
これまでは時期によって色々とメンバーが入れ替わってきた彼らですが、本作は前作「おかえりロンサムジョージ」の際のメンバーで固定。サポートミュージシャンを招いたドラムスも一人で固定と、ここ数年で一組のバンドとしての完全な形が出来上がったという印象。そんな彼らが紡ぎ出す楽曲群は…2011年のデビューアルバム「素直な自分」でのイメージを持ったままでは「これって同じバンド?」と思わせるほどの(笑)路線の大幅な変更が見受けられる作品達となっています。
具体的には、人間の醜い部分、下世話な部分、隠しておきたい部分を自ら曝け出す歌詞を得意としていたボーカル&ギターの松尾よういちろうの作風が「おかえりロンサムジョージ」を経てさらに普遍的、叙情的な内容に移行したという点と、ヒロヒサカトー、ジョニー佐藤といった他のメンバーが前作以上に楽曲制作に携わり、バンドに新たな風を与えたという点でしょうか。「透明人間フェスティバル」や「タスマニアエンジェル」のような松尾の手による意味不明のエネルギーに溢れた曲もあるのですが(笑)、儚い情景が思い浮かぶような「夢ひとつ」「帰郷」、不仲な親子を父の視点、息子の視点でそれぞれ描いた「バカ息子」「言ってはいけない言葉」、そして“ここは僕らの東京の我が家でした”と、店じまいする馴染みの店の最後の日を舞台にした暖かなバラード「閉店」など、感情の機微を切々と歌う楽曲には心打たれました。失礼ながら、まさかイノチク聴いて「心打たれました」なんて書く日が来るとは思わなかったのですが…(苦笑)。
演奏から受けるバンドとしてのダイナミズムや躍動感は枚数を重ねる毎に上がってきており、アルバムの完成度を高めている一方、アングラ感が薄れ、売りであったであろうかつての独自色が感じ取りにくくなった、というのが正直なところで、新しいファン層を獲得しそうな代わりに、特に初期の彼らの作品でファンになった層からは本作の世界観は綺麗すぎて賛否両論が起こりそうな気がします。まあライブでは今でも初期の下品な楽曲も披露しているようですが(笑)良くも悪くも垢抜けた彼らのこの一歩、個人的にはその決断を讃えたいところです。
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