久々のライブレポートはある意味番外編。
 去る7月10日に東京・森下文化センターにて開催された、ジャズミュージシャン、ヴィンセント・ハーリングとエリック・アレキサンダーの来日公演を観に行ってきました。その模様をレポート。「続きを読む」からご閲覧ください。
Vincent Herring & Eric Alexander「The Battle JAPAN TOUR 2018」
2018年7月10日 東京・森下文化センター多目的ホール



 J-POPブログを10年続けている筆者ですが、近年ではモダンジャズのCDも聴くようになりました。
 CDを何十枚と聴いているうちに、一度ジャズのライブに足を運んでみたいと自然と思うようになりましたが、1950〜1960年代のジャズを好む身にとっては、その時代に活躍したジャズプレイヤーはだいたい鬼籍に入っている…という状況。そんな中、筆者愛聴のキャノンボール(兄)、ナット(弟)のアダレイブラザーズと縁の深いアルトサックスプレイヤー、ヴィンセント・ハーリングが今年の7月に一ヶ月日本全国を回るツアーを行うために来日するという情報を得て、ならばどこかで、と会場を探した結果、東京都内で入場料の安い(3,500円。ジャズバーだとチャージ5,000円以上はザラ)江東区の森下文化センターに行ってみることに。

 平日の夕刻、都営新宿線で初めて降りる森下駅。森下文化センターは駅から歩いて10分弱、「高橋のらくろード」(のらくろのイラストいっぱいの商店街)を抜けた先にあるこじんまりとしたホールでした。

20180710
 入り口にて。奥にいるのがヴィンセント氏

 会場は多目的ホールということもあって、ステージ以外は真っ平なところにパイプ椅子が並べられている体裁なので、当然段差はなく、前の列に座った人が背が高いと見えにくいのがやや難点でしたが、幸い見やすい席に座ることができました。
 年齢層は…高めでしたね。筆者の年齢でもかなり若いほうだったと思います。

 19時に開演。まずはジャズ評論家・瀬川昌久氏が出てきてご挨拶。出演者の簡単な紹介をしたあとで彼らを招き入れていました。1924年生まれ(!)なので御年94歳。まだまだお元気でした。

 公演は1stステージとして45分演奏して15分休憩、2ndステージ+アンコールで約50分ほど演奏して終演という流れでした。
 曲目は全部で9曲(1st、2nd各4曲+アンコール1曲)。曲名は完全には把握できなかったので一部割愛いたしますが、ヴィンセント、エリック両氏の近年のアルバムの中からの選曲が多かったようです。

各演奏者の印象

ヴィンセント・ハーリング(as)
 写真や演奏動画などで見て知ってはいましたが、まずガタイが良い(笑)。アルトが相対的に小さく見えました。キャノンボール・アダレイを彷彿とさせる、「モリモリとソロを吹く」という形容詞そのもののプレイを間近で見られて感動。最新アルバムの中から「Hard Time」「The Sun Will Rise Again」を披露。ソロでは本当に息もつかせず高速フレーズを吹きまくる野牛(?)のようなプレイスタイルなのですが、曲中で自分が演奏をしていない時はステージの袖で目をつぶって寡黙に出番を待っている佇まいも格好良かったです。

エリック・アレキサンダー(ts)
 ヴィンセント氏とほぼ同世代のテナープレイヤー。両氏が対等にソロを取るのが基本ですが、彼のみ完全にヴィンセント氏がはけてのソロタイム(「Still」)があり。独奏場面もあり見せ場が多し。なお、ヴィンセント氏とは対照的に、演奏していない時は客席に手拍子を求めたり、他の出演者(演奏中)のところに行って絡んだり…と結構ちょこまかと動いていました(笑)。バンドのムードメーカーっぽかったかも?

安ケ川大樹(b)
 クインテット(五人編成)で一ヶ月日本を回る最中なのですが、この日と前日(7/9、新宿)はレギュラーの中村健吾氏の代わりに安ケ川氏が担当。小柄でスキンヘッド。筆者の知り合いのミュージシャンに激似でしたが別人です(当たり前だ)。ステージ中央の奥に位置していましたが、中央前方にサックス両者が入れ代わり立ち代わり吹きに来るのでちょっと隠れ気味。とはいえ、一糸乱れぬボトムを支える演奏が素晴らしかったです。

泉川貴広(p)
 他のメンバーとは干支が二周ぐらい違いそうな若手(31歳)のピアニスト。ニューヨーク在住で、ヴィンセント氏の最新アルバムの共同アレンジャーも務めたとのこと。涼し気な顔でテクニカルなピアノプレイを連発してオーディエンスを魅了していました。なお、履いていた新しいナイキのシューズをヴィンセント氏にMCで弄られていました(笑)。

小林陽一(ds)
 日本のジャズ界の大御所ドラマー。ヴィンセント氏とは古くからの仲だそうで、長年来日公演をセッティングしているらしいです。「日本のアート・ブレイキー」と呼ばれているらしく、ソロになるとブレイキーっぽい力技のロールも決めまくっていましたが、バンドの大局を見回してステージを作っていく現場監督のような印象も。表向きはヴィンセント&エリックの二管がフィーチャリングされていますが、実質は彼のクインテット、という感じでしたね。なお、2ndステージ最後の曲はなぜか「ロッキー」というドラマーに楽器を任せて客席から写真を撮りまくっていました(笑)。
 
全体の印象

 アンコール含めて全9曲中、バラードは1〜2曲ぐらい。他はアップテンポかミディアム曲で、二管のフロントがテーマを吹いて各自アドリブ→ピアノやリズム隊のソロ→最後にまた二管のテーマで締め、というジャズの基本中の基本的な流れでほぼ全曲。どの曲も10分以上の演奏時間でしたが、CDを流して聴くと長尺の曲はだいたい途中で集中力がもたなくなるのですが(苦笑)、やはり目の前で熱く演奏してくれていると話は別。全く飽きることなく各自のソロを楽しませてもらいました。ライブの良いところってやっぱりこういうところだな、と思いましたね。
 ライブ録音のジャズCDだと結構(たぶんお酒の力も借りて)ノリの良いオーディエンスがその場を盛り上げたりする音や声が入っていたりするのですが(キャノンボールのライブ盤は特にそういうノリが多い・笑)、今回はホール公演で当然飲食の提供もなく、お客のノリは比較的おとなしめ。ですが筆者の性分としてはこういった静かで緊張感のある場所で聴くライブが好きなので、今回は絶好の会場セレクトでした。

 なお、小林陽一氏が昨年リリースし、ヴィンセント、エリック両氏も参加している「Take The Yellow Train」がツアー発表時の最新作(その後5月に次回作が発売)だったのですが、その中からの演奏はなかったような・・・。タイトル曲ぐらいは演奏すると思っていたのですがそこだけが残念。本人も「最初はレコ発のつもりだったのですが・・・」みたいなことを言っていました(笑)。

 全曲中、一番キター!と思ったのはアンコール。「Del Sasser」という曲を演奏してくれたのですが、この曲はキャノンボール・アダレイのアルバム「Them Dirty Blues」からの1曲。このアルバムが大好きな筆者としては最後の最後で一番盛り上がったのでした(笑)。

 終演後はヴィンセント氏の最新アルバム「Hard Times」を購入。ジャケットにサイン、そして本人から握手もいただき(すごい分厚い右手でした!)、ライブの余韻に浸りつつ会場を後にしました。
 初のジャズライブ体験でしたが楽しかったです。ヴィンセント氏は日本には結構な頻度で来るらしいので、また次のツアーがあれば足を運びたいですね。