makiharaaki 2012年11月14日、槇原敬之の古巣レコード会社・ワーナーミュージック・ジャパンより、「秋うた、冬うた。〜もう恋なんてしない」という名のベストアルバムがリリースされます。ベストは公式非公式合わせてもう何作目?という感じなのですが(苦笑)、今回はリリース前にワーナーの公式サイトで“あなたが聴きたい槇原敬之の秋冬ソング”アンケートと称して収録曲を募り、その結果を参考にして選曲され、なおかつ槇原本人の監修によるデジタルリマスター仕様での発売、ということで、極めて公式に近いベストだと思います。今回の「CD Review Extra」では、本作に収録された15曲の楽曲を全曲レビュー。「続きを読む」よりご閲覧ください。
槇原敬之「秋うた、冬うた。〜もう恋なんてしない」
発売記念・全収録曲レビュー


※作詞・作曲・編曲は特別な表記以外はすべて槇原敬之。

1.北風〜君にとどきますように〜
 1992年10月25日発売、6thシングル。
 もともとはデビューアルバム「君が笑うとき君の胸がいたまないように」に収録され、後に2ndシングル「ANSWER」の両A面としてカットされた「北風」を、デビューからちょうど2周年を迎えた日にリアレンジして発売されたリメイクバージョン。
 原曲では西平彰との共同編曲だったが、今回は槇原+生の弦楽器を起用したからか、服部隆之がストリングス&ホーンアレンジメントとして名を連ねている。冒頭でアカペラのサビから始まるのと、曲全体に流れる生ストリングスの導入が原曲との最大の違いで、それ以外は極端に変わったところはなく、オリジナルをより洗練してリメイクした印象。また、サウンド的には3rdアルバム「君は僕の宝物」の延長線上にあると思う。
 真冬の片想いソングとしてファン人気の非常に高い曲であり、一般的な知名度も高い。槇原本人も気に入っているようで、ベストアルバムにもかなりの確率で収録されている。今回の投票結果では「北風」名義で2位にランクイン。

2.涙のクリスマス
 1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。後に6thシングル「北風〜君にとどきますように〜」のカップリングとしてシングルカットされた。
 「北風」同様に高校時代に製作されたという、本人いわく「ハイスクール・シングル」。こちらも片想いソングだが彼女には既に相手がいて、信号待ちの時に二人の幸せな姿を見てしまう…という、失恋ソングでもある。
 クリスマスを舞台にした彼の曲の中でも一際悲しく、切ない曲なのだが、こういう曲を彼に歌わせると天下一品である、といつも思う(笑)。投票結果では17位。

3.12月の魔法
 1990年10月25日発売、デビューアルバム「君が笑うとき君の胸がいたまないように」収録曲。
 編曲は西平彰との共同名義。いきなりオリエンタルなイントロで異色な始まり方だが、中身は至って普段の槇原バラード。彼女とのデートにワクワクして朝から三度も車を磨く主人公。2番になると結構歯が浮くようなセリフが出てくるのだが(笑)このクサさも初々しくて微笑ましい。冬が過ぎてもずっと一緒にいよう、というハッピーなラブソング。
 今回の投票結果では20位内にはランクインされなかったものの、「12月」という枕詞があるからか収録された。知名度は高いとはいえずファンのみぞ知る曲、だと思う。

4.どんなときも。〜ballad version〜
 1991年6月10日発売、3rdシングル「どんなときも。」カップリング曲。
 言わずと知れた彼の出世作「どんなときも。」を、服部克之との共同アレンジでオーケストラ仕様にした、タイトル通りのバラードバージョン。キーとテンポを下げ、雄々しく歌っているが、まだ初期ということもあってか、一生懸命な歌声がオリジナルとはまた違う良さを感じさせる楽曲。
 2ndアルバム「君は誰と幸せなあくびをしますか。」の1曲目にオケの最後の部分をエディットした「インストゥルメンタル・バージョン」が収録されたが、このバージョンがアルバムに収録されるのは初めて。投票では圏外ではあるが代表曲ということで選曲されたのだと思う。ここでアルバム未収録のバラードバージョンを収録してくれた心配りが嬉しいところ。

5.3月の雪
 1991年9月25日発売、2ndアルバム「君は誰と幸せなあくびをしますか。」収録曲。
 卒業式の数日後の思い出を描いた友情ソング。最後のコーラスでも珍しく槇原以外のコーラスが使われているのが好演出。発売当時のインタビューで「高校時代の良き思い出をこの曲に閉じ込めておきたかった」と語っていた。数ある彼の友情ソングの中でも個人的に一番好きな(というか共感できる)曲であり、今回の秋冬ソング投票を知った時に真っ先に頭に浮かんだのはこの曲だったのだが、意外にもランキング圏外。あまり有名な曲ではなかったからか?
 ちなみに、槇原が2ndアルバムリリース直後に音楽番組に出演した際に、「どんなときも。」と続けてこの曲を演奏していた。テレビ出演ではほぼシングル曲しか歌わない当時の彼にしては珍しいステージであった。

6.もう恋なんてしない
 1992年5月25日発売、5thシングル。
 日テレの土曜ドラマ「子供が寝たあとで」主題歌に起用され、「どんなときも。」に続きミリオンセラーを達成。彼の人気を不動にしたシングルであり、代表曲のひとつである。特に季節を特定する言葉はないが、ランキング結果は15位。まあ本ベストのサブタイトルでもあるので、最初から収録予定だったのだろう。
 失恋した主人公が、彼女のいなくなった家で彼女の荷物を整理したり、物思いにふけったりするのは、デビューシングル「NG」と結構似たようなシチュエーションだが、最後まで悲しみの底でくよくよしている「NG」と違って、少しずつでも前に進んでいこうとする主人公には好感が持てる。否定形のタイトルと思いきや、実は「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」というオチ(?)には突っ込むリスナーが多数(笑)。でも名曲。

7.冬がはじまるよ
 1991年11月10日発売、4thシングル。
 サントリーの季節限定ビール「冬物語」のCMソングとして、1991年の冬に大量オンエアされた。
 「どんなときも。」に続く重要なシングルであるが、「どんなときも。」が当時の彼の曲の中では異色の応援歌的な作品だったのに対し、王道の槇原流の温かなラブソングを次のシングルとして選択したのは戦略的に大正解だったと思う。CM効果もあり年末から年明けにかけてロングセラーを記録。
 一般的な槇原ソングの冬の曲といえば「北風」かこの曲か、といったところで、今回の秋冬ソング投票でも3位にランクイン。本人以外がほぼイラストアニメーションで表現されているPVも斬新だった。

8.遠く遠く
 1992年6月25日発売、3rdアルバム「君は僕の宝物」収録曲。
 夢を追いかけて上京してきた主人公、田舎の友達や両親からの手紙や電話に勇気づけられつつ、「僕の夢をかなえる場所はこの街と決めたから」と、振り返らずに夢に向かって邁進する姿を描いた歌詞は発売当時から支持が高く、後のベストアルバム「SMILING」やCMのタイアップなどで、ファン以外にも知名度を上げていった人気曲。レゲエ調のアレンジが新鮮でもある。
 投票結果では5位にランクインし、本ベストに収録となったが、歌詞に「外苑の桜は咲き乱れ〜」とあるように、どう考えても季節は(笑)。人気曲だから敢えて収録したのだろうか?選曲基準が結構曖昧な気もする(苦笑)。

9.2つの願い
 1994年5月25日発売、11thシングル。
 今降っている雨がやみますように、心の離れてしまった彼女から電話が来ますように、という2つの願いを歌った楽曲。結局電話は来ず、雨はやむ、という結末が待っているのだが、それを前向きに捉えたかのような歌詞で締められている。同年の5thアルバム「PHARMACY」はアレンジを大幅に変更した「VERSION II」で収録。
 季節を特定する言葉は見当たらないのだが、シングルジャケットがモノクロで発売も5月末と、梅雨突入間近の時期にリリースされたということもあり、個人的なこの曲の季節のイメージは「初夏」。ランキング圏外であり、特に彼の代表曲というわけでもないのだが本作に収録された。

10.今年の冬
 1994年10月25日発売、5thアルバム「PHARMACY」収録曲。
 「PHARMACY」には上手くいっている恋愛模様の曲が多く収録されているが、この曲はその中でも幸せ極まれり、といった曲。彼女(+犬)と同棲する主人公の、ささやかな幸せの情景を綴った心温まるバラードナンバーである。「別になんでもないときこそ そばにいる二人でいよう」というフレーズは名言。
 「遠く遠く」同様、リリース直後から人気を博した曲でもあり、今回の秋冬ソング投票では堂々の1位を獲得。

11.雪に願いを
 1993年10月31日発売、4thアルバム「SELF PORTRAIT」収録曲。約一ヶ月後の11月28日に10thシングルとしてシングルカットされた。
 クリスマスの時期を舞台に、主人公が大事な人に思いを馳せるウィンターソング。「クリスマスは優しい気持ちになるための日だね」という一節が個人的に気に入っている。サビでは珍しく英語のフレーズが登場。また、テクノポップ風のリズムアレンジなど、彼がサウンドに凝り出した時期の曲でもあり、遊び心が感じられる。
 TBSの1993年冬のイメージCMソングとして、ドラマなどの番組PRのCMのBGMとして流されていた。今回の投票では9位にランクイン。

12.さみしいきもち
 1993年10月1日リリース、9thシングル「ズル休み」のカップリング曲。続く4thアルバム「SELF PORTRAIT」にも収録された。
 別れた彼女のことを思い出しながらも前に進む…という「もう恋なんてしない」を彷彿とさせる歌詞であるが、「さみしいきもちに負けそうで 誰かをさがしていた頃のように今は弱くありません」の言葉通り、失恋からはかなり時間が経ち、吹っ切れている感がある主人公が登場する。シングルでは失恋の悲しみど真ん中の「ズル休み」のカップリング(2曲目)という位置もあり、続けて聴くと「ズル休み」の後日談、という聴き方もできると思う。
 アレンジは至ってシンプルなバンド風打ち込みサウンド。ここまでシンプルなサウンドはかなり珍しい。ランキングは圏外、特に秋冬のフレーズが出てはこないが収録された。
 かなりどうでもいい話なのだが、曲の冒頭の「自転車でなら10分と少しの〜」という部分、「自転車で70分と少しの〜」としばらくの間、素で聴き間違えをしていたことを、ここに白状しておく(笑)。

13.Red Nose Reindeer
 1992年11月28日発売、10thシングル「雪に願いを」両A面曲。
 「雪に願いを」がリカットシングルだったのに対し、こちらは新曲。遠距離恋愛中で、クリスマスに一緒にいられないカップルの新幹線のホームでの別れを描いたバラード。「君のサンタは僕なんだから」のフレーズはかなりむず痒いものがあるのだが(笑)、遠くへ行く恋人を見送る主人公の切実でささやかな願いが曲からあふれ出てくる良作。
 クリスマスソングということもあり、秋冬ソング投票では4位とかなりの高位置にランクイン。長らくアルバムには収録されなかったが、1997年の「SMILING II」でアルバム初収録されたので知名度は比較的高いのかも。
 余談であるが、「いつかクリスマスも〜」の後に、よく聴くと女性の声で「寒い」という呟きが聴こえる、という説があり、槇原のレギュラーラジオ番組でも取り上げられていた。もちろん空耳なのだが、エフェクト処理の妙でこうなったらしい。

14.I need you.
 1996年9月25日発売、15thシングル「どうしようもない僕に天使が降りてきた」カップリング曲。
 「雪」や「白い息」といった真冬の描写をバックに、友達以上恋人未満の二人を、主人公目線からのもどかしさで描いた切ない曲。サビの「困ったとき 退屈なときだけ僕を呼び出さないで」という独白が泣ける。今回の投票では7位。
 7thアルバム「UNDERWEAR」にはアルバムバージョンで収録され、シングルバージョンでは本作がアルバム初収録となる。前作アルバム「THE DIGITAL COWBOY」で見せたスウィート・ソウル系テイストを感じさせるアレンジ。個人的にはリズムトラックが終始がっしりしているアルバムバージョンのほうが好みである。

15.君の名前を呼んだ後に
 2003年5月21日発売、29thシングル。
 生命保険会社のCMソングとしてオンエアされていた。ワーナー第2期(2000年〜2003年)の中で唯一本作への選出となった楽曲。
 ラブソングではあるのだが「近くにあった大事なものに、遠く離れてようやく気がつく」系の曲は、2000年以降の彼の定番パターンといったところ。
 ファン投票では圏外。一応歌詞に「紙コップのコーヒー(の温もり)」が出てくるので秋冬の曲、といえないこともない。第2期の代表曲ということもあり収録されたのだろうか。


 以上、全15曲の収録曲のレビューでした。
 ちなみに秋冬ソング投票のランキング上位20曲の結果はこちら。10位内に入った曲のうち「STRIPE!」(6位)「赤いマフラー」(8位)「Firefly〜僕は生きていく」(10位)の3曲は、ワーナー在籍時代の楽曲でないという理由なのか未収録。投票自体はワーナー期限定ではなく、それが投票結果にも表れていると思うのですが、せっかくの企画ベストなのだから、権利関係をクリアにして全楽曲の中からの秋冬ソングを選んで欲しかったところではあります。しかし「PENGUIN」も18位にランクインするとは…。「南極」が歌に出てくるから、ということで冬ソングなんでしょうかね…?(笑)。
 さて、槇原敬之の代表シングル曲&秋冬ソングを(いくつか秋冬ソングか?と疑問に思う曲もありますが・苦笑)コンパイルした本作。個人的に一番のポイントは「どんなときも。」のバラードバージョン、「I need you.」のシングルバージョンがアルバムに初収録された、という点。こういった企画ベストでもない限り収録されることもないでしょうから、こうなったら来年の春あたりに春夏ソングベストとして「夏のスピード」や「CLASS OF 89」といったアルバム未収録の名曲も最新リマスターでアルバムに収録される機会を作っていただきたいものです(←結構切実な願い)。
 …話が逸れましたが、この「秋うた、冬うた。〜もう恋なんてしない」。彼のコアなファン層には「もっとこの曲を!」といった要望があるとは思いますが、ライトなリスナー層に隠れた佳曲をアピールするには良いコンピレーションだと思います。オールドファンの筆者としては、残念ながらソニー時代の作品なので未収録になりましたが、「Merry-go-round」(ランキング19位)を強く推しつつ(笑)今回の「CD Review Extra」を締めくくらせていただきます。