tmquit30 2014年10月29日発売、TM NETWORKの通算12枚目となるオリジナルアルバム。本エントリーでレビューするのはシングル「I am」「LOUD」のアルバムバージョンを含むDISC1、彼らの代表作「CAROL」組曲の再録がメインのDISC2で構成されたCD2枚組仕様。他にはDISC1のみのCD単品仕様、DISC1+DISC2に加え、PVやインタビューを収録したDVDが付属の3枚組仕様でも発売されています。

 オリジナルアルバムは7年振り、更にデビュー30周年記念盤の本作、本編扱いになるのはDISC1のほうですが、収録全16トラックのうち、3〜5トラック、10〜14トラックの約22分間をいわゆる「QUIT30」組曲としてカテゴリー。組曲で構成された彼らのアルバムといえば、1988年の「CAROL-A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-」が思い浮かびますが、あちらがイギリスの少女を主人公にしたストーリー性のある楽曲群であるのに対し、今回は「地球や時代を俯瞰する」といった、ここ数年の活動でのTMの「宇宙からの潜伏者設定」を踏まえた散文的(?)な内容であるなど、受ける印象がかなり異なります。シームレスで繋がった楽曲中にインストの「Entrance Of The Earth」や女声スキャットがメインの「The Beginning Of The End III」が挟まれる辺り、バリエーションでは「CAROL」よりも幅があるような気がしますが、歌詞の解釈が難解なのは、小室哲哉の手による文脈飛びまくりな歌詞が原因でしょうか(苦笑)。これはライブを体験すれば理解できるのかもしれません。

 組曲以外に目を向けると、特筆すべきはアルバム用に書き下ろされた新曲達。リードトラック的な「Alive」、往年のマイナー調TMの十八番「Mission to GO」、本作唯一の木根尚登作曲「STORY」、そして松井五郎が1985年以来29年振りに作詞を担当したラストナンバー「If you can」。これらの4曲がそれぞれに「TMらしさ」を感じさせる好楽曲で、ファンとしてはこういう曲を待っていた!!といったところ。また、サウンド面では基本的には「QUIT30」組曲は生演奏+打ち込み、他の曲は打ち込みメイン+生ギターといったアプローチなのですが、どちらがどちらを食うこともなく、また「DRESS2」で見せていたEDM的要素も若干後退しており、彼らの近年の作品の中では聴きやすいアルバムであると思います。

 DISC2は小室が2011年に国連のチャリティープロジェクト用に書き下ろした「Always be there」のTMバージョンをトップに、「Alive」の長尺リミックスをラストに配置し、その間に「CAROL」組曲の一部をリ・レコーディングした「CAROL2014」として4トラックで構成した全6トラック。これらの組曲、構築し直した、というよりも、原曲に忠実な生演奏の再現の上に現代的なエッセンスを注入した、という趣き。オリジナルとの比較では、特に原曲よりも中性的な面が増した宇都宮隆のボーカルが聴きどころでしょうか。こちらのディスクは単品販売はされていないので特典扱いなのかもしれませんが、昔のTM、特に「CAROL」に思い入れのあるリスナーには聴いて損無しの内容でしょう。

 20周年時のオリジナル作と名乗りながら半分は既発曲のリメイクだった前々作、小室哲哉が明らかにお疲れモードだった2007年の前作(翌年秋に逮捕…)と、期待を肩透かしされる内容が続いていた(苦笑)TMのオリジナルアルバムでしたが、本作は久々に小室の音楽への情熱、TMに賭ける本気度を実感できる「熱い」アルバムでした。