NKsingle_09 TM NETWORK(TMN)のメンバーの一人、木根尚登。プロデューサーの小室哲哉やフロントマンの宇都宮隆に比べるといささか地味な立ち位置の彼ですが、TMでは主に美メロのバラードを数多く作曲し、またシンガーソングライターとしてもソロデビューし、何枚ものアルバムをリリースしています。そんな彼が地道に音楽活動を続けてきたソロワークス、EPIC/SONY時代(1992〜2000年)に発表した全アルバムを「Artist Archive」として1枚ずつレビューいたします。



木根尚登 EPIC/SONY時代 全アルバムレビュー
 ※基本的に全作品の作曲は木根尚登。例外の曲のみ作曲者を表記してあります。


ROOTS OF THE TREE
KINE1
 1992年12月12日発売、TMN活動休止中の同年12月2日にリリースされたデビューシングル「泣かないで」を収録した1stアルバム。ミニアルバムとして全6曲を収録。
 プロデュースは木根と奈良部匠平の連名名義。作詞面では木根とTMのメインライター・小室みつ子が3曲ずつ担当し、奈良部が全曲の編曲を手掛けた。レコーディングではピアノやドラムスで外国人ミュージシャンが参加し、ほぼ生音で固められた普遍的で暖かみのある楽曲が並ぶ。
 彼の十八番ともいえるバラードやミディアムで構成されており、翌年シングルカットされた「思い出はクレセント」、ピアノをバックに切々と歌い上げる「I'm On Your Side」、そして自らの名字を英訳したタイトルチューン「Roots of The Tree」など、バラードの佳曲が多く収録されている。
 全体的にTMN期にリードボーカルを取った曲のイメージと大差なく、「TMの木根」の延長線上にある作品。インパクトには欠けるが、穏やかな輝きを放つアルバムである。


NEVER TOO LATE 〜夢のつづき〜
KINE2
 1993年9月9日発売、2ndアルバム。ファースト同様全6曲入りのミニアルバム。
 山口三平との共同プロデュース作品。木根は2曲の作詞を手掛けた。サウンドプロデュースのクレジットはないが、昼ドラ主題歌の先行シングル「もう 戻らない」他3曲を編曲した清水信之の手によるシンセメインのポップスアレンジの印象が大きい。93年当時の音、という時代性を感じる辺りが前作と対照的であるが、従来の木根のイメージを若干外したサウンドは新鮮だった。奈良部匠平も2曲参加しているが、前作路線で生音メインの「レイニーブルースが聞こえる」が妙に浮いている気も。
 なお、「Not Too Late」ではコーラスとして小室、宇都宮が参加。本作のリリース前月にはTMNのリミックスアルバム「CLASSIX」、そして同月末にはシングル「一途な恋」がリリースされ、TM10周年に向けていよいよ始動、という雰囲気であったのだが…。


liquid sun
KINE3
 1995年12月1日発売、初のフルアルバムとなる3rdアルバム。全11曲収録。
 1994年にTMN「終了」後、約一年を置いてシングル「ホントの君 ウソの君」にてソロ活動を再開。ソロワークに専念した1995年を締めくくる本作は初のセルフプロデュース作品。作詞は単独名義が2曲、吉田美智子との共作で1曲と従来よりも割合が減り、小室みつ子が4曲と最も多い。戸沢暢美、山本成美などが新たに参加。
 編曲は元BOYO-BOZO(宇都宮隆とのユニット)の石井妥師と、奈良部匠平が1〜8曲目まで交互に担当、9〜11曲目は嶋田陽一が担当。「ブリキのメロディー」など打ち込み中心の現代的な要素を持ち込む石井、「それでもいいと思ってた」などの生音+打ち込みのバランスの良い奈良部、「風 太陽 海」などの生音志向の嶋田と三者三様だが、不思議と全体的の世界観が統一されておりバラつきはあまり感じない。
 次作以降のアルバムはTK色、TM関連のミュージシャンが多く参加するようになるので、本作が一番「TMから最も離れた場所から音楽を作った」アルバムだと思う。


REMEMBER ME?
KINE4
 1996年11月25日発売、4thアルバム。KINE NAOTO Supported by TETSUYA KOMURO名義でリリースされたシングル「REMEMbER ME?」、大賀埜々に提供した「Close to the night」のセルフカバーを含む全10曲収録。
 初にして現在唯一の全曲小室哲哉プロデュース作品。TKブームの最中、彼の得意のダンスビートで…というわけではなく(笑)、木根の持つアコースティックな面を十分に尊重した生演奏中心のプロデュースで、この時期の小室にしては異色のサウンドでもある。また小室自身も2曲を楽曲提供。小室や前田たかひろが作詞を担当(木根は2曲)したり、華原朋美がコーラスで2曲参加していたり、小室人脈と思われるミュージシャンやエンジニアの名前がクレジットされているように、小室主導の面が多分にあるが、「Bless this Love」「Still feel loneliness」など、アコギやドラムで曲を引っ張るインパクトのあるアレンジは彼ならでは。TK作品だからか、2013年にはBlu-spec CD2でリマスター発売されている。
 なお、TM期のバラード「Sad Emotion」「Time Passed Me By」も木根バージョンで収録。小室は本作と同時期に宇都宮隆のシングルもプロデュースしており、この年はTMN「終了」後は距離を保っていた三人が少しずつ歩み寄っていく様子が見られた(翌月にはTMのベストアルバムも発売)。


The Beginning Place 〜始まりの場所〜
KINE5
 1998年10月31日発売、5thアルバム。全12曲収録。
 二年ぶりのオリジナルアルバムは再びセルフプロデュース、全曲作曲に戻ったが、過去の作品と異なるのは12曲中8曲の作詞、7曲の編曲を自身が手掛けているところ。作詞の面では映画主題歌として内容に寄り添ったという「UNKNOWN TOWN 〜見しらぬ街〜」、メッセージソング「Marching for new day」、ノスタルジックな「友よ、風に抱かれて」等々、今までのこなれた作家陣の作詞と一味異なる作品が並ぶ。編曲では葛城哲哉、阿部薫、山本英美、日詰昭一郎、嶋田陽一といった、長らく親交のあるミュージシャンが全面的に演奏に参加しており、アップテンポからバラードまで曲の幅は広いが統一感を感じさせる。今回は1曲のみの小室プロデュースのシングル「永遠のスピード」も収録されているが、打ち込み色の強さからか浮いている結果に。
 ラストを飾る「始まりの場所」というタイトルにも象徴されるような、5作目にして(作詞も含めた)シンガーソングライターとしての木根の出発点ともいうべき作品。


THE BEST OF NAOTO KINE 15 GOODIES
KINE6
 2000年3月23日発売、本人選曲による初のベストアルバム。全15曲収録。全曲リマスター、初回盤はCDケースの裏にシールが貼り付いている特殊ジャケット仕様。
 木根自身のセレクトということだが、ソロデビュー曲の「泣かないで」やドラマタイアップのあった「もう 戻らない」などの客観的に見れば選曲されて然るべき曲が選ばれず(2ndからは一曲も選ばれていない)、最新の5thアルバムから6曲選ばれているなど、偏った選曲がなされているが、セルフライナーノーツで1曲ずつ丁寧な解説がされているのが好印象。前述のTMカバー2曲も収録されており、TMファンにも比較的取っつきやすい作品かもしれない。
 新曲やアルバム未収録の曲もないが、翌年以降にはレコード会社を移籍するので結果的にEPIC/SONY時代の木根を総括するベストアルバムとなった。入門編…というには欠けている曲もあるが、木根ソロの雰囲気をざっとさらうには最適かも。


 以上、木根尚登のEPIC/SONY時代の全アルバム6枚のレビューでした。なお、今回の年代の楽曲群をファン投票により選んでリメイクしたベスト「キネソロ」が2012年にリリースされています。
 この後の彼の音楽活動は小室哲哉設立のインディーズレーベル「ROJAM」、その後「よしもとR&C」にレコード会社を移して続けられましたが、昨年2013年に公式にソロ活動休止宣言。現在はTM NETWORK30周年のスポークスマン(?)として各メディアを忙しく回っているようです。TMといえば、来月29日に7年ぶりのオリジナルアルバムもいよいよリリースされるということで、25周年の時は諸事情により(…)大々的に行われなかったTMのアニバーサリーイヤーを今度こそ盛り上げてほしいものです…と切実な思いを綴って(苦笑)今回のレビューを締めくくらせていただきます。長文にお付き合いくださり、ありがとうございました。