
井上ヤスオバーガーは、バンド活動を経て現在はソロとして活動中の京都在住のシンガーソングライター。一年の大半をほぼライブツアーに費やし、全国を渡り歩いて歌い続けているとのこと。基本的にはギター一本で弾き語るライブスタイルなのですが、本作は全曲「井上ヤスオバーガーバンド」なるバンド形態にコーラスやパーカッション、アコーディオンなどのゲストミュージシャンを招いてのバンド演奏。また、収録曲中、既発表音源である「ココロの旗」「シンガーソングライター」は新たに再録されたもののようです。
そんな彼の作品、一聴して強いインパクトを受けるのはやはりその歌声。やや高めのハスキーなボーカルは、分かりやすく例えるならば真心ブラザーズのYO-KINGの声を少し甘くしたような感じ…と形容すればイメージしていただけるでしょうか。個性的な声質の一方で活舌は良く、歌詞はとても聴き取りやすいという長所があり、「雨が降ってるの?」「君なんかいなくなっても」など、日常の身近な出来事から書き起こした心象風景をリスナー側にダイレクトに伝える役割をしっかりと果たしている「シンガーの声」という印象を受けました。
楽曲を構成するメロディー自体は親しみやすく、フォーク寄りのロック調といったところ。アレンジ自体も「花と雨の詩」などでは一部打ち込みを導入しつつも、斬新な試みをせずに一般的なバンドスタイルで、アップテンポな曲でも土のようなボーカルと相俟ってどこかのどかな雰囲気も感じてしまうのですが、これがまた相性が良いと言いますか、ボーカルとバンドがちゃんと喧嘩しないで溶け合っているのは聴いていて心地良さがあります。その最たる例が冒頭のタイトルチューン「すべてを音楽にかえる」。ピアノ一本とパーカッションのみの歌い出しから始まってどんどん楽器がレゲエ風のリズムを刻んで重なっていき、最後はコーラス隊も加わって壮大になり盛り上がっていく展開は歌詞も含めて鳥肌モノ。
全編を通してキャッチーなメロディーと独特の歌声が淡泊すぎず、過剰すぎず、1時間弱の演奏時間もスルっと聴ける良盤。公式MVとしてアップロードされているシングル「自転車乗りの唄」の雰囲気を気に入った方にはその延長線上のアルバムとして、是非お薦めしたい作品ですね。
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