SIAM4 なんと、奇跡的に月2枚もご紹介できた(←自虐)「今週の1枚」。今回ご紹介するのはSIAM SHADEのメジャー3rdアルバム「SIAM SHADE IV・Zero」。1998年1月21日発売。

 SIAM SHADEは1995年にメジャーデビューし、2002年にバンドの歴史に幕を下ろした5人組ロックバンド。解散後はそれぞれ独自の活動をしつつ、2007年、そして今年2011年にも限定での復活を果たしていて、今後の活躍も期待したいところなのですが、そんな彼らがブレイクした90年代末期、最大のトップセールスをあげた作品が本作です。

 彼らは、ポップなメロディーにハードロックを基調としたサウンドのバランスの秀逸さ、ユニーク…とまでは行かないまでも、分かりやすいメッセージを含んだテーマの歌詞。そして抜群の楽器隊によるレベルの高い、時にプログレッシブ・ロックを彷彿とさせる演奏技術を持つという、ライトなファンにも、コアな音楽ファンにもアピール出来るポイントがそれぞれあるという、稀有な音楽性を持ったバンド。それだけでも、十分ヒットシーンの前面に立てるポテンシャルを持っていた彼らが、本作に含まれるシングル「PASSION」からプロデューサーとして明石昌夫氏を起用。B'zの共同アレンジャーをはじめとして、ZARDやWANDS、T-BOLANといった、90年代前半〜中盤のビーイング系の数々のアーティストをブレイクに導いた、いわゆるヒットのツボを隅々まで心得ている明石氏と彼らのタッグは、まさに「鬼に金棒」といったところ。当時の音楽業界で彼らが徐々に注目されはじめていたこと、某アニメのエンディングテーマに「1/3の純情な感情」がタイアップされたこと、そしてSIAM SHADEと明石昌夫のタッグ、すべての要素が良い方向に動き、完全にブレイクに至った経緯があったように記憶しております。

 このアルバム、いかにも明石昌夫的!(というかビーイング的?)と感じたのは、やはりキラキラしたシンセ、そして硬質のピアノ、それが彼らの楽曲の中に散りばめられているという点。先述のシングル2曲もそうですが、「Dear...」「Bloody Train」(のイントロ)あたりもまた然り。「Bloody〜」のほうは詞も曲もハードでヘビーな印象を受けるのですが、イントロにキーボードサウンドが入ることである程度そのハードさが緩和され、従来の彼らの同様の作品よりも聴きやすくなっています。これを「SIAM SHADEらしさ」で論じると賛否両論まっぷたつになるのではないかと思いますが、個人的にはこの聴きやすさこそが彼らをブレイクに導いたこということあり、またこのテイストがなければ彼らの音楽を聴くきっかけにはならなかったかな、と思うので、明石昌夫エキスの注入、大いにアリです(笑)。
 といっても、本作に収録中の楽曲は、すべて明石色に染め上げられた、というわけではなく、従来のSIAM SHADEの路線を打ち出している曲もバランス良く収録されています。タイトなビートに日常的なぼやきから始まってサビでは内面吐露に展開する歌詞が面白い「No!Marionette」や、歌の内容が聴き取れなくて、歌詞カードを見てびびった記憶がある(苦笑)「Money is king?」ではヌケの良いドラムの音が印象的な、ライブで盛り上がりそうなサウンドの曲があったりと、従来志向と、新しい志向(いわゆるビーイング的な)がアルバムに上手いこと収まっている1枚となっています。
 また、HIDEKIとKAZUMAのツインヴォーカルを活かしたバラード「誰かの気持ちを考えたことがありますか?」が中盤の6曲目に入っていることでメリハリが効いているのもポイント。もともとSIAM SHADEは純バラード曲がほとんどないということもあって、こういう壮大なバラードが入るだけで結構なアクセントになるんですよね。そして演奏隊の腕を存分に見せつけるインスト「Virtuoso」も目まぐるしい楽曲の構成、展開、変拍子っぷりに、その系の音楽ファンを悶えさせること必須だと思います(私のことか?)。

 冗談はさておき、以上のようにとにかく楽曲がアルバム全編にわたってバラエティに富んでいて、従来からのファン、「1/3〜」をきっかけに興味を持ったファン、どちらの層も楽しめる作品になっていると思います。リスナーへの聴きやすさ、というアピールポイントでいえば、このアルバムの次作「SIAM SHADE 5」のほうが上かな、とは思いますが(あっちのほうが収録ヒットシングル多いし)、前作「III」までのようなハードさと、次作「5」でのポップさ、それらの中間地点にある、非常にバランスの取れたアルバムです。一番売れたので中古市場にもそこそこ出回っているようだし(笑)、SIAM SHADE復活に合わせて未聴の方は是非お聴きいただきたい作品ですね。