
元TMNのサポートメンバーであり、accessのキーボーディストでもあった浅倉大介が、access活動休止後のソロアルバムのゲスト・ヴォーカリストとして西川貴教を招いたのが縁で、浅倉プロデュースによる西川を中心としたプロジェクト、T.M.Revolution(以下、T.M.R.)がデビューしたのが1996年。浅倉らしいデジタルロックサウンドに、「HIGH PRESSURE」や「WHITE BREATH」など、ハイテンションな日常や恋の妄想(笑)などを描いた親しみやすい作風と、西川の高い歌唱力、そしてキャタクターで大ブレイクを果たしたのが1997〜1998年頃。その後順調に活動を続けるも、突如、T.M.R.を「封印」し、西川と浅倉の共同体制を前面に打ち出したこのユニットの結成が宣言されたのが、人気が安定しつつあった1999年春。同年のうちにシングル「陽炎-KAGEROH-」、「月虹-GEKKOH-」、「雪幻-winter dust-」の3枚をリリース。メディア露出を意図的に控え、ビジュアル面や音楽性などを大きく変化させた一年でもありました。そして翌年、これらのシングルにインスト4曲、新曲2曲の全9曲構成でリリースされたオリジナルアルバムが本作です。
さてこのアルバム、まず驚かされるのは、収録時間31分で3,059円という超強気な価格設定…ではなく(苦笑)、T.M.R.とは180度…とは言わないまでも、90度ぐらい作風をガラリと変化させたこと。歌詞に焦点を当ててみると、先行シングル3作を含めてアルバムタイトル通り「四季」をモチーフにしたコンセプトに沿って綴られるリリックに、従来見せていた「良い意味で分かりやすく、くだけた表現」は皆無。作詞を担当するのは従来と同じく井上秋緒なのですが、前年のシングル「THUNDERBIRD」でその片鱗を見せていたとはいえ、この人はこういった抽象的で行間を読ませ、リスナーに楽曲の情景をリスナーに自由に想像させる歌詞が書ける、幅広い人だったんだ、と感服した次第であります。
前述のコンセプトに従って、曲単位で「陽炎」(夏)、「月虹」(秋)、「雪幻」(冬)、そして新曲の「風のゆくえ」は早春、「はじまる波」は微妙に特定しにくいですが春と夏の間、という、「四季」の中で描かれる恋愛模様は、「これでこうしてこうなった」的な起承転結感は薄く、聴き手にイメージを委ねている感があり、リスナー個々に異なったストーリーを楽しんでもらうのを意図したかのよう。ちなみに筆者は「遠い恋の記憶をモノローグ的に振り返るオムニバス」といった印象を受けました。そしてそんな四季折々の心象風景を時に穏やかに、時に情熱的に歌い上げる西川貴教の歌唱力には圧倒されます。ちょっと前までコスプレして「ジャンゴー♪」とかおちゃらけながら歌っていたのが嘘のような(笑)シリアス路線なのですが、当時はこういったT.M.R.のキャラクターイメージが先行していたことも事実で、それを一旦リセットするためだと思われる、この時期の彼の活動については未だに賛否両論あるようですが、今後長く活動していくためには必要な儀式だったような気もします。
歌詞の面での変化に伴って、トータルプロデューサーとしてクレジットされている浅倉大介によるサウンド面でも、歌詞ほどではないものの大きく変化。最も分かりやすくT.M.R-eのイメージを示しているのがプロジェクト第1弾シングル「陽炎」。曲の途中で拍子とテンポが変わり、プログレライクなアプローチが登場するのには驚かされました。基本的にシングルはサビで始まるT.M.R.に対して、実に2分30秒までサビが出てこない(笑)「月虹」もある意味冒険的。歌モノに関しては間奏が演奏的にかなり凝っていて聴きごたえがありますが、敷居は決して高くはないように聴こえるのは、デジタルサウンドを深く突き詰め、そしてそれを一般リスナーに対して分かりやすく噛み砕いて届ける能力に長けている(と筆者は思う)浅倉大介の手腕ではないでしょうか。本作もT.M.R.と比較すれば親しみやすさは薄いですが、必要以上にマニアックになっていないところはさすが。
なお、本作はシングル曲のメロディーをモチーフにした1分半〜2分程度の短いインストが4曲、組曲風に配置されています。これらはクラシカルなフレーズを連ねた交響曲的な楽曲なのですが、すべてシンセサイザーによる打ち込みで、重厚な印象は薄いです。最初に聴いた時は、予算がないわけじゃないんだし生オケ使えばいいのに…と思ったのですが、このアルバム全体の箱庭的な雰囲気(現実性から少し離れた絵空事的な、という意味で)を考慮して敢えてファンタジックなシンセの音で構成したのかも…というのは穿ちすぎでしょうかね(苦笑)。
T.M.R-eとしてのリリース活動はこのアルバムで終了。この年の春には「封印解除」としてT.M.R.として活動を再開し、紆余曲折を経つつも現在に至っています。まあ、「the end of genesis~」というユニット名を付けたあたり、今思えば、最初から期間限定が前提の活動で、T.M.R.が本館ならT.M.R-eは別館、といったような路線だったような気もします。セールス面や知名度に関しては、この1999年〜2000年のT.M.R-eとしての活動で、世間的には「ブームは去った」的な印象を持たれてしまったことは否めないのですが、本作における抽象的で行間を読ませるような歌詞などは、後年のT.M.R.の楽曲の一部にも活かされているような気もしますし、決してこの1年間の活動は無駄ではなかったと思います。この時期の楽曲はベストやセルフカヴァーアルバムにもエントリーされないという、やや不遇の感があるので、たまには陽の目をみせてあげてほしいものです。
コメント
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で、このアルバムは体が夏になる、オールオッケー、ジャンゴー♪とか歌ってた彼の姿はこのアルバムではどこにもなく、大人のバラードばかり歌ってますね。でもこのアルバム、結構、気にいりました。TMRの曲で「THUNDERBIRD」が好きな方は結構、気にいるアルバムではないでしょうか?
最近の彼にこういった曲ないですよね。
ただ、評価が低いのはやはり曲がたったの5曲、インスト4曲って、いう所ですね...。
「THUNDERBIRD」が好きな自分としましては、このアルバムもなかななか良い、と思います。T.M.R.の明るく激しい(?)曲を求めているファンを一気にふるいにかけた感のあるアルバムでしたね。
まあそれにしても値段が…(苦笑)。ミニアルバム的なものとして2,000円ぐらいなら妥当なところだと思うのですが、その辺も含めて評価低めになってしまっているのでしょうかね…。