
(2013.3/22、一部を加筆修正しました)
槇原敬之「春うた、夏うた。〜どんなときも。」
発売記念・全収録曲レビュー
※作詞・作曲・編曲は特別な表記以外はすべて槇原敬之。
1.遠く遠く(桜ヴァージョン)
1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。本作には2001年4月25日発売の23thシングル「桃」の初回盤に収録されたリミックスバージョンで収録。このバージョンはアルバム初収録となる。
ファン以外にも知名度の高いこの曲、新生活を始める、または生まれ故郷から離れて暮らす人達の共感を得られそうな、まさに「春うた」に相応しい曲なのだが、なぜか「秋うた、冬うた。」にも収録されるという謎の扱いを受けた(苦笑)。リミックスではあるが、基本的には若干リズムが変わった程度で、オリジナルのテイストを色濃く残したバージョンである。
「どんなに高いタワーからも見えない僕のふるさと」というフレーズは、大阪から東京に出てきた槇原ならではの秀逸な表現だと思う。
2.世界に一つだけの花
2004年8月11日発売、13thアルバム「EXPLORER」収録曲。
SMAPに提供し、ダブルミリオンを記録した2000年代を代表するヒットナンバーのセルフカヴァーバージョン。槇原自身は東芝EMI時代のアルバム「EXPLORER」と、avex時代にリリースされた20周年ベスト「Best LIFE」の2度に渡りカヴァーしているが、本作では東芝EMI時代の音源を収録している。
言わずと知れた大ヒット曲であり、今回の投票結果では第2位にランクインしているのだが、特に「春」や「夏」を意識したフレーズは出てこない。花は春に咲くというイメージから票が伸びたのだろうか。歌詞を巡っては色々と論議を呼ぶ曲ではあるが、個人的には「ナンバーワンになるために努力した結果、ナンバーワンになれなくても、その努力は決して無駄にならない」というメッセージを込めた歌だと、勝手に思っている。
3. 桜坂
1990年10月25日発売、デビューアルバム「君が笑うとき君の胸がいたまないように」収録曲。
街を出ていった友達を思った友情ソング。別れからは少し時間が経過し、思い出に変わりつつあるようだが、街に残った主人公が相変わらずその友達のことを案じている様子を、ピアノ中心のバンドアレンジで切々と歌い上げている。編曲は西平彰との共同名義。
ベストアルバムには初収録。初期の隠れた名曲。
4.LOVE LETTER
1996年10月25日発売、7thアルバム「UNDERWEAR」収録曲。
就職で遠くの街に行ってしまう「君」に片想いのまま、タイトルの「LOVE LETTER」を何度も書き直したものの、結局渡せないまま見送ってしまう「僕」が主人公。その彼の回想が時系列順ではなく、モノローグを交えて綴られるラブソング。彼の思いに気がつかないまま「君」は去ってしまうのが何とも切ないのだが、爽やかな余韻を残すナンバーである。「線路沿いのフェンスに夕焼けが止まってる」「網目の影が流れる横顔」などの描写には当時鳥肌が立った(笑)。
「春」ならではの別れと旅立ちを描いた楽曲。ファン人気も高く、今回の投票では第3位。20周年ベスト「Best LOVE」にリニューアルバージョンで収録する辺り、槇原自身も気に入っている曲なのだと思われる。
5.どんなときも。
1991年6月10日発売、3rdシングル。
映画「就職戦線異状なし」主題歌とケンタッキーのWタイアップで1991年の夏に大ヒットした、彼の代表作にして最大のセールスを記録した名刺代わりの1曲。「秋うた、冬うた。」にはカップリングのバラードバージョンで収録されたが、本作にはオリジナルバージョンが収録された。
当時のインタビューによると槇原の大学受験(それまで三浪だった)の合格発表前に作られた楽曲だそうである。未来への漠然とした不安を抱きながらも地に足の着いたメッセージソングとなっているのはそれ故か。「迷い探し続ける日々が答えになる」というサビの一節には筆者も何度も励まされた。頑張って日々働く人達(槇原本人含)の姿を追ったモノクロのPVも印象深い。
6. 花水木
1994年10月25日発売、5thアルバム「PHARMACY」収録曲。
彼女との最後のデートの待ち合わせで、花水木の通りの終わりで車を止めて待っている主人公の情景を描写した失恋ソング。代表曲というわけではないが、後にA・cappellersがカヴァーしてシングル発売された。
花水木は初夏に咲く花、ということでの収録だろうか。歌詞に「五月でまたひとつ年をとり〜」というフレーズが出てくることから、舞台もそれぐらいの時期だと思う。数ある失恋バラードの中でも、管理人お気に入りの1曲なのだが、発売当時は(車の)「ハザード」の意味が分からなかった高校生であった(苦笑)。
7.No.1
1993年9月1日発売、8thシングル。
KDD(当時)「ゼロゼロイチバン」のCMソングとして発売前後に大量にテレビでオンエアされ、オリコン1位を獲得。ちなみにその週の2位はZARDの「もう少し あと少し…」という、あまりにも出来過ぎな並びであった(笑)。
前作「彼女の恋人」が異色のダンスナンバーだったのに対し、本作は槇原王道のカラフルなポップソングで非常にとっつきやすい。「世界で一番素敵な恋をしようよ」という意味での「No.1」ということで、仮タイトルは「目標No.1」だったらしい。「ナンバーワンにならなくてもいい」という「世界に一つだけの花」と同じアルバムに収録されたのは意図的なものか?(笑)
季節を特定する言葉は出てこないが、ポップなアレンジや発売時期で何となく「夏」というイメージの曲である。
8.キミノテノヒラ
1994年8月25日発売、12thシングル「SPY」カップリング曲。
サラリーマンから花屋に職を変えた友人に、少し落ち込んでいた主人公が会いに行くミディアムバラード。何となく前年の「MILK」を彷彿とさせるのだが、設定や年齢的に「MILK」より上の年代の友情ソング、といった印象。「あじさい」が出てくるあたり、初夏をイメージさせる曲である。今回の投票では第4位。
長らくアルバム未収録で、ベストアルバムにも一度も収録されなかったのだが、ついに本作でアルバム初収録を果たした。地味ながらなかなかの佳曲。
9.雷が鳴る前に
1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。
夏の夕立ちの中、「君」の声が聞きたくなって公衆電話を探し、電話で話しながら告白しようかしまいか・・・とするストーリーがオリエンタルなサウンドと共に展開される楽曲。
なお、この曲の後日談として、1999年に「この傘をたためば」(9thアルバム「Cicada」収録)という曲が発表されている。一緒に収録されれば面白かったのだが、ソニー時代の曲だからか未収録なのが残念。
10. 夏のスピード
1992年5月25日発売、5thシングル「もう恋なんてしない」カップリング曲。
夏の夕暮れ時の別れの光景を描いた一曲。生き急ぐようなアップテンポのマイナーナンバーで、イントロや間奏で流れるフルート(?)の音が印象的である。強がっていても悲しみからは逃れられない、恋の終わりの無常さを上手く表現していると思う。
「春夏ソング」投票では何と第1位を獲得。発売から約20年の時を経て、本作でようやくアルバムに初収録。
11.SPY
1994年8月25日発売、12thシングル。
ドラマ「男嫌い」主題歌に起用されたが、ドラマ本編とこの曲にはほとんど関連性はなかった(苦笑)。
彼女とのデートをキャンセルされた主人公が、偶然街で彼女を発見。好奇心で後をつけていくとそこには・・・といった、物語性の高い作品。話の筋的に後に「ストーカーソング」とも呼ばれてしまった曲なのだが(笑)、その結末は悲劇的。胡弓をサンプリングした音源を使用したり、クールな打ち込みで全編を統一したりと、ある種実験的な曲だったが、オリコン1位、80万枚超のセールスを記録したヒット曲である。主人公がTシャツとジーンズという「夏」を連想させる出で立ちで登場している。
ちなみにPVも制作されたが、こちらは逆に槇原が女ストーカーにストーキングされ、最後はビルのフロアで変装した彼女に刺し殺されてしまう、というシュールかつ衝撃的なエンディングが待っている。
12.ひまわり
1991年9月25日発売、2ndアルバム「君は誰と幸せなあくびをしますか。」収録曲。
2ndアルバムには「AFTER GLOW」や「EACH OTHER」など、彼女と別れてしばらくしてからの心象風景が語られる曲が多く収められているのだが、夏の季語を冠するタイトルのこの曲もその中のひとつ。ずっと一緒だと交わした約束も今は笑っちゃうぐらいの恥ずかしい嘘とか、重ねた嘘は輝き続ける、など、やけに達観した表現が多く、基本的に失恋を引きずる系(笑)の彼の楽曲の中では新鮮なアプローチの作品。ベスト盤初収録。
13.CLASS OF 89
1993年4月25日発売、7thシングル「彼女の恋人」カップリング曲。
久し振りに届いた学生時代の彼女(あるいは女友達?)の手紙の結婚報告を読んで、学生時代のひと時を回想する三連ミディアム。アウトロでゴスペルチックなコーラスが挿入されるのが印象的なナンバー。
2コーラス目で、「夏」の一コマが描かれるのだが、そこで登場する、池に咲いた蓮の葉をパラボラアンテナに見立てる表現描写には感服。
人気投票では第5位にランクインし、「キミノテノヒラ」「夏のスピード」同様、本作でアルバム初収録。この3曲の収録はある意味今回の企画盤の目玉だと思う。できれば残るアルバム未収録曲「勝利の笑顔」(「冬がはじまるよ」カップリング)も収録してもらいたかったが…。
14.くもりガラスの夏
1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。
日焼けの跡がシーツにはがれ出し、洗濯機を回しながら、去っていった彼女のことを思い出す失恋回想ソング。
3rdアルバムの実質トップバッターを務める曲ということで、華やかで賑やかなサウンドが展開されるのだが、詞の内容は上記の通りのちょっと切ない曲。彼女に気を遣いすぎて、逆にそれが原因で去られてしまった優しい主人公は、当時の槇原ソングの定番であった(笑)。
なお、1998年のベストアルバム「SMILING III」には、ヴォーカルはそのままに、生楽器で再録音したニューバージョンで収録されている。そちらもお勧め。
15.Witch hazel
1993年10月31日発売、4thアルバム「SELF PORTRAIT」収録曲。
フレンチポップ風のオシャレなアレンジに乗って、描かれるのはひと夏の淡い恋。遊びのつもりが、本気で好きになってしまい、そうすると「君」が困るのが怖い、という、行間を読みたくなるような意味深な歌詞が特徴。個人的には歌詞の内容など、発売当時はあまりピンと来なかったのだが、年を重ねて徐々に好きになっていった曲である。これが大人になったということなのか(笑)。
なお、タイトルは日焼け止めに入っている成分の植物の名前らしい。後の24thシングル「Are You OK?」にはリミックスバージョンが収録されている。
16.花火の夜
2002年8月7日発売、26thシングル。
かつて「君」と一緒に過ごした、夏に行われる花火大会の記憶を、今年の花火を眺めながら追想する主人公。ラテンアレンジで華やかな中に翳りの見えるサウンドが聴きどころ。
リリース前後のシングルではいわゆるライフソング(教訓系)が続いていたが、この曲は珍しく普通(?)のラブソング。「遠く遠く」のリミックスを除けば本作唯一の第2期ワーナー時代からの選曲である。
以上、「春うた、夏うた。」の全曲レビューでした。
前回の「秋うた、冬うた。」では「これって秋冬ソング?」と突っ込みたくなるような選曲も若干あったのですが(苦笑)、それと比較すると本作は順当な選曲だと思います。また、桜ソングの「遠く遠く」から、初夏のイメージの「花水木」「雷が鳴る前に」、真夏を過ぎたあたりの「ひまわり」「くもりガラスの夏」を経て、最後は晩夏の「花火の夜」で締めるという、季節が徐々に移り変わっていくかのような曲順は、なかなか良い構成だと思いました。また、個人的には約20年もの間アルバム未収録だったカップリング曲3曲がついにリマスターされてアルバム初収録、というのが一番嬉しい点ですね。
一方、残念だった点は、「秋うた、冬うた。」同様にワーナー主導の企画ということで、ソニー時代の夏ソング「pool」が版権の壁なのか未収録だったことでしょうか。まあこういう話を始めるとキリがないのですが(苦笑)、企画盤として前作同様、ファンもライトリスナーも楽しめる内容だと思います。
「EARLY 7 ALBUMS」から始まったワーナーの槇原敬之リマスタープロジェクト(?)もこれにて完結でしょうか。今度はソニー時代のアルバムをリマスターして欲しいなぁ、というささやかな願いをここに記して(笑)今回の「CD Review Extra」を締めさせていただきます。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
発売記念・全収録曲レビュー
※作詞・作曲・編曲は特別な表記以外はすべて槇原敬之。
1.遠く遠く(桜ヴァージョン)
1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。本作には2001年4月25日発売の23thシングル「桃」の初回盤に収録されたリミックスバージョンで収録。このバージョンはアルバム初収録となる。
ファン以外にも知名度の高いこの曲、新生活を始める、または生まれ故郷から離れて暮らす人達の共感を得られそうな、まさに「春うた」に相応しい曲なのだが、なぜか「秋うた、冬うた。」にも収録されるという謎の扱いを受けた(苦笑)。リミックスではあるが、基本的には若干リズムが変わった程度で、オリジナルのテイストを色濃く残したバージョンである。
「どんなに高いタワーからも見えない僕のふるさと」というフレーズは、大阪から東京に出てきた槇原ならではの秀逸な表現だと思う。
2.世界に一つだけの花
2004年8月11日発売、13thアルバム「EXPLORER」収録曲。
SMAPに提供し、ダブルミリオンを記録した2000年代を代表するヒットナンバーのセルフカヴァーバージョン。槇原自身は東芝EMI時代のアルバム「EXPLORER」と、avex時代にリリースされた20周年ベスト「Best LIFE」の2度に渡りカヴァーしているが、本作では東芝EMI時代の音源を収録している。
言わずと知れた大ヒット曲であり、今回の投票結果では第2位にランクインしているのだが、特に「春」や「夏」を意識したフレーズは出てこない。花は春に咲くというイメージから票が伸びたのだろうか。歌詞を巡っては色々と論議を呼ぶ曲ではあるが、個人的には「ナンバーワンになるために努力した結果、ナンバーワンになれなくても、その努力は決して無駄にならない」というメッセージを込めた歌だと、勝手に思っている。
3. 桜坂
1990年10月25日発売、デビューアルバム「君が笑うとき君の胸がいたまないように」収録曲。
街を出ていった友達を思った友情ソング。別れからは少し時間が経過し、思い出に変わりつつあるようだが、街に残った主人公が相変わらずその友達のことを案じている様子を、ピアノ中心のバンドアレンジで切々と歌い上げている。編曲は西平彰との共同名義。
ベストアルバムには初収録。初期の隠れた名曲。
4.LOVE LETTER
1996年10月25日発売、7thアルバム「UNDERWEAR」収録曲。
就職で遠くの街に行ってしまう「君」に片想いのまま、タイトルの「LOVE LETTER」を何度も書き直したものの、結局渡せないまま見送ってしまう「僕」が主人公。その彼の回想が時系列順ではなく、モノローグを交えて綴られるラブソング。彼の思いに気がつかないまま「君」は去ってしまうのが何とも切ないのだが、爽やかな余韻を残すナンバーである。「線路沿いのフェンスに夕焼けが止まってる」「網目の影が流れる横顔」などの描写には当時鳥肌が立った(笑)。
「春」ならではの別れと旅立ちを描いた楽曲。ファン人気も高く、今回の投票では第3位。20周年ベスト「Best LOVE」にリニューアルバージョンで収録する辺り、槇原自身も気に入っている曲なのだと思われる。
5.どんなときも。
1991年6月10日発売、3rdシングル。
映画「就職戦線異状なし」主題歌とケンタッキーのWタイアップで1991年の夏に大ヒットした、彼の代表作にして最大のセールスを記録した名刺代わりの1曲。「秋うた、冬うた。」にはカップリングのバラードバージョンで収録されたが、本作にはオリジナルバージョンが収録された。
当時のインタビューによると槇原の大学受験(それまで三浪だった)の合格発表前に作られた楽曲だそうである。未来への漠然とした不安を抱きながらも地に足の着いたメッセージソングとなっているのはそれ故か。「迷い探し続ける日々が答えになる」というサビの一節には筆者も何度も励まされた。頑張って日々働く人達(槇原本人含)の姿を追ったモノクロのPVも印象深い。
6. 花水木
1994年10月25日発売、5thアルバム「PHARMACY」収録曲。
彼女との最後のデートの待ち合わせで、花水木の通りの終わりで車を止めて待っている主人公の情景を描写した失恋ソング。代表曲というわけではないが、後にA・cappellersがカヴァーしてシングル発売された。
花水木は初夏に咲く花、ということでの収録だろうか。歌詞に「五月でまたひとつ年をとり〜」というフレーズが出てくることから、舞台もそれぐらいの時期だと思う。数ある失恋バラードの中でも、管理人お気に入りの1曲なのだが、発売当時は(車の)「ハザード」の意味が分からなかった高校生であった(苦笑)。
7.No.1
1993年9月1日発売、8thシングル。
KDD(当時)「ゼロゼロイチバン」のCMソングとして発売前後に大量にテレビでオンエアされ、オリコン1位を獲得。ちなみにその週の2位はZARDの「もう少し あと少し…」という、あまりにも出来過ぎな並びであった(笑)。
前作「彼女の恋人」が異色のダンスナンバーだったのに対し、本作は槇原王道のカラフルなポップソングで非常にとっつきやすい。「世界で一番素敵な恋をしようよ」という意味での「No.1」ということで、仮タイトルは「目標No.1」だったらしい。「ナンバーワンにならなくてもいい」という「世界に一つだけの花」と同じアルバムに収録されたのは意図的なものか?(笑)
季節を特定する言葉は出てこないが、ポップなアレンジや発売時期で何となく「夏」というイメージの曲である。
8.キミノテノヒラ
1994年8月25日発売、12thシングル「SPY」カップリング曲。
サラリーマンから花屋に職を変えた友人に、少し落ち込んでいた主人公が会いに行くミディアムバラード。何となく前年の「MILK」を彷彿とさせるのだが、設定や年齢的に「MILK」より上の年代の友情ソング、といった印象。「あじさい」が出てくるあたり、初夏をイメージさせる曲である。今回の投票では第4位。
長らくアルバム未収録で、ベストアルバムにも一度も収録されなかったのだが、ついに本作でアルバム初収録を果たした。地味ながらなかなかの佳曲。
9.雷が鳴る前に
1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。
夏の夕立ちの中、「君」の声が聞きたくなって公衆電話を探し、電話で話しながら告白しようかしまいか・・・とするストーリーがオリエンタルなサウンドと共に展開される楽曲。
なお、この曲の後日談として、1999年に「この傘をたためば」(9thアルバム「Cicada」収録)という曲が発表されている。一緒に収録されれば面白かったのだが、ソニー時代の曲だからか未収録なのが残念。
10. 夏のスピード
1992年5月25日発売、5thシングル「もう恋なんてしない」カップリング曲。
夏の夕暮れ時の別れの光景を描いた一曲。生き急ぐようなアップテンポのマイナーナンバーで、イントロや間奏で流れるフルート(?)の音が印象的である。強がっていても悲しみからは逃れられない、恋の終わりの無常さを上手く表現していると思う。
「春夏ソング」投票では何と第1位を獲得。発売から約20年の時を経て、本作でようやくアルバムに初収録。
11.SPY
1994年8月25日発売、12thシングル。
ドラマ「男嫌い」主題歌に起用されたが、ドラマ本編とこの曲にはほとんど関連性はなかった(苦笑)。
彼女とのデートをキャンセルされた主人公が、偶然街で彼女を発見。好奇心で後をつけていくとそこには・・・といった、物語性の高い作品。話の筋的に後に「ストーカーソング」とも呼ばれてしまった曲なのだが(笑)、その結末は悲劇的。胡弓をサンプリングした音源を使用したり、クールな打ち込みで全編を統一したりと、ある種実験的な曲だったが、オリコン1位、80万枚超のセールスを記録したヒット曲である。主人公がTシャツとジーンズという「夏」を連想させる出で立ちで登場している。
ちなみにPVも制作されたが、こちらは逆に槇原が女ストーカーにストーキングされ、最後はビルのフロアで変装した彼女に刺し殺されてしまう、というシュールかつ衝撃的なエンディングが待っている。
12.ひまわり
1991年9月25日発売、2ndアルバム「君は誰と幸せなあくびをしますか。」収録曲。
2ndアルバムには「AFTER GLOW」や「EACH OTHER」など、彼女と別れてしばらくしてからの心象風景が語られる曲が多く収められているのだが、夏の季語を冠するタイトルのこの曲もその中のひとつ。ずっと一緒だと交わした約束も今は笑っちゃうぐらいの恥ずかしい嘘とか、重ねた嘘は輝き続ける、など、やけに達観した表現が多く、基本的に失恋を引きずる系(笑)の彼の楽曲の中では新鮮なアプローチの作品。ベスト盤初収録。
13.CLASS OF 89
1993年4月25日発売、7thシングル「彼女の恋人」カップリング曲。
久し振りに届いた学生時代の彼女(あるいは女友達?)の手紙の結婚報告を読んで、学生時代のひと時を回想する三連ミディアム。アウトロでゴスペルチックなコーラスが挿入されるのが印象的なナンバー。
2コーラス目で、「夏」の一コマが描かれるのだが、そこで登場する、池に咲いた蓮の葉をパラボラアンテナに見立てる表現描写には感服。
人気投票では第5位にランクインし、「キミノテノヒラ」「夏のスピード」同様、本作でアルバム初収録。この3曲の収録はある意味今回の企画盤の目玉だと思う。できれば残るアルバム未収録曲「勝利の笑顔」(「冬がはじまるよ」カップリング)も収録してもらいたかったが…。
14.くもりガラスの夏
1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。
日焼けの跡がシーツにはがれ出し、洗濯機を回しながら、去っていった彼女のことを思い出す失恋回想ソング。
3rdアルバムの実質トップバッターを務める曲ということで、華やかで賑やかなサウンドが展開されるのだが、詞の内容は上記の通りのちょっと切ない曲。彼女に気を遣いすぎて、逆にそれが原因で去られてしまった優しい主人公は、当時の槇原ソングの定番であった(笑)。
なお、1998年のベストアルバム「SMILING III」には、ヴォーカルはそのままに、生楽器で再録音したニューバージョンで収録されている。そちらもお勧め。
15.Witch hazel
1993年10月31日発売、4thアルバム「SELF PORTRAIT」収録曲。
フレンチポップ風のオシャレなアレンジに乗って、描かれるのはひと夏の淡い恋。遊びのつもりが、本気で好きになってしまい、そうすると「君」が困るのが怖い、という、行間を読みたくなるような意味深な歌詞が特徴。個人的には歌詞の内容など、発売当時はあまりピンと来なかったのだが、年を重ねて徐々に好きになっていった曲である。これが大人になったということなのか(笑)。
なお、タイトルは日焼け止めに入っている成分の植物の名前らしい。後の24thシングル「Are You OK?」にはリミックスバージョンが収録されている。
16.花火の夜
2002年8月7日発売、26thシングル。
かつて「君」と一緒に過ごした、夏に行われる花火大会の記憶を、今年の花火を眺めながら追想する主人公。ラテンアレンジで華やかな中に翳りの見えるサウンドが聴きどころ。
リリース前後のシングルではいわゆるライフソング(教訓系)が続いていたが、この曲は珍しく普通(?)のラブソング。「遠く遠く」のリミックスを除けば本作唯一の第2期ワーナー時代からの選曲である。
以上、「春うた、夏うた。」の全曲レビューでした。
前回の「秋うた、冬うた。」では「これって秋冬ソング?」と突っ込みたくなるような選曲も若干あったのですが(苦笑)、それと比較すると本作は順当な選曲だと思います。また、桜ソングの「遠く遠く」から、初夏のイメージの「花水木」「雷が鳴る前に」、真夏を過ぎたあたりの「ひまわり」「くもりガラスの夏」を経て、最後は晩夏の「花火の夜」で締めるという、季節が徐々に移り変わっていくかのような曲順は、なかなか良い構成だと思いました。また、個人的には約20年もの間アルバム未収録だったカップリング曲3曲がついにリマスターされてアルバム初収録、というのが一番嬉しい点ですね。
一方、残念だった点は、「秋うた、冬うた。」同様にワーナー主導の企画ということで、ソニー時代の夏ソング「pool」が版権の壁なのか未収録だったことでしょうか。まあこういう話を始めるとキリがないのですが(苦笑)、企画盤として前作同様、ファンもライトリスナーも楽しめる内容だと思います。
「EARLY 7 ALBUMS」から始まったワーナーの槇原敬之リマスタープロジェクト(?)もこれにて完結でしょうか。今度はソニー時代のアルバムをリマスターして欲しいなぁ、というささやかな願いをここに記して(笑)今回の「CD Review Extra」を締めさせていただきます。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
コメント
コメント一覧
秋冬ベストの投票結果は公式サイトで発表されましたが春夏の結果は発表されなかったと思うんですが投票結果はどこで知ったんですか?
投票結果は5位までですがCDの帯に書いてあります。
本文にも書きましたが、
1位「夏のスピード」
2位「世界に一つだけの花」
3位「LOVE LETTER」
4位「キミノテノヒラ」
5位「CLASS OF 89」
でした。
もしかしたらワーナー以外の曲(pool・Cicada・夏は憶えてる等)のランクインが大すぎて大々的には発表しなかったのかもしれませんね
とはいえ、約20年間アルバム未収録だったカップリング曲がアルバム初収録されたという意味で意義あるベストではありますね。