higuchiryo 2012年11月21日発売、樋口了一の通算6枚目のオリジナルアルバム。2009年発売のライブアルバム「時計台アコースティックライブ」にライブバージョンが収録されていた「春」のバンドアレンジバージョンを含む全6曲収録。

 本作、「風一途」をはじめとして、前作「よろこびのうた」を引き継いだかのような、人と人との繋がりをテーマにしたような歌詞に、アルバムタイトルの一部でもある「風」にまつわる表現がほとんどの曲に入っているのが特徴でしょうか。彼の代表曲「手紙」を彷彿とさせる「のぞみ」という曲は少し異彩を放っているのですが、「受け継がれる命、受け継ぐ命」を丁寧に綴った歌詞を優しく歌い上げる樋口了一の歌声には、前作以上の柔らかさが宿っているような気がします。

 また、構成面では、「春」「1000kmの夏」は久々の響きのある生バンドサウンド!という点では(個人的に)待望のアレンジの曲あり、「風一途」ではアコギ、「咲ける花」ではピアノを軸にした穏やかなアレンジもあり、ラストの「桜の森」ではピアノ+ストリングスで仕上げた唱歌風のアレンジもありと、全6曲ながらサウンド面では程良くバランスが取れている印象。

 90年代から00年代初期の彼の作品に感じられた「尖った主張」の楽曲がここ数年の作品では見られなくなったのは、彼自身に色々な体験、経験があった故のことなのでしょう。その代わりと言ってはなんですが、本作での詞曲、そしてアレンジ全体から流れる「体温」には、かつての彼からは考えられなかった温かさを感じ取ることができると思います。派手さのない作品ではありますが、良作です。