nagaigold 管理人お薦めの1枚をピックアップするコンテンツとして、ブログ開設当初から続けてきた「今週の1枚」。昨年は1年間で2枚しか紹介できなかったという事態を反省して(苦笑)今年はもうちょっと更新の頻度を上げていきたいと思っております。そんな中、今回は珍しくベストアルバムを選出。2011年8月17日にリリースされた、永井真理子の全シングル34曲をCD2枚組に収めた「GOLDEN☆BEST」をご紹介します。

 永井真理子…と聞けば、80年代後半から90年代の音楽シーンをリアルタイムで体験した方なら「ああ、懐かしいなぁ」と思うことでしょう。一方、2000年代以降の音楽ファンからは「(作詞提供などで)名前は知っているけど…」という反応になってしまうのは仕方のないことでしょうか。彼女は1987年にファンハウス(現アリオラジャパン)よりデビュー、80年代末から90年初頭にかけてブレイクを果たし、当時黎明期だった「ガールポップ」の第一人者として人気を博したシンガーです。1993年に結婚、1997年に東芝EMIに移籍し、2003年にオーストラリアに家族で移住。その後は自主レーベルにて長めのスパンで音楽活動を続けているそうです。本作はそんな彼女がファンハウス〜東芝EMI時代(自主レーベル以降はシングルのリリースなし)に残したシングルA面曲を時系列順に網羅。90年代に活動全盛を迎えたアーティストにありがちな、移籍に伴う非公認ベストも数多く発売されている彼女ですが、今回の「GOLDEN☆BEST」企画にあたっては、どうやら本人公認となっているようで、歌詞ブックレットの最終ページには本人からのメッセージが寄稿されています。そんな彼女の「シングル史」を振り返ってみたいと思います。

 まずDisc1、「Oh,ムーンライト」でデビューを果たし、ポップなサウンドをバックにボーイッシュスタイルで元気に歌い上げる…というのが初期の彼女のパブリックイメージ。「瞳・元気」「Ready Steady Go!」といった佳曲がこの時期に登場していますが、80年代後半のこれらの最初期の曲はシンセ音を重ねまくったアレンジが中心で、今聴くとかなり時代を感じさせる点は否めないでしょう^^;。まあこれは予想の範囲内。予想外だったのは彼女のヴォーカルで、てっきり「元気全開、ファイト一発!」みたいな(←何だそりゃ)背中をバシバシ叩く系のパンチのある歌声が炸裂…と思いきや、張りのあるヴォーカルの中に若干の哀愁のようなものが漂っており、単にガンガン行くぜ!というだけの歌い方をしていなかったのが新鮮な驚きでした。
 サウンド的に垢抜けてくるのが9枚目のシングル「ミラクル・ガール」辺りから。アニメ「YAWARA!」のオープニングテーマに起用され、知名度を一気に上げて以降、佐野元春が詞曲を提供した「White Communication〜新しい絆〜」、シングルでは初めて自身が作詞に名を連ねた「23才」、元気で前向きなキャラクターとして象徴的な「ハートをWASH!」などを次々とヒットさせており、この時期(89〜91年)の楽曲は今聴いてもブレイク直後の勢いを感じることができます。

 意外にも(?)最大ヒットであるバラード曲「ZUTTO」「やさしくなりたい」「泣きたい日もある」と、ミディアムも歌いこなし、徐々にシンガーとしての幅を広げてきた感のある彼女が、デビュー当時から続いていた金子文枝のプロデュース、根岸貴幸のアレンジから突如路線を変更し、セルフプロデュースに踏み切ったのは1992年、18枚目のシングル「Chu-Chu」から。シンセを中心とした旧スタイルから、エレキギターを中心に据えたロックスタイルへと劇的に変化し、ロングヘアーに70年代的ファッションという出で立ちでCDジャケットに登場するなど、ファンの間でも賛否両論が渦巻きまくった時期にDisc2では本格的に突入。永井真理子本人が作詞し、作曲は彼女とバックバンドのギタリスト・廣田コージ(=COZZi、後の旦那で編曲も担当、さらに後にYUIに楽曲提供)の共作、というクレジットがファンハウス末期の1995年まで続きます。
 この時期のシングル曲は、明らかに今までの「ポップでポジティブ、ボーイッシュな永井真理子像」を破壊しようとするアプローチが続き、「HYSTERIC GLAMOUR 2」「Cherry Revolution」なんて絶対ヒット狙ってないだろ!と思うような(苦笑)一般受けを無視した作品が次々とリリースされていったのですが、これが彼女の本当にやりたいことだったのか、新たにやりたくなったことだったのか…というのは判断に困るところで、個人的にもこれらの楽曲を今聴き返しても「う〜ん…」と頭を抱えてしまうのですが、そんな中でも「日曜日が足りない」「飛べないBig Bird」のような佳曲も聴けますし、セルフプロデュース自体のすべてが筆者の肌に合わなかった、とは思いたくないところです。

 その後、出産を経て東芝EMIに移籍した1997年以降になると、ドリカムの中村正人の作曲編曲となった移籍第1弾(29枚目)の「真夏のイヴ」を皮切りに、UKロックへの影響が見受けられる「私を探しにゆこう」、「泣きたい日もある」以来、久々に遠藤響子が登板した「あなたのそばにいて」「同じ時代」など、初期のシンセポップとも、セルフプロデュース期のロックともまた違った一面が新たに見えてきました。自作、提供に拘らずに、アレンジャーを含めて幅広く「音楽」を追求し始めた90年代終盤から2000年代序盤までの作品は、主婦業との兼任もあるのかリリース間隔が飛び飛びになり、セールス的には伸び悩み続けた時期ではありますが、母親になったからなのか母性を増したヴォーカルと相俟って、包み込まれるような柔らかさと強さを感じさせる楽曲が多い印象です。この後は前述の通り渡豪し、更にリリースタームも大きく開いてしまうようになるのですが、このまま日本で活動を続けていたら次はどんなシングルが制作されたのだろうか…と思うことしばしです。

 さて、改めて永井真理子の全シングルを聴いてみて、やっぱり彼女の曲の中で一番好きなのは「YOU AND I」(1992年・16枚目)だな、ということを再確認しました(笑)。この曲、初期とセルフプロデュース期の狭間にリリースされた曲で、オリジナルアルバムにも収録されず(ベストに収録されるのは今回で2回目)ヒット曲にも関わらず不遇な扱いを受けている曲なので、本人もスタッフもこの曲をもっと大切にしてもらいたいです^^;。と、冗談(?)はさておき、全シングル曲を収めた本作は、デビュー、ブレイク、路線変更、試行錯誤、そしてより幅広い音楽性へと徐々に変化していく「永井真理子の15年間」を成長アルバムのように楽しめる作品です。コアなファンならお薦めはオリジナルアルバムから、になるのでしょうが、私はライトリスナーなので、本作で十分お腹いっぱい(笑)。また、Disc2(特に後半)には世間的にはマイナーな曲ながら聴きどころの多い曲が揃っていますので、路線変更で離れてしまったかつてのファンの方にも、機会があれば是非チェックして欲しいベストアルバムですね。

 ちなみに、彼女の近況ですが、昨年、オーストラリアから日本へ帰国したそうです。アーティスト活動としては長年のブランクもあり、家庭のこともあるでしょうし、いきなり活動再開!というわけにはいかないでしょうが、12年振りに35枚目のシングルでもリリースしてくれれば面白いな、と思いつつ、久々の「今週の1枚」を締めさせていただきたいと思います。