sukimaworld 2013年8月22日、今年でデビュー満10周年を迎えたスキマスイッチがオールタイム・ベストアルバム「POPMAN'S WORLD〜All Time Best 2003-2013〜」をリリース。10年間に発表した全シングルや、アルバム収録の代表曲などを網羅した充実の2枚組となっています。今回の「CD Review Extra」では、そんな彼らの歩みを辿るべく(?)全収録曲を1曲ずつレビュー。まずはDISC1、2003年から2007年までの前半5年間の軌跡をご紹介。「続きを読む」からご閲覧ください。
スキマスイッチ「POPMAN'S WORLD〜All Time Best 2003-2013〜」収録曲全曲レビュー・前編


1.view
 2003年7月9日発売。切れ味鋭いアコギのカッティングに引っ張られるバンドサウンドが緊迫感を誘う、彼らのデビューシングル。
 歌詞も含め、曲全体のヒリヒリとした雰囲気はとても新人アーティストとは思えないクオリティの高さ。後年「奏」や「ボクノート」などでついた「スキマスイッチ=バラード」というイメージを持ってこの曲を聴くと結構驚くと思う。後にも先にもここまでスリリングなシングルはこの曲のみ。
 本屋でレモン型爆弾を盗んだ(?)大橋の車と常田のバイクがチェイスしたと思ったら浜辺で殴りあったり、スカッシュ対決したりと、イマイチ意図の不明な(笑)PVと相まってインパクト大の楽曲である。同年発売のミニアルバム「君の話」に別バージョンが収録。

2.君の話
 2003年9月17日発売のミニアルバム「君の話」収録曲。翌年の1stアルバム「夏雲ノイズ」にはミックス違いのバージョンで収録された。
 ファンク風のザックリした曲調に乗せて「君の話はもう聞き飽きた」と唄う「君」とは実は…というカラクリが含まれた歌詞の構成が面白い。大橋が大橋の話を聞くという凝ったPVが制作された。

3.奏(かなで)
 2004年3月10日発売、2ndシングルにして、彼らの代表曲。
 サビのドラマチックなメロディが印象的なピアノ中心のバラード。別離をテーマにした歌詞のようだが、離れる相手と「僕」の関係が曖昧で、ひとつの歌詞で複数の解釈ができる(と思う)スキマスイッチの歌詞世界のテンプレートとも言うべき楽曲。
 「view」「君の話」とユニークなPVが続いたが、本作のPVはさすがに(笑)曲のイメージに沿った叙情的な映像作品として仕上がっている。

4.ふれて未来を
 2004年6月16日発売、3rdシングル。
 「奏」とは対照的に、軽快なストリングスとブラスで彩られたポップな楽曲。PVでもメンバーが楽しげに弦楽器隊とセッションする様子が映し出されているような、明るいラブソング…なのだが、「常に監視してたい気分だよ」など、ぎょっとするような歌詞が出てくるのはこの時期の特徴か(笑)。
 個人的にはこの曲で初めてスキマスイッチのシングルをレンタルで手に取って気に入り、1stアルバム「夏雲ノイズ」を買いに走った記憶があるので、とても印象深い曲である。

5.冬の口笛
 2004年11月24日発売、4thシングル。
 暖かなミディアムバラード。表向きは優しげな歌詞の中に密かに毒を潜ませる・・・というのが初期スキマスイッチの作風の特徴だと思っているのだが、この曲は全編通して幸せ感の溢れる珍しい(?)1曲。
 翌年発売の2ndアルバム「空創クリップ」にはアウトロで大橋によるハーモニカ演奏を加えた「feat.Takuya ver.」で収録されている。

6.全力少年
 2005年4月20日発売、5thシングル。
 しなやかさと力強さを兼ね備えたピアノ+バンドサウンドが全編をリードする、彼らのポップ路線の代表曲。昔を懐かしむのではなく、今でも「全力で少年なんだ」と言い切るポジティブさが好印象。「奏」と並んで現在でもスキマスイッチの看板楽曲ということで、ベスト関連やライブアルバムでも常連である。
 PVでは大橋(ヴォーカル+ベース)、常田(キーボード+ドラムス)の一人二役、計四人編成で演奏している。

7.雨待ち風
 2005年6月22日発売、6thシングル。
 淡々と奏でられるピアノの和音に乗せて、徐々にバンド+ストリングスサウンドで盛り上げていく喪失感の漂うバラード。6分を超える長尺で、アルバムバージョンでは更にイントロが追加され7分近い大作になっている。
 地味ながら個人的には好きな曲であるが、他にも数々の代表曲的なバラードがある中で、本作はシングルとしてはやや知名度は低いか。オーロラのような背景をバックに佇むメンバー二人の遠景のジャケットは筆者のお気に入りである。
 なお、本ベストの「初回生産限定盤B」に付属の「DEMO TRACKS」にて、本作の原曲「夏雲ノイズ」が収録されている。アレンジの方向性は大体一緒だが、歌詞はかなり異なる。

8.キレイだ
 2005年7月20日発売、2ndアルバム「空創クリップ」収録曲。
 前年にw-inds.に提供した楽曲のセルフカヴァー。書き下ろしの提供曲ではなく元々あった曲の提供だったらしい。w-inds.バージョンのアレンジャーは日高智。ダンサブルなアレンジになっているが、スキマスイッチバージョンではイントロで珍しくエレキギターが登場したり、テンポも速かったりとかなり受ける印象が異なる。
 失恋を嘆く歌詞だが、「戻らないものはもう戻らない」「切ない歌なんて歌うのはバカみたい」など、どこか達観したシニカルさを感じるのが面白い。

9.飲みに来ないか
 2ndアルバム「空創クリップ」収録曲。
 発表当初はアルバムの中のポップな一曲であったが、缶チューハイのCMソングとして起用され、PVも制作された出世曲。
 喧嘩して出て行った(冷戦状態?)彼女の良いところを思い出して仲直りしよう(大意)という、彼らにしては珍しく明快なストーリー性のある歌詞である。アコギで弾き語りしたら盛り上がりそうな作品。

10.ボクノート
 2006年3月1日発売、7thシングル。
 体制リニューアル後、初のドラえもんの劇場版「映画ドラえもん のび太の恐竜2006」主題歌。だからなのかジャケットやPVの一部でもドラえもんが登場している。
 安定のバラード曲。歌詞はかなり内省的だが、後半に向かって徐々に光が射し込んでいき、「そして、君の声がする」から世界が開けるイメージで、救いのある一曲。「奏」「全力少年」に次ぐ第3の代表曲といったところか。
 余談であるが、当時同じくブレイク途上のレミオロメンが同じ発売日に「太陽の下」というバラードをリリースしたこともあり、どちらの曲を聴いてももう一方の曲を反射的に思い出してしまう(苦笑)。

11.ガラナ
 2006年8月16日発売、8thシングル。
 映画「ラフ」主題歌。久々にアッパーかつギラギラした曲がシングルとして切られた。雰囲気的にはどことなく「view」を彷彿とさせるが、歌詞のテーマはまったく異なり、こちらは前向きな恋愛応援鼓舞ソング、といったところ。3rdアルバム「夕風ブレンド」では次曲「スフィアの羽根」へ続くピアノのブリッジが追加されたアルバムバージョンで収録。
 現在のところ、スキマスイッチのシングルでは唯一のオリコン首位獲得作品である。

12.スフィアの羽根
 8thシングル「ガラナ」のカップリング曲。
 開放感のあるアッポテンポかつ、前向きな爽やかポップナンバー。ABC系「熱闘甲子園」をはじめとして2006年の高校野球番組の統一テーマソングとして起用された。なお、「熱闘甲子園」のテーマソングは前年にスガシカオが、一年挟んで2008年には福耳、2009年には秦基博と、一時的にオフィス・オーガスタのアーティストが占めていた時期がある。
 この年の夏の高校野球の決勝は高校野球史に残る一戦・・・だと思うのだが、書くと長くなりそうなのでここでは割愛(笑)。3rdアルバム「夕風ブレンド」にはアルバムバージョンで収録。

13.アカツキの詩
 2006年11月22日発売、9thシングル。
 3rdアルバム「夕風ブレンド」の発売を一週間後に控えた時期に発売された。
 穏やかなミディアムナンバーで、「ボクノート」や「ガラナ」などの王道さやインパクトには欠ける曲だが、じっくり聴いていくと何かじんわりとした曲の良さを感じるスルメ曲。この辺りは後年(2009年以降)の作風に受け継がれているのかも。なお、アルバムとシングルではアウトロがまったく異なる。個人的には予想外の終わり方をするシングルバージョンのほうが好きである。
 PVはフルアニメーションで制作され、メンバー二人もアニメキャラクターとして(演奏シーンのみだが)登場。

14.藍
 2006年11月29日発売、3rdアルバム「夕風ブレンド」収録曲。
 既にバラードを極めた感のある彼らの曲の中でも、恋の悩み苦しみを歌い上げた王道系バラード。アルバムでは1曲目に配置されていることもあり、アルバムのリード曲的な風格がある。2012年発売のセルフカヴァーベスト「DOUBLES BEST」では並み居るシングル曲を差し置いてファン投票2位を獲得。
 なお、本ベストのDISC1の収録曲の中で、2007年8月1日発売の初のベストアルバム「グレイテスト・ヒッツ」に収録されていないのはこの曲のみ。

15.惑星タイマー
 2006年7月12日にシングルで発売された、オーガスタ所属のアーティストによるユニット「福耳」への提供曲。
 同年より「福耳」に加入したスキマスイッチのプロデュース(作詞・作曲・編曲)による楽曲で、TBS系ドラマ「誰よりもママを愛す」の主題歌。
 3rdアルバム「夕風ブレンド」にはストリングを大々的にフィーチャーした原曲とは異なる壮大なアレンジで収録された。翌年発売の「グレイテスト・ヒッツ」で「福耳アレンジでの大橋単独ヴォーカルバージョン」の未発表音源として初出。本ベストにも同じ音源が収録されている。個人的にはこちらのバージョンが好みである。

16.マリンスノウ
 2007年7月11日発売、10thシングル。
 「雨待ち風」以来の喪失系バラードだが、抽象的な言葉で綴っていた「雨待ち風」とは対照的に、空気のように思っていた「君」を失って哀しみの海に沈んでいく「僕」の描写が具体的なところが強く印象に残る。「君のいない海を逃れようとしたけど」(1番サビ)「君のいない海で生きていこうとしたけど」(ラストサビ)、どちらも想い出の重さでどこへも逃れられないという表現が秀逸。
 オリジナルアルバム未収録で、「グレイテスト・ヒッツ」に収録。2007年の新曲リリースはシングル1枚のみ。そして秋に二人のソロ活動とスキマスイッチの活動休止が発表され、次作リリースまでは実に2年弱ブランクが空いた。


 ・・・以上、DISC1収録全16曲のレビューでした。
 2003年のデビューから活動休止に至る2007年までの楽曲を聴いて改めて思うことは、デビューしたてのアーティストにありがちな「初期の試行錯誤」的なものはほとんど感じられず、最初からほぼ完成形の音楽を世の中に送り出していたのだな、ということでした。個性的な面子の多いオフィス・オーガスタの中では比較的大衆性のあるポップな曲を作る彼らですが、作り込まれたアレンジのセンスなどは「売れ線」の一言では片づけられない細やかさも感じられ、大衆性とマニア性のバランスを上手く持ち続けた5年間の活動だったと呼べるのではないでしょうか。

 さて、「藍」の項でも触れましたが、このディスクは6年前のベストアルバム「グレイテスト・ヒッツ」の13曲目と14曲目の間に「藍」を挿入した他は収録曲、曲順、バージョンもまったく同じという、完全な「オールタイムベストやり直し」の態をとっており(苦笑)、本作の発売によって「グレイテスト〜」はその役目を終えてしまったかな、という感はあります。2009年以降の完全なベスト初収録の楽曲群が収録されたDISC2のレビューも近々行いたいと思いますが、このカテゴリは結構時間と体力を使うので(苦笑)、後編の更新は「目標:9月中旬ぐらい」と設定させていただきたいと思います^^;。
 長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。