
「コージー大内って誰?」という声は少なからずあると思いますので、ここで本作に付属しているライナーノーツを参照しながら簡単なご紹介をひとつ。彼は大分県日田市出身。アメリカ・テキサスのカントリーブルースに強く影響を受け1980年代末に上京し、ライブバーを回りながらスキルを磨き、やがて故郷・大分の話し言葉である「日田弁」を歌詞に取り入れた、その名も「日田弁ブルース」という芸風を確立。ブルースファンからは「九州カントリー・ブルースの大統領」という愛称で親しまれているそうです。そんな彼が初めて世に送り出したCD作品がこの「角打ブルース」。ちなみに角打とは九州北部の方言で、酒屋併設型の立ち飲み屋のことだそうです。
収録曲は全11曲。うちインストを含む7曲が彼のオリジナル曲。残り4曲はライトニン・ホプキンスやミシシッピー・ジョン・ハートなど、ブルースの大御所のカヴァー曲。カヴァーがオリジナルの間に挟み込まれており、CD1枚でちょっとしたライブのセットリストのような構成になっています。
さて、彼の作品は基本的にギター一本で弾き語られる、奇を衒わないブルースナンバーがほとんど。しかしそこに乗っかる歌詞が実に個性的。大内少年のラジカセを勝手に質に入れたり通帳を勝手に持ち出してギャンブルに行ってしまう(苦笑)博打好きの自分の父親の姿を描いたその名も「オヤジブギ」。その父親が手に職を付けようとして日田産のナバ(キノコ)を採ってきての騒動を描く「パパとナバブギ」をはじめとして、デートのために髪型を決めに理髪店に行ったらパンチパーマにされた、というユーモラスな「パンチ de デート」などなど、ほとんどがコージー大内本人の実話を基にして作られたという、ブルースなのに妙に軽快でのれるナンバーが目白押し。これぞブルースの真骨頂、といったタイトル曲「角打ブルース」や「Mo'Pengie」などもありますが、タップダンサー(のタップ)をフィーチャーした文字通りのご当地ナンパソング「タップ de ナンパ」といったスピード感のある曲もあり、ブルース特有のアクの強さ、泥臭さがさほど気にならない、という意味では非常に聴きやすい作品といえるでしょう。
…とはいえ、コージー大内の最大の特徴ともいえる「日田弁ブルース」自体が、いちげんリスナーへの間口を狭くしてしまっていることは否めません。というのは、上記のコミカルかつ哀愁漂う歌詞がすべて日田弁で歌われているため、正直言って関東人の筆者にとりましてはただCDを聴いているだけではとても内容が聞き取れないという問題がありました^^;。本作の帯にも「日本でも解る人は極めて少ない日田弁〜」と紹介されているあたり、この仕様は確実に故意犯なのだと思うのですが(苦笑)、ここでキモになるのが「日田弁歌詞対訳付き」という歌詞カード。対訳付きって…洋楽か?!というツッコミはさておき、歌詞カードを開くと、確かにそこには日田弁で綴られたオリジナル歌詞の真横に、標準語で書かれた対訳(笑)が配置されており、これを見ながら聴くと「おお〜、これってこういう意味なんだ!」という驚きと感動を味わうことができます。こうして歌詞の内容を大まかに理解した後でもう一度CDを聴いてみると、100%とはいかないものの、大体は歌われている内容が理解できると共に、日田弁で韻を踏んでいたり、日田弁の一部の発音が英語のフレーズに似せて歌われていることに気づいたり(いわゆる「空耳」的な)と、色々な発見ができるエンターテイメント的な側面をこのアルバムから感じて、その面白さにハマってしまうと、延々リピートして聴きまくってしまうという中毒性が本作にはあると思います。気がつくと日田弁を何となく覚えてしまったりするかもしれません(笑)。
かくいう筆者も初めて彼のライブを観た時は方言満載ということもあり、「地方限定の敷居の高さ」を感じてしまったのですが、CDを聴き、歌詞を読み、その内容を理解して聴いていく、という、邦楽ではなかなかない経験に戸惑いつつ、ハマってしまった身であります。近年主流になりつつある、パッケージメディアを廃した音楽配信のみでは味わえない音楽の面白さを教えてくれる作品でもありました。先述の通り、確かに間口は狭く、それ故に全国的な広がりを見せる可能性の低いジャンルの「弁ブルース」ではありますが、世の中にはこういった音楽の楽しみ方があるんだ、ということを再確認したという意味で、かなり衝撃的かつ目から鱗だった1枚です。
なお、コージー大内はこの作風を駆使して関東のブルースバーを中心に活動し、たまに地元・大分でもライブを行っているそうです。ギターをかき鳴らしながら、彼の敬愛するホプキンスばりに時に激しく、時に飄々と歌うその姿、また近いうちに観に行きたいものです。
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