karashimacashmere 2017年10月25日発売、辛島美登里のセルフプロデュースによるカバーアルバム。全12曲収録。

 2001年に邦楽ポップスのカバー集「Eternal-One」、2012年には小田和正のカバー集「Love Letter」をそれぞれリリース。3作目のカバーアルバムにあたる本作は、カバー曲8曲、セルフカバー曲4曲という構成。各曲基本的には辛島美登里の歌に、島健(ピアノ)、扇谷研人(ピアノ)、伊藤ハルトシ(アコースティックギター&チェロ)と、伴奏を担当するミュージシャンが1名ずつ寄り添うという、「歌+楽器一本」という最小単位のシンプルな編成でレコーディングされています。

 カバーは新旧邦楽ポップスの著名アーティスト・有名曲を中心にピックアップ。最近の作品は手嶌葵の「明日への手紙」ぐらいで、竹内まりや(「いのちの歌」)、中島みゆき(「糸」)、小田和正(「たしかなこと」)といったカバー企画の原曲アーティストとしてお馴染みの顔触れから、辛島美登里と同世代近い原田真二や久保田早紀など、主に80年代の音楽シーンに親しんだ世代が懐かしく聴けるような楽曲を採り上げている印象。どの曲も前述の通りシンプルにアレンジされ、ミディアムテンポ中心の各曲が映える趣に仕上がっています。そんな中で筆者のお気に入りは小泉今日子の「あなたに会えてよかった」。本作で数少ないリアルタイムに原曲のヒットを体験したナンバーということもありますが、アコギに乗せて辛島先生の切々と歌われる儚げな歌声がツボでした。

 セルフカバーに目を向けると全4曲とも弾き手は違いつつも全てピアノでの伴奏。EMI時代のヒット曲「愛すること」2010年のベストアルバムの新曲「桜」が初カバーで、どちらもオーソドックスな仕上がり。そしてまたまたカバーされた「サイレント・イヴ」は、序盤は原曲に忠実なピアノ演奏が歌が進むにつれてだんだんと盛り上がっていくというアレンジになっていますが、正直また新たなバージョン登場か、と若干辟易気味です(苦笑)。
 残る1曲はラストにボーナストラックとして収録された「雨の日」。この曲は彼女がグランプリを獲得した1983年のヤマハポプコンのエントリー曲であり、正式デビュー前にリリースされたいわゆる「非公認」ソングなのですがこの度本人のピアノ弾き語りにより堂々収録。「お寺の花子さんが〜♪」で始まる童謡・唱歌的な佇まいが結構衝撃的(?)ながら、なかなかの良曲なので、この曲がついに公式ディスコグラフィに載った、ということが何やら感慨深いです。

 アルバムタイトルの如く、辛島先生独特の「冬声」が似合うこれからの季節を暖かく演出する、地味ながら味わい深いカバーアルバムでした。