BZ19881998 先々週に引き続き、今回の「CD Review Extra」は2013年6月12日発売のB'zの25周年記念ベストアルバム「B'z The Best XXV 1988-1998」の全曲レビューをお届けします。今回はDisc2、1994年秋の「MOTEL」から、1998年の「HOME」までの12曲+新曲の「HEAT」「核心」を加えた全14曲。「続きを読む」からご閲覧ください。
「B'z The Best XXV 1988-1998」全収録曲レビュー・後編


1.MOTEL
 1994年11月21日発売、15thシングル。
 この年リリースのアルバム「The 7th Blues」の路線をさらに暗くしたような、内省の極みの重たいミディアムバラード。安らげる場所のないままの逃避行、という救いのない歌詞とも相俟って、ダーク路線の最深部といった楽曲なのだが、個人的にこの曲は発売当時から現在に至るまで大好きな曲。当時のビーイングブームの中、飽和状態と化していたビーイングサウンドとは全く異なるアプローチが新鮮だったのかもしれない。オリジナルアルバム未収録だが、ファン投票ベスト「Treasure」「ULTRA Treasure」に収録されているので、ファン人気もそこそこある曲のようだ。
 当時のTVスポットやCDTVなどで流れていた、牢獄の中で二人が演奏するPVは長らく陽の目を見ることはなかったが、本ベストの初回限定盤DVDで遂に商品化。1番Aメロ→2番サビ→間奏ギターソロ→最後のサビの頭でここから!という時にフェードアウトしてしまうのが非常に勿体無い。

2.ねがい
 1995年5月31日発売、16thシングル。
 前作をもって「BE THERE」から続いていた制作集団「B・U・M」を解体。「B'zは二人である」ということの原点に立ち返った宣言をすると共に、本作は初めて稲葉がアレンジに名を連ねた作品。「B'z Consists of〜」の表記が登場するのもこのシングルから。
 本作より立ち上がったプライベートレーベル「VERMILLION」も含めて、明らかに94年の(俗に言われる)暗黒時代をリセットして新たなスタートを…という意気込みが伺えるのだが、この曲自体のAメロ、Bメロ部分はジャズ風アプローチで割と変化球気味。その反動かサビに来て急にキャッチーな方向に爆発するあたりが鮮やかで、95年型のB'zを印象づけるには十分な曲だったのかもしれない。なお、同年発売の8thアルバム「LOOSE」にはイントロを長くしたり、リズムを重たく変更した「"BUZZ!!" STYLE」で収録されている。
 PVも昨年までの泥臭い雰囲気から一変、稲葉も長髪をバッサリと切り、松本と共に洗練された衣装を着て演奏している。稲葉が足で水を蹴るシーンは結構有名かも。

3.love me,I love you
 1995年7月7日発売、17thシングル。
 イントロの駆け上がる旋律がインパクト大の明るい三連ブラスロック。B'zが飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃にリリースされた「Wonderful Opportunity」(91年アルバム「IN THE LIFE」収録)を彷彿とさせ、久々のポップ路線への回帰は嬉しかった記憶がある。文句ばかり言ってないで自発的に動きなよ、という歌詞のメッセージも好きな1曲。ここで完全に94年路線は断ち切られた感があった。ベースは珍しく打ち込みが使用されているが、アルバム「LOOSE」に収録されたのは明石昌夫が生ベースを担当した「with G Bass」バージョン。
 札幌で撮影されたPVはスーツ姿の稲葉が路上で跳ねたり、ラーメン屋ではしゃいだり、OLの座るベンチに腰かけたりとやりたい放題。松本もショーパブですまし顔でギターを弾くなど、見ていて楽しいというか、何でもアリな内容になっている。
 なお、タイアップ先はテレ朝ドラマの「外科医・柊又三郎」。このドラマは面白くて毎週観ていたのだが、中年医師が活躍する医療モノに、このドラマが合っていたとはさすがに思えなかった(苦笑)。

4.LOVE PHANTOM
 1995年10月11日発売、18thシングル。
 この年のツアー「Pleasure'95」のライブ演出用に作られた楽曲とのこと。曲自体はAメロとサビのみの実にシンプルな構成なのだが、オーケストラで仰々しく始まるイントロや、間奏でのラップ、アウトロでのオペラ歌手の歌唱など、盛り沢山の要素で構成されている。「愛のままに〜」に次ぐB'z史上第2位のシングルセールスを記録した曲だが、そのインパクトで90年代の彼らを代表する1曲だと思う。なお、本作より所属レコード会社が「Rooms RECORDS」に社名変更。
 バンパイアに扮した稲葉が高所から決死のダイビングを行うライブパフォーマンス(柱を登る途中でさすがにスタントにすり替わっていたらしいが…)はTVスポットなどでも流された。そのライブシーンとイタリアでのロケを組み合わせたPVが本ベストの初回限定盤DVDに収録されているが、他にも何種類かPVは存在するらしい。

5.ミエナイチカラ -INVISIBLE ONE-
 1996年3月6日発売、19thシングル。B'z初の両A面シングルの1曲目。
 「地獄先生ぬ〜べ〜」のエンディングテーマという初のアニメタイアップが付き、後発のジャケットにはぬ〜べ〜のアニメイラストの紙が外付けされたバージョンも作られた。
 昨年のシングルの振り幅が凄まじかったのに対し、今回はB'z王道のロックサウンドということで、想像の範囲内の佳曲といった印象。余談だが、この年松本が当時元TMNの宇都宮隆に楽曲提供(編曲も担当)した「少年」という曲は本作と音使いがそっくりなのが面白かった。オリジナルアルバム未収録で、98年の「Treasure」にファン投票により収録された。
 てっきりPVはないものと思っていたが、撮影されたもののお蔵入りになった素材を、本ベストのDVDでは1コーラス+最後のリフレインのショートPVとして再構成されて収録。まったく観たことのない映像で驚きであった。

6.MOVE
 1996年3月6日発売、19thシングル。両A面シングルの2曲目。
 後に日本人初のNBAプレイヤーとなる田臥勇太が出演していた「進研ゼミ中学講座」のCMソング。ライブの盛り上がり用ソング!といった感じの激しいハードロックナンバーで、両A面の「ミエナイチカラ」よりもこちらの方が好きで良く聴いていた。当時大学受験に向かう年頃だったので、「がむしゃらな日々は報われる」等の鼓舞されるフレーズには励まされた記憶がある。
 オリジナルアルバム未収録。「Pleasure」では選ばれず「Treasure」でもスルーされ、2000年のマストアルバム「Mixture」でようやくアルバムに収録された。実質半分2nd Beat集だった「Mixture」に収録されたせいか、両A面にも関わらずカップリング扱いの待遇が続いたが、本ベストでようやく報われた曲(?)。

7.Real Thing Shakes
 1996年5月15日発売、20thシングル。
 全英語詞、1曲のみ収録の500円シングルとして発売された。アンディ・ジョーンズをプロデューサーに迎えた作品で、企画モノ的な要素が多いためかオリジナルアルバムには未収録。
 終始鳴り響くエレキギターのリフで1曲作ったような感じで、ヴォーカルを抜いてもインストとして通用しそうなハードロックナンバー。稲葉の音域もAメロからかつてないほどのシャウト気味のハイトーンを連発して飛ばしまくる。ちなみに日本語訳はシングルCDのトレイの下に掲載されていた。
 2コーラス目のサビが省略されているがPVも存在。この頃の稲葉は金髪ピアスに身体にぴったりのスケスケ網タイツを履いたりして妙なエロさがある(苦笑)。

8.FIREBALL
 1997年3月5日発売、21stシングル。
 「No Synthesizers & Computers Used」とジャケットに記されている通りの完全生弾きのハードロックナンバー。ギターのみならずベースも松本がプレイしているが、ボトムを支えるというよりもビンビン弾いて目立ちまくっている、といった印象(笑)。ちなみに最後のサビの溜めの箇所で稲葉が「メイ〜(ク)魂に火をつけろ〜♪」と歌っているが、「メイク魂に火をつけろ」というフレーズを入れるのが化粧品CMのタイアップ先からの要望だったらしい。前作以上にマニアックなナンバーで、ここで「LADY NAVIGATION」から続いた13作連続ミリオンセラーの記録は途切れた。
 PVは金網に囲まれた空間で演奏するB'zの二人とバックバンド。意外にもメンバー以外のサポートミュージシャンがPV撮影用に登場するのは本作が初めてだと思う。タイトルの通り、途中から炎が上がり始めて各サビでは画面が真っ赤になる映像がド迫力。

9.Calling
 1997年7月9日発売、22ndシングル。
 ピアノとストリングスがメインのバラードの冒頭と最後を打ち込み風のサウンドで挟んだ実験的な楽曲。曲調もメロディーもアレンジもまったく違う曲ということで、編曲クレジットには松本、稲葉に加え池田大介、徳永暁人の4人の名前が並んでいる。テレ朝ドラマ「ガラスの仮面」シリーズの主題歌として起用され、前作で逃したミリオンセールスを再び達成。B'zのドラマタイアップとしては初めてドラマと楽曲がイコールで認識される作品になったのではないかと思う。
 本作のPVは大雨の中、モノトーンを基調にした画面で演奏する二人の姿が。バラードパートでは松本はピアノとバイオリンを弾いている。いつも思うのだが、打ち込みパートで豪雨にも関わらずエレキをバリバリプレイする松本の姿を見て、いつか彼が感電しそうに見えてハラハラするのは筆者だけであろうか(苦笑)。

10.Liar! Liar!
 1997年10月8日発売、23rdシングル。
 久々のデジタルロック路線。ドラムは打ち込みながら、初期のデジタルサウンドと、それ以降のロック路線が上手く融合したアレンジで、意図してかせずか、これまでの10年間の変遷をまとめた楽曲に仕上がっていると思う。歌詞のほうは人間不信、世の中不信を積み重ねて、最後は「誰もがliar」と開き直ってしまうというヤケクソ路線なのだが、サウンドとのミスマッチがナイス(笑)。97年にリリースされた3枚のシングルはどれも野心的で面白い作りなのだが、中でも本作は個人的にB'z全シングル中5本の指に入る傑作。
 前二作とは異なり、えらくカラフルなPVが制作された。この他にも稲葉が腹話術で遊んだり、松本がバーカウンター越しに英語でこの曲を注文したり、二人が路上でヒッチハイクを試みたりするユニークなTVスポットも作られ、「何でもアリのB'z」はこの年でピークを迎えたような気がする。

11.さまよえる蒼い弾丸
 1998年4月8日発売、24thシングル。
 ZARD、DEEN、FIELD OF VIEWなど、毎年タイアップしてヒット曲を生み出していたビーイング枠「ポカリスエット」のCMソング。とはいえ、この曲には爽やかさは一切なしのハードなロックナンバー。かろうじてイントロや間奏などに使われているシタールの音色には透明感が漂うものの、クライアント側はこんなにハードな曲を納得して起用したのであろうか(苦笑)。なお、そのCMにはSMAPを脱退してオートレーサーになった森且行が出演していた。
 直後の初の公式ベスト「Pleasure」には当初収録予定はなかったが、発売直前で追加収録が決定した。当時はネットでの情報収集が一般的でなかったので、筆者はベストを買いに立ち寄ったCDショップで初めて曲目追加を聴き、とても得した気分でCDを買って帰ったものである(笑)。なお、2012年に配信限定のデジタルシングルとして英語詞リアレンジの「Into Free -Dangan-」としてリメイクされている。

12.HOME
 1998年7月8日発売、25thシングル。
 ベスト「Pleasure」と「Treasure」の間にリリースされたシングル(「Treasure」でのリクエスト投票は対象外)。冒頭のバンドネオンの演奏でサビを歌った後は、B'z王道の安定したポップロックなアレンジで聴かせるミディアムナンバーとなる。人間(恋愛?)関係の難しさを綴った歌詞が個人的に気に入っている。2002年のバラードベスト「Love & B'z」でアルバム初収録となったが、この曲は果たしてバラード扱いしていいものなのだろうか(苦笑)。なお、「Treasure」には隠しトラックで1コーラスのみのアコースティックバージョンが収録されている。また、「ULTRA Treasure」にはファン投票により日本未発売の英語バージョンが選出された。
 PVは香港で撮影。稲葉が中華鍋をぐるぐる回して料理を作ったり、松本が将棋(?)の相手にキレられて慌てて逃げたり(笑)、子供にギターを教えたりとどこか緩い内容ながら、映像的には見どころ満載。

13.HEAT
 本ベストアルバムに初収録の「Brand New Track」。
 2012年夏にキム・ヒョンジュンに提供した楽曲のセルフカヴァー。原曲よりもキーが上がっているがアレンジに大きな変更はない模様。
 提供曲ということで注文が付いたのか、どことなく初期のB'zを彷彿とさせる煌びやかさと哀愁に満ちた作品。タイトルとは裏腹に、「時間はあるようでないから」などといった翳りのあるフレーズが盛り込まれ、短い夏を生き急ぐ描写があちこちに見られるのが印象深い。
 彼らの昨年のライブでこの曲は披露されたらしく、その時のシューティングを含んだPVが本ベストにも収録。リハの光景を切り取った演奏シーンが続くのだが、観客が誰もいなかった客席が最後のサビで一気に埋まり、カラフルな映像になる場面が感動的。

14.核心
 本ベスト初収録の「Brand New Track」で、こちらは完全な新曲。日テレ系ドラマ「雲の階段」主題歌というタイアップが付いていた。
 エレキギターのリフが印象的ではあるが、全体的にはピアノを始めとして淡々と演奏が流れていくイメージ。歌詞はラブソングの体裁を取りながら「幸せ」について問答しているような感じ。タイトルは歌詞中には登場しない。「HEAT」に比べるとインパクトはやや薄めか。


 以上、Disc2収録の全14曲のレビューでした。
 1994年末の暗黒時代から、記念ベストも発売されたデビュー10周年にあたる1998年までのこの時期の楽曲は、Disc1(88年〜94年)で培った土壌を一度リセットしながらも、ジャンルに拘ることなく多彩な音楽性のシングルを切っていた5年間と呼べるでしょう。Disc1のように順を追って音楽性を変えていくのではなく、打ち込み路線が来たと思ったら次は正統派ロックだったり、かと思えばいきなりハードロックに振り切ったりと、1作ごとに予測のできない作品が次々と出てきて、リアルタイムで振り回されながらも楽しく聴いていました(笑)。このDisc2にあたる楽曲群は、筆者が最もB'zに熱を入れて聴いていた年代ということもあり、一番思い入れの強い曲達がひしめく時期でもあります。
 さて、B'zベストアルバム全曲レビューはここでようやく折り返し地点。次回の「CD Review Extra」は、後半期にあたる「B'z The Best XXV 1999-2012」に突入します。こちらも前後編に分けてレビューする予定ですが、まあ、なんとか7月中には全てのレビューを完了させたいところです(汗)。
 長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。