kan02 1990年末から1991年春にかけて「愛は勝つ」が大ヒットを記録、一躍知名度を大幅に上げたKAN。その後「プロポーズ」「KANのChristmas Song」「まゆみ」等の代表曲をリリースしながらポリドールには1995年まで在籍。今回の「Artist Archive」では、ポリドール後期に彼がリリースした全オリジナルアルバムを1枚ずつレビューいたします。

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KAN ポリドール時代後期(1991〜1995)全オリジナルアルバムレビュー


ゆっくり風呂につかりたい
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 1991年5月22日発売、6thアルバム。全9曲収録。
 「愛は勝つ」の大ヒット中に制作。同年4月に「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ/ときどき雲と話をしよう」の両A面シングルが先行で、本作発売後の7月に「プロポーズ」がシングルカットでそれぞれリリースされている。
 KANらしからぬギター一本での伴奏の「発明王」から始まり、ルックスのコンプレックスを逆手に取った「決まりだもの」、彼女自慢と思いきや実は…の「僕の彼女はおりこうさん」、男女のやり取りを種ともことのデュエットで表現した「信じられない人」など、前作にはなかったコミカルな楽曲が多い。これらの曲の間に真摯に一人の女性への愛を綴ったバラード「永遠」が中盤に出てくるのはかなり浮いている気も(苦笑)。なお、ドラマ主題歌になり本人もチョイ役で出演した「イン・ザ・ネイム〜」は後のインタビューで「愛は勝つ」のプレッシャーに勝てなかったと語っていており、スマッシュヒットにも関わらずその後のライブでも演奏されず公認ベストにも選曲されない封印楽曲的な扱いになっているが、個人的にはそこまでするほど悪い曲ではないと思う。
 アルバムタイトル通りに湯船につかったジャケットは当時から賛否両論(否のほうが圧倒的だった記憶・笑)。このジャケットが当時の「歌うバラエティタレント」的な見られ方をされていたのを助長した気も。作品全体はライトな雰囲気で非常に聴きやすいので、ジャケットに惑わされずに聴かれることをお薦め。


TOKYOMAN
kan7
 1993年2月25日発売、7thアルバム。全10曲収録。
 ベストアルバム「めずらしい人生」を挟んでの久々のオリジナルアルバム。前年11月のシングル「死ぬまで君を離さない」のカップリング「KANのChristmas Song」がCMに起用されてクリスマスの時期にチャートを上昇。またアルバム発売後に三ツ矢サイダーのCMソングとしてシングルカットされた「まゆみ」もロングセラーとなるなど、彼の代表曲を2曲収録。なお、前年のシングルカップリングだった「Day By Day」はボーカルが再録されている。
 本人が30歳を過ぎ、こういった曲も出しておかなければ(大意)ということでシングルリリースされた「丸いお尻が許せない」や、ライブツアーで踊ることを前提に作られたと思われるダンスナンバー「孔雀」などの新機軸と、ラブバラード「MOON」、失恋ソング「君がいなくなった」といった従来の路線がバランス良く混ざった1枚。ラブソングに関しては次作以降になると直球な歌詞が減り出すので、本作はこの時点でのKANの音楽の総まとめ的な印象を受ける。前作と異なりジャケットもお洒落(?)で手に取りやすい。前述のヒット曲もあるので、KAN初心者には「野球選手が夢だった。」と並んで入門に最適のアルバムである。
 余談だが、本作収録の全楽曲はフェードアウトせずに完奏で終わる。なので発売当時のインタビューで「今作はノン・フェイドアウトがコンセプト」とか言っていた記憶があるが冗談なのか本気なのかは定かではない(笑)。


弱い男の固い意志
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 1993年12月10日発売、8thアルバム。全10曲収録。
 「TOKYOMAN」から1年を置かずのリリースだが、元々前作は制作が長引いて発売が延期になっていたという経緯があるらしく、今回のアルバムタイトルの「固い意志」とは、年内に発売を遂げること、という意味だったらしい(これも当時のインタビューより)。シングルは一ヶ月前の先行シングル「いつもまじめに君のこと」1曲のみ。4thアルバムから続く恒例のシングルカットなどは行われなかった。
 冒頭に「ラジコン」、最後に「朝日橋」というピアノ弾き語り楽曲を配置、また「Cover Girl」「秋、多摩川にて」などピアノが目立つバンドサウンドの楽曲が多く、ピアノ主体のアルバムというイメージだが、帯には「異色の話題作」と冠されたダンスナンバー第2弾「甘海老」がプッシュされているのは若干の違和感(?)。また、全体的に失恋、あるいは報われない片想いなどを綴った曲が多く、明るい曲調が多い割には妙に切なくなってしまうアルバムでもある。
 次作「東雲」と並んでKANの中では作風の過渡期にあたるアルバムか。


東雲
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 1994年11月26日発売、9thアルバム。全10曲収録。
 アルバムタイトルは本作を制作したレコーディングスタジオの住所から採った、とのこと。シングルは同時発売で「Sunshine of my heart」、翌年に「すべての悲しみにさよならするために」「東京に来い」がそれぞれシングルカットされた。2009年には所属事務所後輩の松浦亜弥が「結婚しない二人」をカバーしている。
 ピアノ一本で背が低いというコンプレックスを歌う「牛乳のんでギュー」という曲もあるが、前作ほどピアノの目立つ曲はなく、むしろ「悲しみの役割」「星屑の帰り道」のようなアコースティックギターを軸にした楽曲の印象が強い。アルバム曲で明るい曲は帰郷をテーマにした「West Home Town」ぐらい、また比喩表現が大変アダルトな「ホタル」、大人の恋の形を描いた「Girlfriend」など、グッと精神年齢を増した歌詞世界が展開されるので、従来のKANのラブソングやコミカルな曲調を期待すると戸惑うかもしれない。筆者もリアルタイムではそう感じたが、年を重ねて今となってはKANのオリジナルアルバムの中で一番お気に入りの作品となっている。
 本作のシングルカットをもって彼のポリドール時代は終了。1996年よりマーキュリーに移籍となる。