
90年代のJ-POPシーンを語るのに欠かせない存在である小室哲哉。これまでに何度も書いてきたことではありますが、筆者はTM NETWORKファンなので、小室を語る時は「TMの〜」と枕詞を付けてしまうわけですが、90年代からの音楽リスナーの方々の認識としては「プロデューサーTK」という肩書きが圧倒的だと思います。小室自身の楽曲提供自体は既に80年代半ばからアイドルシンガーを中心に頻繁に行われてきましたが、楽曲制作はもちろん、trfなどではトータルプロデュースの面でも辣腕を振るうようになり、タイアップや話題性、時代のニーズに応えた作品を矢継ぎ早にリリースしてミリオンヒットを連発した90年代以降の彼は一ミュージシャン、アーティストという立場よりも一段高いところから音楽シーンを見つめていたような気がします。
遡ること数年前の1996年に「TK MILLION WORKS」という8曲入りのコンピ盤をリリースしており、本作はその拡大版。「〜MILLION WORKS」に収録されたのはavex所属のアーティストの作品のみでしたが、今回はSME(篠原涼子、鈴木あみ、Kiss Destination)、Pioneer(華原朋美、dos)、PONY CANYON(未来玲可、tohko)、COLUMBIA(観月ありさ)版権作品も偏りなく選曲され、プロデューサーTKが90年代に残したヒット曲+αを大量セレクトした内容になっています。
3枚のディスクにはそれぞれコンセプトがあり、DISC 1はドラマや映画の主題歌、DISC 2はCMソング、DISC 3は小室が選曲した「TK SELECTION」を、基本的には時系列順に並べてあります。収録範囲で最も古いのは1993年にリリースされ、プロデューサーとしての出世作となったDISC 2の1曲目の「EZ DO DANCE」(trf)。それ以前の曲や、TMメンバーのソロをプロデュースした作品は収録対象外となったようです。ちなみにタイトルの「〜30 MILLION COPIES」とは、収録楽曲のトータルセールスが3,000万枚という実績に引っ掛けたものですが、若干下世話な気も(苦笑)。
さて、改めて現時点でこのコンピ盤をじっくりと聴いてみて思うことは、各DISC前半、90年代中盤過ぎぐらいまでの楽曲はサビが覚えやすくキャッチー。サウンドもtrfのようなポップス寄りのテクノだったり、安室奈美恵のような聴いていて自然に身体が動くようなダンスチューンだったり、小室自身もメンバーとして参加したglobeの初期ナンバーなどに代表されるような、ヒットシーンに向けて直球を放ったような作品が多数。PRODUCED BY TETSUYA KOMURO表記に箔が付き、怒涛のオファーが相次いだのも納得と言いましょうか。勿論各楽曲の完成度も高く、「時代が求めている音」にぴったりと寄り添った時期だったのだと思います。
やがて90年代末に向かうDISC後半になるとその様相が変化。この時期に登場した鈴木あみの曲には変わらぬポップなアプローチが続きますが、徐々にR&Bやヒップホップの要素を取り入れ、クール(で一見地味)なナンバーを既に実績のある上記アーティスト達に対してシングル表題曲としてリリースするなど、小室が志向する音楽性が移り変わってきたように感じます。ブームが飽和状態を迎えて収束に向かっていた時期ということもあり、セールス面でも減退が見られ、世間的にも「小室ブームは去った」的なイメージを助長してしまった作品群かもしれませんが、この時期の楽曲は2017年現在においても音的な古臭さ(いわゆる時代性)はそれほど感じさせずに聴けるな、ということを再認識できました。
そんな中で面白かったのがDISC 3。小室セレクトということもあり、対海外用(だと思われる)EUROGROOVEや、Kiss Destination前夜的なTK PROJECT、TKファミリー大集合の合唱曲「YOU ARE THE ONE」など、この手のコンピではないと収録されないような楽曲が有名曲に混じって収録されているのはポイント高め。さらに小室と浜田雅功とのユニット・H Jungle with tのシングルが3曲とも全て収録されているアルバムは本作だけ、というのも、未だに価値のある作品集だと思います。
2000年代に入ってからの小室のヒットと呼べる曲は残念ながらごく僅かということで、90年代のTK総括=現時点でのTKヒット代表曲集としても十分通用してしまうのが複雑な心境でもありますが、当時の音楽シーンにおいて一大ムーブメントを巻き起こした小室哲哉の足跡の数々を改めて実感できるコンピ盤でもありました。ここまでレーベルの垣根を越えた小室系コンピもないと思いますので、TKファンは機会があれば(廃盤らしいので中古かレンタルなどで)是非手にしていただきたいですね。
なお、本作は初回盤と通常盤が存在。筆者所有の通常盤は最大4枚のCDが収納できる厚めのプラケース仕様なのですが、初回盤は横長ケース仕様だそうです。この特殊パッケージ、扱いづらそうなのですが、これは果たしてTKのこだわりなのでしょうかね…?(笑)
コメント
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まあ、安室も華原もglobeもhitomiもベスト出した後ですし…。
10年くらい前に書店等でありえない値段で投げ売りされていたのを見た時は切なくなったものです。
私は通常仕様を店頭で見ることはなかったのですが、歌詞カードといい、明らかにその方が扱いやすいですね。
今では時代が一周して、中古市場でけっこういい値段になってるのに驚きです。
特に通常仕様はヤフオクだと入札合戦になりますよ。
初回の横長パッケージは保管スペースがなぁ…という感じがしますね(苦笑)。
通常盤は数年前に偶然中古ショップで見つけて結構安く買えたのですが、生産数的にレアだったのかもしれませんね。通常サイズの厚めプラケースなのでとても扱いやすいですが、歌詞カードが妙に細かい字なので若干読みづらかったりします。