
井乃頭蓄音団は、公式サイトの紹介によれば2008年に結成。本作には収録されていませんがJACCSカードのCMキャンペーンソングとして採用されていた「親が泣く」が代表曲といったところ。最初期は松尾遥一郎(Vo&G)と寺中イエス(Ba)の二人が中心になって活動する可変ユニットだったようですが、次第にバンドメンバーが固まり、2013年春までは上記二名の他、ジョニー佐藤(G)、ヒロヒサカトー(G)、とがしひろき(Dr)を加えた計五人が中心となった「ロックバンド」としての形態を取っていました。また、2011年4月6日にリリースされた本作では同列でのメンバー扱いとして沙知(Key&Cho、現・ハリネコ)やTHEラブ人間の谷口航大(G…とクレジットには書いてありますがバイオリンでは?)なども参加。なお、本作のCD盤は既に販売終了。現在はダウンロードでの音源販売にシフトしています。
そんな彼らの作風、王道を行く「フォークロック」なバンドサウンドと反比例するかのように、とにかく歌詞のテーマが強烈。本作帯の作品紹介を引用すると「郷愁・愛・性・友情…普遍的なテーマでありながらも、オブラートに包むことなく、直接訴えかけてくる心の叫び」。その内容はほぼ全ての楽曲を手がける松尾の私小説風な歌詞が多いのですが、上京して売れない現況を故郷の親に話せない「帰れなくなるじゃないか」、失踪や逮捕、この世を去った友人達のことを想う「ともだち」、別れ歌の「さよならと言ったわけ」「会いたくて仕方ない」、そして本人の性癖(?)を赤裸々に綴った「夏子さん」「公衆便所で」…等々、綺麗ごと一切なし、赤裸々に吐き出されるリアルな感情を込めた作品が並んでいます。
このリアル感が実に痛々しい…のですが、これを「カッコ悪い」と思わず、タイトル曲の「素直な自分」をはじめ、むしろちょっと共感をしてしまうのは、彼の描く詞の内容に筆者が当てはまる部分があるからなのかも(苦笑)。また、「今の自分が駄目なのは世の中が悪いからだ」的な主張や「こんな惨めな自分に同情してくれ」的なフレーズがなく、あくまで自分と向かい合った結果出てきた自虐的な世界観をメロディーに乗せて歌う、という作風だからか、自虐的なのに聴いていて不快な気分にならない(引いちゃうようなエグくて下品な表現は多々ありますが・苦笑)詞の世界を、シンプルながらダイナミックなバンドを従えて歌うというスタイルは好印象を受けました。
そんな井乃頭蓄音団、本作発売から4年を経過する間に寺中、とがし両氏の脱退、新メンバーの加入があり、現在のメンバーは四人。この後ライブアルバム1枚、本作で感じた「癖」を意図的に減らしたオリジナルアルバム1枚をリリースと地道な活動が続いており、一部の愛好家(?)には知られているものの、まだまだアングラなバンドという印象が漂う彼らですが、最近では渋谷のB.Y.Gやフジロックにも出演し、今年末には渋谷WWWでワンマンが決定しているなど、少しずつその知名度を広げつつあるようです。かくいう筆者も彼らのライブには何度か観に行ったことがありますが、失笑しつつもなぜかスッキリした気持ちになって帰路につく、という経験が結構病みつきです(笑)。万人に受けられるタイプのアーティストでは決してないとは思いますが、他に類を見ない彼らの作風、もっと世の中に浸透したら嬉しいですね。
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