
スタジオ録音の新作アルバムとしては実に17枚目を数える本作。これまでレパートリーのほぼ全曲の作詞作曲を手がけてきた桜井和寿ですが、その楽曲創作のセンスは枯渇するどころかますます勢いを増し(?)、今作でも彼らしい言葉遊びが光る軽快な「Marshmallow day」、デビュー当時のラブソングを彷彿とさせる愚直なまでにシンプルな言葉で綴られたバラード「常套句」、どこまでが本音なのかちょっと判断に困る(笑)シニカルな「過去と未来と交信する男」などなど、数々の佳曲が生み出されました。アルバム曲の中で時々登場する毒を吐くような作品は本作はなく、曲誕生の経緯をみるに「かぞえうた」、そしてシングル曲や「イミテーションの木」といった、苦しみや悲しみの中から少しでも前に進んで行けたなら、といった背中を押してくれるかのような、いわゆる励まし系のメッセージを込めた曲が多い印象でしょうか。楽曲だけで評価するならば、個人的には2012年に聴いたアルバムの中でも1、2を争うクオリティの高さだと思います。
…とはいえ、このアルバムについて手放しで喜べないのは、共同プロデューサーである小林武史の方針なのか、彼の手によるキーボード、そしてストリングスが潤沢に盛り込まれているアレンジメントの面。もともと以前のレビューでも書きましたが、筆者にとってMr.Childrenは「バンドサウンド+鍵盤やストリングスのアレンジが基本」というスタンスは昔も今も変わっていないのですが、本作はそのバンドサウンドと上モノのバランスが明らかに崩壊していると感じてしまいました。特にギターの音は完全にピアノやストリングスに「覆われて」しまって、意識して耳を澄まさないと聴き逃してしまいそうな居場所の無さで、これは桜井のソロプロジェクトか、あるいは桜井と小林のユニットか?!と思ってしまうほど、他の三人(特にギターの田原)がこれほどまでに「その他大勢」と化してしまっているアルバムは彼らの作品の中でもかつてないのではないでしょうか。一応プロデュースは小林+ミスチルということなので、メンバーの意見が反映された作風なのだとは思いますが、ここまで上モノ過剰だと、「バンド」としての彼らの姿がイマイチ見えにくい作品でもありました。そこが少し…いや、結構残念。
なお、初回限定盤は本作の中から4曲のPVを収録したDVDが付属。暗闇から夜明けを経て陽射しが射し込むまでの心象風景を映像にしたかのような「hypnosis」、ポップで80年代MTVっぽい(?)「Marshmallow day」、線画がメインの切ないアニメの「常套句」、まるで桜井ソロ作品のような(苦笑)「祈り〜涙の軌道」と、バラエティ豊かな映像作品が収録されています。今年リリースされたベスト2作同様、DVD付き初回盤も通常盤(CDのみ)も同じ値段(本作は3,059円)、というのはなかなか良心的な価格設定ですね。
コメント
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ただ、アルバム曲で似たような感じの曲がありました。
「Marshmallow day」は「youthful days」に少し似てましたし、「常套句」はアルバム「I LOVE U」に入ってる「CANDY」に似てるなと思いましたし。
あと、このアルバム、ミリオンに届かなかったんですよね。前作の「SENSE」の時は宣伝しなかったので、ミリオン行かなかったのはしょうがなかったけど、今回はかなり宣伝したのに、ミリオン届きませんでした。
確かに曲調や音使いなどは初期的な雰囲気は感じますね。ただここまでストリングス潤沢ではありませんでしたが…(苦笑)
セールスのほうは苦戦したようですね。同じ年にベストが出てひと段落、というリスナー層もいたのかもしれませんね…。