマケの唄」(美輪明宏)や「時代」(中島みゆき)など、オリジナルの歌い手の情念と比べるとどうしても軽いと感じてしまうカバーもあるのが正直なところ。ただ、これは表現力というよりも声質の個性の違いであり、「traveling」(宇多田ヒカル)、「MAGIC TOUCH」(山下達郎)などに関しては軽快なアレンジと相俟ってその声がハマっていると思いますし、特に新録カバーの「若者のすべて 〜Makihara Band Session〜」は楽曲・声質・バンド演奏が上手く噛み合った名カバーで、本アルバムでの一番の聴きどころではないかと思いました。

 このアルバムを皮切りに、デビュー30周年に向けての提供曲セルフカバーアルバム発売やベストアルバム等の企画が動き出した矢先の2020年2月、皆様ご存知の通り、覚醒剤所持の容疑で二度目の逮捕となってしまった彼。個人的には前回1999年の逮捕が「クリーンなイメージの槇原敬之がまさかの…」ということでかなりショックが尾を引いた経験があり(直後の日本武道館のライブに行く予定でした)、それに比べれば今回はショックは少ないのですが、これから盛り上がるはずだったデビュー30周年にかなりのミソを付けてしまった、という点ではとても残念です。