george30th 年代を問わずに新旧アーティストのお薦めのアルバムを紹介している「今週の1枚」。基本的には各アーティストのオリジナルアルバムをご紹介しているこのカテゴリーですが、今回は例外的にベストアルバムをピックアップ。つい先日、2011年10月10日にこの世を去られた柳ジョージ氏が、今から遡ること11年前、1999年11月21日にリリースした(当時の時点での)オールタイム・ベストアルバム「30th 1969-1999」を追悼の意味も込めて取り上げさせていただきます。

 正直筆者はライトなファンですので、柳ジョージ氏の経歴などはこちらを参照していただくとして、まずは個人的に彼の本作を手に取るまでの経緯を。結論から言ってしまうと、「柳ジョージ&レイニーウッド」の名曲「青い瞳のステラ、1962年 夏…」がきっかけだったわけですが、最初に聴いたのは20世紀末。実は彼らのオリジナルではなく、BEGINのアルバム「MY HOME TOWN」でカヴァーされていたこの曲を聴いて見事にツボにはまりまして、「この曲のオリジナルを歌っている人」に興味が湧き、オリジナル音源を探したところ、上手い具合に(?)デビュー30周年を迎えた彼のオールタイムベストがリリースされていたので、某大手チェーン店でレンタルし、初めて彼の音楽に触れた…という流れで今日に至っております。

 前置きが長くなりましたが(汗)、そんなわけで手にしたこの「30th」。ジョージ氏自らの選曲で30年間の活動をまとめたという2枚組、全32曲という大ボリューム。ワーナー、徳間、ビクター、東芝EMIなど、比較的頻繁にレコード会社を移籍される方だったようで、各レコード会社主導のベストアルバムはこのアルバムの前後の時代にも乱発されているのですが、どうやら本人監修のベストはこの作品のみということ。1999年当時の最新アルバム「Sunset Hills」の収録曲からDisc.1の1曲目が始まり、歴史を逆順に並べて、聴き進めていくたびに過去の作品に戻っていき、Disc.2のラストは1969年、パワーハウスとしてリリースされた作品で締め、という曲順になっていて、リアルタイムで彼の活動を存じているリスナーにとっては、タイムマシンで時代を遡っていく感が楽しめるのではないでしょうか。

 ちなみに私や、私の世代にとっての「柳ジョージ」といえば、90年代半ばに某ビールのCMソングとして頻繁に流れていた「バーニング」「Always」、1998〜2000年の3年間にわたってプロ野球中継のテーマソングとして起用された「Go for "The Dream"」などが、一聴すると「あ、このフレーズ聴いたことある」という感じでしょうか。1999年から1992年までの作品を集めたDisc.1がまさにその時代に該当。ですが聴いていくと、「バーニング」調の純ロック的な楽曲は、実は結構彼の歴史の中では異端なのかも…と思ったりして。根本にはブルーズロックが核にあると思われる彼の作品、「90年代だなぁ」と感じさせる音の響き(特にシンセ系の音など)もあるにはありますが、基本的には今聴いてもそれほど時代を感じさせない曲調、アレンジ。クラプトンのカヴァーでこれまたCMでガンガン流れた「Forever Man」は今テレビから流れてもおかしくないですし、久保田利伸が作曲を手掛けた(!)「Got My Loving」はヒット性を秘めながらも完全に「柳ジョージ」の作品として成立していて、90年代の日本の音楽シーンの荒波に揉まれながらも、独特のしゃがれ声ヴォーカルをはじめとした、彼の個性を保った好作品が多数収められていると思います。結構惚れた腫れたのラブソングが多い中、個人的には少年時代への郷愁を感じさせる「Sunset Hills」がやけに印象に残りました。まあ筆者がこういうテーマの曲に弱い、というのは度々本ブログで触れているので、「ああ、やっぱりな」とお思いの方もいらっしゃると思いますが…^^;。

 さらに時代を遡り、1990年から1969年までの21年間の活動を網羅したのがDisc.2。この年代に関しては筆者自身リアルタイムで音楽シーンを体感していないので、考察の類は控えさせていただきたいと思うのですが(汗)、この時代に製作された音源、本作に収録される際にリマスタリングされているのですが、録音当時の状態が良かったのか、音楽環境がより整ったと思われるDisc.1の時代に録音された音源と聴き比べても遜色のない、実にしっかりとした骨格を持ったリマスターが施されている印象です。先述の「青い瞳のステラ〜」はこちらのディスクに収録。寂寥感を感じさせる歌ながら牧歌的なアレンジが悲しさをより引き立てる名曲。この時代の代表曲は他に「FENCEの向こうのアメリカ」「雨に泣いてる」「酔って候」あたりでしょうか。だいぶ年代的に昔の楽曲達ですが、古臭さをさほど感じさせないのは先述のリマスター効果だけではないのかも。ちなみに「太陽にほえろ!」でおなじみ大野克夫氏が作曲、編曲を手掛けた「「祭ばやしが聞こえる」のテーマ」は和製AOR風で、何となくクレイジーケンバンドあたりが歌ってもおかしくなさそうなメロウな曲。そしてラストの「I WANT TO KNOW」は1969年の作品。約2分という短い曲なのですが、実に渋いアドリブ風セッションが味わい深い作品で本作を締めくくっています。

 本作品、デジパック仕様のCDケースに歌詞カードが貼り付き、中には逸話や30年間の写真がプリントされているという、まさに30周年記念の豪華仕様。正直、本作発売以降はジョージ氏の活動も緩やかにスローダウンしていき、最近はほとんどその活動自体を耳にしなくなってしまっていたのですが、この度の訃報に際し、数年前に買った本作を手に取って聴いてみて、改めて「時代を越えた柳ジョージの普遍的な声の魅力、曲の良さ」を感じた次第であります。昔からのリスナーの方々はもとより、彼の遺した音楽的遺産を耳にしたい方にはうってつけのベストアルバムだと思うのですが、どうやら本作、既に廃盤になっているようで、某ネット通販では彼の死後、定価の何倍もの高額で販売されているのが何とも…。日本クラウン様、どうか再販してはもらえませんかね?と切に願っております。

 …最後になりましたが、柳ジョージ氏のご冥福を謹んでお祈りいたします。