getwildanalog 1987年4月8日、TM NETWORKのブレイク作にして代表曲「Get Wild」がEP盤レコードとして世に放たれてから今年でちょうど30周年。それを記念してかつて所属のSONYからは12インチアナログレコード盤、現在所属のavexからは「GET WILD SONG MAFIA」なるコンピレーションアルバムが今月それぞれ発売されるなど、思わぬ形で(笑)Get Wild界隈が賑わっている模様です。
 その流れに便乗して、今回の「CD Review Extra」では、TM NETWORK名義でスタジオ録音されて世に出た、様々なアレンジの「Get Wild」全9バージョン+αをリリース順に解説いたします。「続きを読む」からご閲覧ください。
発売30周年記念・TM NETWORK「Get Wild」
STUDIO REC Ver.全曲レビュー


※表記がない限り、作詞:小室みつ子、作曲・編曲:小室哲哉。



Get Wild
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 1987年4月8日発売、TM通算10枚目のシングル表題曲。
 同月よりスタートしたTVアニメ「シティーハンター」のエンディングテーマに放映期間の一年間を通して起用された。番組開始直後のリリースで徐々に売上ランクを上げ、オリコンチャートで初のTOP10入り(最高位は週間9位)、ロングセラーとなって20万枚以上のセールスを突破した、彼らにとって初のヒットシングル。
 サビのメロディーを奏でる静かなイントロが終わると4つ打ちのバスドラが曲全体で展開、スネアは一切使用されず、エレキギターとタムでリフを繰り広げる斬新かつ野心的なアレンジ。歌詞はアニメの内容とは直接の関係はないが(主人公が街を出ていく歌詞)、モノクロの線画(?)を中心に構成されたエンディングアニメの雰囲気と良くマッチしていた。
 この後もTMはヒット曲を出し続け、この曲よりもセールスが上の曲は何曲もあるが、1994年の「終了」ライブ2daysでも唯一両日演奏されたり、TM復活後も歌番組にはこの曲で出演する機会が圧倒的に多いこともあり、一般的知名度でもずば抜けたTM随一の代表曲。筆者はリアルタイムで「シティーハンター」は観ていなかった(再放送で観た)が、番組宣伝CMのバックでこの曲のサビが流れており、その部分だけは知っていた。TM NETWORKというバンドを意識し始めるのはまだ先だが、初めて聴いた彼らの曲はこの曲、ということになる。


GET WILD'89
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 1989年4月15日発売、TM通算19枚目のシングル表題曲。
 翌月発売のリプロダクション・アルバム「DRESS」からの先行シングルとして「COME ON EVERYBODY(with Nile Rodgers)」「KISS YOU(KISS JAPAN)」と同時発売。全3作中本作(オリコン週間最高位3位)が最も好セールスを収めた。
 ボーカル以外のアレンジ・演奏を海外プロデューサーに委ねたリミックスバージョンで、ピート・ハモンドの手によりユーロビートに生まれ変わった。サビ部分のボーカルのサンプリング(「ゲゲゲッゲッゲッ〜」というアレ)を含めた前奏がとにかく長く、パーカッションのみから始まり徐々に楽器が増え、1コーラス分まるまる使ったイントロを経てようやく歌が始まった時点で1分30秒を経過。間奏やアウトロも長く総演奏時間は6分30秒超と、原曲より2分半長い。ダンス調になりノリが良く、ライブ映えするバージョンでもある。


Get Wild(techno overdub mix)
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 1993年8月21日発売、「TMN CLASSIX 1」収録曲。
 小室哲哉自らがリミックスを試みたテイクだが、実質は「GET WILD'89」のオケにテクノ風のシーケンスフレーズを足し、低音域を強調したマイナーチェンジバージョン。「CLASSIX」の中には原曲を大胆に解体したリミックス曲も数曲あるのだが、この曲はあくまで「足しました」という程度でインパクトは低い。強いて大きく変わったところを挙げるならば2コーラス後の間奏の部分か。なお、2017年4月12日には上記3曲に加え、オリジナル版のバックトラックを収録した12インチアナログ盤が完全生産限定盤としてリリースされる模様。


GET WILD(VER.0)
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 TMN「終了」ライブ直後の1994年5月26日にリリースされた5万セット生産限定ボックス「GROOVE GEAR」内のCDアルバム「GROOVE GEAR 1」に収録の未発表デモテイク。
 ほぼメロディーは完成、歌詞はついていないので小室自身が妙な擬音風カタカナ言葉で仮歌を歌っている。簡単なアレンジも組まれており、既にイントロのシンセやベースのリフの原型らしきフレーズが聴こえるが、パッケージ版では使用されなかったスネアの音も入っているなどあくまでプリプロレベル。


GET WILD DECADE RUN
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 1999年7月22日発売、通算29枚目のシングル表題曲。
 「終了」から5年を経てTM NETWORKとしての活動再開第1弾シングルとしてリリースされた、完全新規レコーディングの本格リメイクバージョン。なお、復活後のSONY在籍時のTM作品は同社内の小室哲哉プロデュースレーベル「TRUE KiSS DiSC」からの発売となる。
 アレンジはクールなテクノ風。イントロは30秒とTMにしてはそこそこの短さ(笑)ながら、2コーラスのサビまでは原曲の1オクターブ下で宇都宮が延々と歌う、という異色のアプローチがなされた。さらに1コーラスのAメロに歌詞が追加され(その部分の作詞は小室哲哉)、2コーラスのサビの前半が省略されるなど、歌の構成に目に見えた変更が見られ、そのおかげで「この街(TKブーム)を去って最初の場所(TM)に戻りたい主人公(小室の心境)」といった新解釈もできそうな歌詞となった。
 原曲のロック色とも、「'89」の踊れる要素とも違う新たなバージョンの誕生だったのだが、当時はもっと分かりやすく盛り上がれるアレンジにして欲しかった、というのが筆者の正直なところ。この後さらにバージョンの増えた現在においては、「まあこういうGet Wildもアリかな」と思うぐらいにはなった(笑)。
 1999年のTMのリリース活動はシングル3枚。オリジナルアルバムを制作しないまま翌年からはSONYから離脱してしまうので、2004年のデビュー20周年時の記念リマスターCD-BOX内の特典CD(後述)を除けば、一般的にアルバムで聴けるようになったのは2012年発売の「ORIGINAL SINGLES 1984-1999」が初。


GET WILD DECADE RUN(112 CLUB MIX)
getwilddecaderun
 上記「GET WILD DECADE RUN」のカップリング曲。
 元々実験的な作りになっていた「〜DECADE RUN」の原曲を基に、音の抜き差しを中心にしてリミックスを試みたトラック。2コーラス目のサビでコードが抜け、間奏以降は「Get wild and tough」「Get chance and luck」がひたすら連呼されて最後のサビさえも覆ってしまい、終盤部分はほぼインスト状態。カップリングならではのやりたい放題の実験ナンバー。数あるGet Wildの中でもマニアック度では一、二を争う作品だと思う。


【番外編】Get Wild(マキシ盤)
GETWILD99
 1999年8月21日発売、「Get Wild」「GET WILD'89」に加え、当時鈴木あみがカバーしてヒットしていた「Be Together」のオリジナルを収録したマキシシングル。
 一ヶ月前の「GET WILD DECADE RUN」、鈴木あみの「BE TOGETHER」の原曲を1枚で聴きたいライト層向けといった企画盤だろうか。特に告知もされずひっそりと発売された。なおこのCDのみTRUE KiSS DiSCではなく、旧所属のEPICからのリリース。


GET WILD DECADE RUN('99 Version)
tmkioku
 2003年2月5日発売、Rojam(インディーズレーベル)を経てR&C Japanに移籍後初のアルバム「キヲクトキロク 〜Major Turn-Round」収録曲。
 1999〜2002年の作品を中心とした蔵出し音源集の中の1曲として陽の目を見た、「GET WILD DECADE RUN」の完成前のラフミックス。完成版に比べると音の構成的には一本調子な感もあるが、ボーカルが極力素のままで加工されておらず、歌モノとしては「〜DECADE RUN」の中でも最も聴きやすいテイクかもしれない。
 元々完成版自体が1999年制作作品なのだが、ラフミックスに「'99 Version」と冠されているのが地味に謎。なお、同アルバムには2001年の元旦の沖縄ライブで演奏された「Get Wild(Live from 2001 RENDEZVOUS IN SPACE)」が収録されているが、「'99 Version」共々「GET WILD SONG MAFIA」には未収録となった。


【番外編】ALL the"Get Wild" ALBUM
TMWORLD
 2004年3月31日発売のデビュー20周年記念・全アルバムリマスター仕様のCD-BOX「WORLD HERITAGE 〜DOUBLE-DECADE COMPLETE BOX〜」の中に封入された特典CD。
 SONY在籍時の1984〜1994年+1999年にCDまたはライブ音源としてリリースされた「Get Wild」全11バージョンを1枚のCDに収めた「Get Wild大全集」。上記音源のうちR&C版権の「GET WILD DECADE RUN('99 Version)」以外の6バージョン+ライブCDやライブビデオで既出の5バージョンを収録。未発表テイクもなく正直あまり意味をなさないコンピ盤だと思うのだが、この時点ではアルバム初収録の「GET WILD DECADE RUN」「(同112 CLUB MIX)」が貴重といえば貴重か。バラ売りはされておらず、デビュー33周年にあたる2017年の3月になって近年のリマスターアルバムの音源を使用したBlu-spec2 CD-BOXとしてリニューアルされ、1,000セットの数量限定で販売中。


Get Wild 2014
tmdress2
 2014年4月22日発売、avexに移籍して迎えたデビュー30周年時のプロジェクトとして制作された小室自身の手によるセルフ・リプロダクションアルバム「DRESS2」収録曲。
 原型は前年に小室ソロ名義の配信リミックスアルバムとしてリリースされた中の1曲「Get Wild(2013 SUMMER)」とのこと。演奏開始からEDM調のイントロ→オリジナルのAメロで印象的だったエレキのリフ「ジャジャジャジャ」のサンプリング連打を経て、オリジナルに近いイントロフレーズに辿り着くまで約2分。その後は基本的にオリジナル曲に音色まで寄せた構成+ダブステップ風のリズムトラックで、「オリジナル+'89」を2014年時点の音楽シーンの時流に合わせてリメイクしたような雰囲気。
 本編は「〜DECADE RUN」と異なり、メロディーパートは歌モノとして普通に聴けるようになっている一方、イントロやアウトロでのサンプリングも含めた長尺フレーズは「ここまで長くしなくても…」と思わせるほど(苦笑)のキャッチーな部分とマニアックな部分が極端に分かれたバージョン。


Get Wild 2015 -HUGE DATA-
tmgetwild2015

 2015年3月21、22日の横浜アリーナ公演「30th FINAL」にて会場販売されたマキシシングルの表題曲。翌月4月22日に配信シングルとしてもリリースされた。
 上記の「Get Wild 2014」を、2014〜2015年にかけて行われた一連の30周年記念ライブで披露されたバージョンを基に再構築。メロディーパートは一部音色やフレーズが変更になっているが「〜2014」とそれほど変化がないのに対し、イントロは機械音声によるコーラス(?)や派手なシンセフレーズが大幅に追加され、「〜2014」でのオリジナルのイントロが出てくるまでの4分長、これはいったい何の曲か分からないほどにリアレンジされている。アウトロも相変わらず長いが、ここでもシンセフレーズが追加され、「〜2014」ほどマニアックさはない。1曲の演奏時間は11分13秒と、過去のスタジオレコーディング作品の「Get Wild」の中でも最大の長さ。



 …以上、「Get Wild」全9バージョン+αのレビューでした。
 様々なバージョンがありますが、大きく分けるとロック調のオリジナル、ユーロビートの「'89」、テクノの「DECADE RUN」、EDMの「2014」の4種類で他は派生テイクといったところ。今後も音楽シーンの変遷に沿って更なるバージョンが生まれるのではないか、と戦々恐々と(?)しています。

 さて、2017年4月5日の発売が迫った「GET WILD SONG MAFIA」。4枚組36曲すべてが「Get Wild」。ライブ音源も含めて21曲のTM名義バージョン、他アーティストのカバーやリミックスが15曲と、かつての「ALL the"Get Wild" ALBUM」の超拡大版と呼べるのではないでしょうか。ただし、上記でレビューした「GET WILD(VER.0)」ならびに「GET WILD DECADE RUN(112 CLUB MIX)」「同('99 Version)」に加えライブ音源の「Get Wild(Live from 2001 RENDEZVOUS IN SPACE)」は未収録とのことなので、コンプリートを目指す方はこれらのバージョンも是非入手されることをお薦めします(笑)。

 「GET WILD SONG MAFIA」はコレクターズアイテムの極みで、TMファンでも購入される方もそうそういないとは思うのですが(おい)、今回はこれまでTMのコンピ盤では成しえなかった、各レコード会社の協力(SONY、R&C、avex+カバー先のレコード会社)を得ての企画盤。この機会がいつかレコード会社の垣根を超えたオールタイム・ベストをリリースするchance and luckになれば…という筆者の願望を添えて、今回の「CD Review Extra」、wild and toughな長文レビューを締めさせていただきます。