begin25 「CD Review Extra」として3回に渡りエントリーしてきました、「BEGINシングル大全集」シリーズの全曲レビュー。完結編にあたる今回は、2015年3月18日発売の「BEGINシングル大全集 25周年記念盤」のDISC-3にあたる、2006年10月発売の「三線の花」から、現在最新のシングルである2013年3月発売の「春にゴンドラ」までの全8曲をご紹介。加えて「25周年記念盤」のレビューも行いました。「続きを読む」からご閲覧ください。
「BEGINシングル大全集」シリーズ全収録曲レビュー・後編
 ※特に表記のない場合は作詞・作曲・編曲:BEGIN。


1.三線の花
 2006年10月25日発売、28thシングル。
 元々は2005年に上演され、BEGINが音楽監修を担当した、三宅裕司主宰の劇団スーパー・エキセントリック・シアターの舞台「ニライカナイ錬金王伝説」の劇中歌として制作された楽曲のセルフカバーとのこと。
 2005年のデビュー15周年記念の一連のイベント終了後、活動休止報道がされ(本人達は否定)、その後リリースが滞ってシングルとしては1年10ヶ月ぶりの発売ということで、世間一般的は「活動再開楽曲」的な切り口で語られていたが、前述の経緯もあり、久々のリリースにも変に力まず、三線・島唄・掛け合いなどをバンドサウンドに溶け込ませるBEGINの王道楽曲に仕上がった。終盤でのお囃子はCDではノーズウォーターズの崎枝将人によるものだが、「BEGINライブ大全集」ではピアノの上地等が担当している。ストリングスアレンジは萩田光雄。
 夕暮れから夜にかけて浮かぶ白い月をバックにエイサー隊と共に演奏するPVが「BEGINシングル大全集 特別盤」の初回限定盤DVDに収録。

2.ミーファイユー
 2007年2月7日発売、29thシングル。
 タイトルは石垣島の方言で「ありがとう」の意。故郷を離れて20年近く、若い頃には言えなかった家族への感謝の気持ちを素直に表したナンバーで、当時アラフォー世代の彼らだからこそ描けた時間の重みを感じさせる楽曲だと思う。スライドギターとオルガンの音が特徴的なゆったりとしたスローバラード。
 同年3月発売の13thアルバム「オキナワン フール オーケストラ」に「三線の花」と共に収録。このアルバムは最初から最後までをライブハウスでの一公演としたコンセプトアルバムで、この曲は休憩のBGMから繋げられており、厳密にはアルバムバージョンとしての収録である。

3.ここから未来へ
 2007年7月25日発売、30thシングル。
 NHK地域応援キャンペーン「ここから未来を作ろう」テーマソング。ジャケットイラストはギターの島袋優が手掛けた。
 過去のありふれた日常を描き、流れていく時間を大切に育てていこう(大意)というメッセージソング。特筆すべきはAメロの途中からBメロを経てサビが終わるまでブレスの隙間がないほどの流れるようなメロディーラインが展開される点。「BEGINライブ大全集」のライブ音源ではさすがにメンバーのコーラスでフォローされているが、三人のコーラスワークの美しさが前面に引き立つ曲でもある。
 2008年の「ビギンの一五一会2」にてリアレンジバージョンが収録。シングルバージョンの収録は本作が唯一である。

4.僕らのこの素晴らしき世界
 2008年6月25日発売、31stシングル。
 ボーカル比嘉栄昇がホストを務めたトーク番組「いいはなシーサー」のイメージソングであると共に、2001年から毎年6月末に沖縄で開催されている「うたの日コンサート(カーニバルの年もあり)」のために制作された楽曲。
 彼らにしては珍しく難解なメッセージソングといった趣きの、いくつも解釈ができそうな歌詞であるが、個人的には、嬉しい歌から悲しい歌まで、すべての「うた」を肯定する暖かいナンバーだと感じた。「うたの日」に合わせてか「梅雨が明ける」「夏を呼ぶ雨」など、初夏を印象づけるフレーズが散見される。「誓い」以来のポップスをベースにした熱唱型バラードであり、15周年以降の彼らの作品の中で最も好きな曲。
 「BEGINシングル大全集 特別盤」初回限定盤DVDにPVが収録。本人達は出演せず、CGのキャラクターが全編に渡って登場する映像作品で、「世代から世代へ受け継がれていく音楽」を視覚的に感じられる逸品。また余談であるが、一五一会シリーズでルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」をカバーしているので若干この曲とタイトルが混同して紛らわしいのが難点(苦笑)。

5.イチャリバオハナ
 2008年10月22日発売、32ndシングル。
 ディズニーアニメ「リロ&スティッチ」の沖縄を舞台にした新作「スティッチ!」シリーズの第1期オープニングテーマ。カップリングの「イザヨイヨイ」も同作のエンディングテーマとしてオンエアされた。
 アニメの主題歌ということもあり、スティッチのキャラクターソング的な内容だが、中盤で突如演奏が止まり三線をメインにした沖縄テイストの展開を見せるBEGIN meets スティッチ的なコラボレーションも見受けられる、両者の特徴を上手く溶け込ませた作品だと思う。なお、ジャケットもスティッチと共にキャラクター風にディフォルメされたBEGINメンバーのポップなイラストである。
 翌年の8月の14thアルバム「3LDK」にも収録されたが、渋いアルバムの作風に配慮してか、最後(11曲目)にボーナストラック的に収録されている。

6.笑顔のまんま
 2009年1月7日発売、33rdシングル。
 前年夏のFNS27時間テレビの番組中にて、総合司会を務めた明石家さんまにエンディングテーマ制作を依頼され、1日足らずで1コーラスのみ楽曲完成して披露。その後CD化に際して完全版がレコーディングされた。コーラスに吉本興業の芸人が多数参加しており、本作は「BEGIN with アホナスターズ」名義でのリリースとなった。
 曲中にさんまの持ちネタ(持ちフレーズ?)を引用しているためか、作詞はさんまとの共作クレジット。タイトルからして「明石家さんま讃歌」なのだが(笑)、大団円的な楽曲展開を見せる朗らかな佳曲。なおその話題性も手伝ってか、オリコンでは「恋しくて」に次ぐチャート最高位(12位)をマーク。近年の彼らの代表曲といっていい知名度を持つ作品だと思う。

7.国道508号線
 2012年9月7日発売、34thシングル。
 デビュー20周年を挟み、シングルとしては実に3年半ぶりとなる楽曲。沖縄ファミリーマートの25周年記念ソングとしてオンエアされ、沖縄限定発売のワンコインシングルとしてリリースされた。
 沖縄でのCMソングということもあり、歌詞は完全に方言。「BEGINシングル大全集 25周年記念盤」のブックレットによると、沖縄本島、宮古島、石垣島の各方言で歌詞が構成されているとのこと。歌詞を見ればだいたい内容は分かるのだが、沖縄出身者以外では曲を聴いているだけでは何を言っているかがよく分からないと思うが、軽快なノリが楽しい作品である。508号線とは実際に存在しない架空の国道。

8.春にゴンドラ
 2013年3月20日発売、35thシングル。
 作詞・作曲は比嘉栄昇の単独名義。2009年のアルバム「3LDK」以降は、BEGINの共作でない作品にはメンバーの単独名が記されるようになったが、シングルで単独名義の作品は初。
 映画「旅立ちの島唄〜十五の春〜」主題歌。物語の舞台となる沖縄の離島・南大東島には高校がなく、中学を卒業した子供達が島を離れる時に乗る、港と船とを渡すクレーンのケージ(通称ゴンドラ)から見える景色を軸にして、見送る側と見送られる側の想いを描いたバラード。シチュエーションが特殊ではあるが、普遍的な別れと旅立ちを綴った穏やかな楽曲で、沖縄が舞台の曲ながら、三線は使わずにレコーディングされている。
 なお、彼らには珍しく初回限定盤が存在。分厚いCDケースの中に、芸術学博士・大城盛裕による書き下ろしテキストを収めた分厚めのブックレットが封入。アルバムには「25周年記念盤」が初収録となる。


 以上、DISC-3、収録曲全8曲のレビューでした。2011年の「BEGINシングル大全集 特別盤」には「笑顔のまんま」までの6曲、2015年の「同25周年特別盤」にて「国道508号線」「春にゴンドラ」の2曲が追加された形でリリースされています。
 「BEGIN円熟期」と呼んでも差支えなさそうなこの時期、音楽性も完全に安定、盤石の域に達し、「三線の花」「笑顔のまんま」という代表曲を産み出した10年間でもありますが、近年5年ではシングルはたったの2作(アルバムも2012年秋の「トロピカルフーズ」1枚)という遅々としたリリースペース。決して活動休止の類はなく、ライブを中心に地道な活動を続けているわけですが、この寡作っぷりは淋しい限りです。とはいえ、今年6月24日には待望のニューアルバムも発売が決定したらしいので、25周年を迎えた今年はリリース的にも期待したいところです。

 最後に「25周年記念盤」の簡易レビューを。今回は2,500円(消費税込)と廉価ということもあり、過去二作の大全集に付属した三方背ボックスパッケージや初回限定盤のDVDは付いておらず、CD3枚を収めるプラケース+歌詞カードといった構成。ジャケットは赤に変更され、「特別盤」でも書き足されたイラスト部分がさらに追加になるなど細かいマイナーチェンジがあります。また、ブックレット内の序文が変更、追加2曲のライナーノーツが加わりました。ディスクの色はDISC-1と2は2005年版に準拠。3の色は赤。DISC-3の追加2曲のマスタリングエンジニアは同ディスクをマスタリングした塚崎謙一朗が引き続き担当した模様です。
 「特別盤」から2曲のみ追加のアップグレード版…ということで、「特別盤」を持っている方には正直面白くない仕様だと思います(苦笑)。その微妙なアップグレード故にレンタルにもなかなか入荷されないのではないか、と思うのですが、本作を入手すれば25年間のBEGINの全シングルが入手できる(一部の両A面除く)という利点はやはり大きいですね。筆者も2005年版を持ってはいますが、DISC-3欲しさに購入してしまいました(笑)。

 すっかりベテランの域に達したBEGINですが、今度もその活躍を祈って「CD Review Extra」前・中・後編に渡った全曲レビューを締めたいと思います。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。