KARA 1983年にヤマハのポプコンでグランプリを獲得、その後、永井真理子への楽曲提供やキングレコードのアニメ関連の挿入歌を手掛けた前史を経て、1989年に公式デビューを果たした辛島美登里。活動前期はファンハウス、中期は東芝EMI、後期はソニー、テイチク、ユニバーサルを渡り歩くなど、所属レコード会社の移籍遍歴が多く、過去所属していたこれらのレコード会社からベストアルバムが数多くリリースされています。年の瀬も押し迫り、ヒット曲「サイレント・イヴ」の季節が到来間近ということもあり、今回の「CD Review Extra」では、そんな彼女の公式デビュー以降の楽曲を扱った全ベストアルバムをレビュー。「続きを読む」からご閲覧ください。
辛島美登里・全ベストアルバムレビュー


Zinc White
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 1991年10月25日発売、初のベストアルバム。全13曲収録。
 前年末に「サイレント・イヴ」が大ヒット、年が明けて3rdアルバム、数枚のシングルリリースを経ての発売。過去の3枚のオリジナルアルバムからのセレクト(+リミックス)に加え、当時の最新シングル「夏色物語」、カップリング「黄昏を追い抜いて(New Version)」(デビューアルバム収録曲のリメイク)、新曲「草原のささやき」「Snow Parade」を収録。「サイレント・イヴ」はオリジナルバージョンではなく、ピアノ弾き語りバージョンで新録。このバージョンが聴けるのは本作のみ。
 デビューしてまだ2年半、楽曲数も足りない中、時期的に「サイレント〜」の需要を見込んで企画された感の強い早過ぎたベスト盤、という感は否めないが、ここまでの3作のオリジナルアルバムからのダイジェスト盤、と思えばそれなりに楽しめる1枚。なお、やけに厚めの三方背ケースの中にCDプラケースの他に歌詞カード兼用のフォトブックレットが封入されていたりと、装丁はなかなかに豪華。


Silent Eve -MIDORI KARASHIMA BALLAD SELECTION-
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 1994年10月5日発売、バラードセレクションアルバム。全14曲収録。
 この時点で6thアルバムまでをリリースしていた彼女だが、本作は金子文絵プロデュースだった5thアルバムまでの選曲。全曲何らかのアルバムに収録された楽曲であり、このアルバムでしか聴けない曲はない。
 前ベスト以降のヒット曲「あなたは知らない」、そして初のオリジナル音源でのベスト収録を果たした「サイレント・イヴ」が二強。その他は曲調もだいたい同じ(ほぼ失恋ソングか片想いソング)のミディアム〜バラードが延々と続く。シングル曲もあまり意識して選ばれておらず、ベストの中でも辛島上級者向けのマニアックな内容である。


HELLO GOODBYE
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 1995年3月25日発売、「前向きなメッセージを込めたベスト・アルバム」(CD帯より)。全14曲収録。
 年明けに東芝EMIへ移籍、本作より一ヶ月前に7thアルバムをリリースした矢先の古巣ファンハウスからのベスト。約半年前の「Silent Eve〜」と同様、金子文絵プロデュースの5thアルバムまでが選曲対象。各シングルのカップリングだった「輝きの瞬間」「夢をつないで」「さよならを言わなきゃ」の3曲がアルバム初収録。
 「前向きなメッセージ」といっても、彼女の作風上飛び抜けて明るい曲はないが、軽快なアップテンポの曲が集められたり、「笑顔を探して」「夢の中で〜Graduation〜」「夕映え」「瞳・元気〜都会のひまわり〜」「チャンスの卵」などのシングル曲も積極的に収録されており、前述のカップリング曲収録も含めて、この後も乱発されるファンハウス期対象のベストの中では存在意義の高いアルバム。王道ベストの次に聴く1枚としてお薦め。


SINGLES
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 1997年6月21日発売、古巣ファンハウスよりリリースされたシングルコレクション。全16曲収録。
 デビューシングル「時間旅行」から、「それぞれのメリー・クリスマス」まで、1989年から1993年までの全シングルを時系列順に収録。「それぞれの〜」はアルバム初収録。辛島がファンハウスに在籍していたのは1994年までだが、その年にリリースされたシングル2枚は収録時間の都合か未収録で、ファンハウス期の全シングルを網羅はしていないのでご注意。
 時系列順でのベストは初だが、彼女の場合はデビュー当時からほとんど作風が変わらない(ボーカルの声質は初期はやや高めだが)ので、順番に聴くことで作風の変遷を〜という楽しみ方はあまりできない。総じて佳曲が揃ってはいるので、この時代のシングルを一気に聴きたい、というリスナーにはまあ最適か。


EVER GREEN
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 1999年1月20日発売、デビュー10周年を記念したオールタイム・ベスト。全15曲収録。
 当時在籍の東芝EMIよりリリースされた、久々の本人稼働ベスト。EMI期のヒット曲「愛すること」「あなたの愛になりたい」、移籍前の「笑顔を探して」「サイレント・イヴ」「あなたは知らない」の三大ヒット曲もレーベルの枠を越えてオリジナル音源で収録。また、当時の公式サイトでファン向けに選曲リクエストも実施され、その結果も反映されている模様。ファンハウス期の「星とワインとあなた」「最後の手紙」は新録(New Version)、「虹の地球」はNew Mix、そしてラストには新曲「サヨナラ」が収録されている。
 シングル曲をメインに、アルバムの佳曲も加えられた、この時点でのオールタイムとしては文句なしの選曲。10年後に「Alltime Best」がリリースされるまでは決定盤だったが、現在においてもこのアルバムでしか聴けないリメイクバージョンや楽曲があるので未だに価値がある。なお、本ベストの初回限定盤はアクリルケース仕様で、その中にCDや歌詞カードと共に小さい色鉛筆や手紙風の小物、ひまわりの種(!)などが封入されている超メモリアル仕様。通常盤CDは2014年にSHM-CDとして限定廉価再発もされている。


GOLDEN☆BEST
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 2004年12月22日発売、レコード会社共同企画「ゴールデン☆ベスト」シリーズの一作としてリリースされたベストアルバム。全16曲収録。
 ファンハウス(この時点では合併してBMGファンハウス)が販売元なので在籍時代の楽曲のみが選曲対象。曲順は若干シャッフルされているが、「SINGLES」とは13曲が重複。代わって初ベスト時の新曲「Snow Parade」、辛島単独名義のアルバムには初収録の「Merry Christmas To You」、「SINGLES」以降のシングル「くちづけの予感」がベスト初収録を果たした。
 在籍最終年の1994年の作品までフォローされているので、一応ファンハウス期のオールタイムとも呼べる体裁であるが、どうせなら移籍直前のリリースでアルバム未収録のままのシングル「流されながら」も収録して欲しかったところ(この曲は現在に至るまでアルバム未収録)。なお、本作は2000年に「The CD Club」というCD通販サイトで取り扱われていた「辛島美登里 ベスト・コレクション」と完全に曲目・曲順が同一。このCDはたまに中古屋の安売りコーナーで見かける。また、2009年にはBlu-spec CD仕様で再発された。


Alltime Best
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 2010年8月4日発売、デビュー20周年記念、本人選曲のオールタイム・ベスト。全15曲収録。
 2004年以降はインディーに移行、2007年にソニーに移籍してオリジナルアルバムをリリース。その後ブランクを挟んでの本作は再びソニーからのリリース。ファンハウス(この時点ではアリオラジャパン)、東芝EMIのオリジナル音源をメインにした10年振りの本人稼働ベスト。ラストに新曲「桜」を収録。
 「イエスタデイ」(1990年)から時系列順に配置。「EVER GREEN」との重複は6曲。「EVER〜」以降の楽曲は4曲だが、2000年代はリリース自体が落ち着いてきたのでこれぐらいの曲数が妥当かも。最大のポイントは本人によるライナーノーツで、見開き2ページにわたり全曲を1曲ずつ丁寧に解説しているので読み応えがある。
 「笑顔を〜」「サイレント〜」「あなたは〜」「愛する〜」「あなたの愛に〜」という五大代表曲(筆者が勝手に命名)も入っており、他の選曲も良い。これから辛島美登里の作品に触れたい方には本作から是非。


SUPER BEST / BEST OF BEST
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 2010年10月2日同時発売、Sony Music Shopや電気量販店、高速道路SAなどで流通している廉価版ベストシリーズ。
 ソニーに過去在籍していたアーティスト(TM NETWORKやPRINCESS PRINCESS、THE BOOMなど)の音源を利用して企画されるTHE 非公認ベストシリーズになぜか辛島が登場。恐らく旧ファンハウスがソニーに吸収されたことで彼女の音源が使用可能になったからと思われる。使用音源はファンハウス期に加えて2007年にソニーでリリースしたアルバムから「抱きしめて」「千の風になって」も選曲されている。
 「SUPER BEST」は「GOLDEN☆BEST」から上記2曲を差し替えた全16曲。「BEST OF BEST」はそこから4曲を削った全12曲。既視感ありありの内容なので取り立てて手に取る必要はない。それにしても公式のオールタイム発売の二ヶ月後にこのようなベストをリリースするソニーの思惑が謎である。


GOLDEN☆BEST -EMI YEARS-
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 2011年11月23日発売、再び「ゴールデン☆ベスト」シリーズでのベストアルバム。全15曲収録。
 今回はタイトル通り、東芝EMI在籍時のリリース作品のみに絞った初のベスト。「愛すること」を筆頭に、「水の星座」「くちづけは永遠に終わらない」「交差点」「湖」などのベスト初収録のシングル曲、「楓」「さよならを待ってる」などのカバーシングルを中心に編まれた構成でかなり新鮮。「サイレント・イヴ」はここでも収録されているが、今回は2000年リリースのシングルのカップリングに収録された新録バージョン(Re-Recording)でアルバム初収録。「虹の地球」は(New Version)と表記されているが、恐らく「EVER GREEN」収録のNew Mixと同一の音源。
 在籍時の全シングルが網羅されなかったのは残念だが、他のベストと被りが少なく、独自感は抜きん出ているのでお薦め。2013年には期間限定で廉価再発が行われた。