komuroepic 1989年〜1992年の小室哲哉のエピックレーベルでのソロ音楽活動のベストセレクションアルバムが先日、2011年4月13日にリリースされました。レコード会社主導の企画とはいえ、いちミュージシャン、ヴォーカリストとしての小室哲哉の活動を1枚にまとめたベストアルバムというのは、彼の長い音楽活動歴の中では実は初めての発売だったりします(TM関係のベストは10枚以上も出ているというのに・苦笑)。それを記念(?)しまして、今回のCD Reviewは特別仕様。本作「TK Best Selection in Epic Days」収録曲全13曲を、1曲ずつレビューしていきたいと思います。ご興味を持たれた方は「続きを読む」からどうぞご閲覧ください。
小室哲哉「TK Best Selection in Epic Days」発売記念全曲レビュー


1.RUNNING TO HORIZON
 1989年10月28日発売のソロデビューシングル。
 TM NETWORKをブレイクに導いた「Get Wild」をエンディングテーマとして起用していたテレビアニメ「シティーハンター」のアニメ第3弾「シティーハンター3」のオープニングテーマとしてオンエアされていた。
 TMの「DIVE INTO YOUR BODY」(同年7月発売)と同時期に制作された曲らしい。曲の展開やユーロビートな辺りは二曲とも似ているが、「RUNNING〜」のほうがもう少しデジタルポップ寄りな作りだろうか。1コーラス目が終わった後で突如転調して奏でられるエレピのソロがインパクト大でお気に入りである。
 TMでもコーラスしかやらなかった小室哲哉の初メインヴォーカル作品。だいぶ後に宇都宮隆がこの曲をカヴァーしているが、個人的にはこの曲の畳み掛けるようなメロディーと刹那的な歌詞(作詞は小室みつ子)には小室の声が最適だと思う。デビュー曲にしてオリコン1位を獲得。

2.GRAVITY OF LOVE
 1989年11月17日発売のセカンドシングル。
 イントロからパーカッシブな音を多数散りばめ、全体的にリラックスしたムードのミディアムナンバー。当時TMのサポートメンバーだったB'zの松本孝弘がギターでゲスト参加している。
 今回は小室自身の作詞。タイトル通りの甘々なラブソングであるが、SF的かつ抽象的な表現や言い回しの多いTMのラブソングと異なり、等身大な世界を綴った詞が親近感を覚える。初聴きはあまり印象に残らなかったが、じっくり聴いていくとこの曲の良さが分かってくる、そんな一曲。
 前作に続き、この曲もオリコン1位を獲得。当時シングル首位連続記録を更新していた松田聖子の新曲を抑えて1位を獲得してしまった、という逸話(?)が残っている。

3.SHOUT
 1989年12月9日発売のデビューアルバム「Digitalian is eating breakfast」収録曲。
 このアルバムのリードトラック的な楽曲で、煌びやかなデジタルポップサウンドが炸裂。小室の早口ヴォーカルもインパクト大である。本人作詞による曲で、初っ端のブランド名連発などはどことなく80年代末のバブリーな雰囲気を連想させる。深夜を舞台に、魅力的な女性への抑えきれない愛情を歌った曲、といったところ。
 当時この曲は、ハウス食品「オーザック」のCMソングとして本人と共に起用された。「今度のポテトは、音がいい」と小室が言っているのを、筆者は世界名作劇場のCMで毎週観ていた(笑)。

4.OPERA NIGHT
 前曲同様、「Digitalian is eating breakfast」収録曲。
 元々はTM NETWORKが1984年にレコーディングまでしていたがお蔵入りになっていた「OPEN YOUR HEART」(作詞:麻生香太郎)という曲のリメイク。ちなみに「OPEN〜」のほうは1994年のTMN終了時のベストアルバム「TMN RED」に収録された。ということで世に出たのはこちらの方が先。サビの最後の部分のメロディーがリメイクにあたって追加されている。
 作詞は小室みつ子。仮面舞踏会をモチーフにしたと思われるオペラの世界(?)を描いた作品。四つ打ちのディスコビートが心地よいマイナーチューン。

5.天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜 (MOVIE MIX)
 1990年4月20日発売の4枚目のシングル。セールス的には最大のヒットシングルである。
 角川映画「天と地と」のテーマソングとして書き下ろされた作品。同作のサントラも小室が手がけてアルバムリリースしている。戦国時代を舞台にした映画の主題歌ということで、詞曲ともに従来の小室作品になかった「和」のテイストを盛り込んだ意欲的な楽曲。流れるような美しいメロディーラインを持った作品で、インスト作品としても十分に通用するメロディーを持っていると思う佳曲である。
 なお、本作に収録されたのはシングルCDのカップリングに収録されていた「MOVIE MIX」。オリジナルバージョンであったサビの後の英語で歌われるメロディー部分をカットし、一部の楽曲構成も変更しているアナザーバージョンでアルバム初収録。日本映画のエンドロールに流れるには最適なバージョン…だと思うのだが、実際の映画本編ではこの曲は流されなかったらしい。何故だ?!

6.アストラルプロジェクション〜幽体離脱〜
 1990年9月21日発売、アルバム「Psychic Entertainment Sound」収録楽曲。
 当時、時の人だったMr.マリックとの共同制作(?)で作られたインストアルバムからの一曲。
 この曲はSEが漂う中で小室がインプロ的にピアノを弾いている、という感じで、あまりインスト楽曲という気はしない。まあ、タイトル通り「幽体離脱してる」っぽい作品ではある。小室作品を時系列で収録している本作では、結果的に前後の「天と地と」「永遠と名づけてデイドリーム」を繋ぐ、長めのインターバル曲的な印象を受ける。
 余談であるが、同年8月にTM NETWORKがTMNにリニューアル宣言。10月にTMNとしての第1弾シングルが発売された。その合間にリリースされたこのアルバム、当時筆者は既にリアルタイムでTMファンではあったが、この作品に関しては宣伝活動をほとんど見たことがなく、いつの間にか発売されていた感がある。

7.永遠と名づけてデイドリーム
 1991年12月12日発売の5枚目のシングル。
 ミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」の音楽担当となった小室の同タイトルのサントラアルバムからの先行シングル的な作品。
 ピアノとストリングスの音を前面に出したミディアムバラードだが、左チャンネルで薄く鳴っているアコギのカッティングが個人的にツボである。
 作詞は脚本家・坂元裕二が担当。モーツァルトの生涯をイメージしたかのような歌詞だが、読み方によっては音楽家(小室)の矜持を綴っているようにも見える秀逸な内容。特にラスト近くの「いつか僕が泳ぎ疲れて〜」から始まるフレーズが心に響く名曲。

8.背徳の瞳〜Eyes of Venus〜
 1992年1月18日発売。小室哲哉とXのYOSHIKIとのスペシャルユニット・V2の唯一のシングル。
 オープニングの二人によるピアノの連弾が終わると、YOSHIKIの高速ドラムが炸裂するメタルナンバーに変貌。かなりX寄りの音楽性だが、小室らしいシンセのチューニングフレーズが所々出てくるあたりはTMファンとして聴いていて思わずにやけてしまう。ちなみにギターの音は入っておらず、シンセの音を重ねまくって重厚な雰囲気を出している。
 諸事情により小室がヴォーカルを取ることなり、ハードなメタルサウンドに小室のサイケデリックな歌声が響くというかなり強烈な個性を放つ楽曲となった。これに関しては発売当時から色々と言われていたようだが、個人的には小室の歌声は嫌いではないので問題なし(笑)。
 ユニット・V2の活動はこのシングルと1度きりのライブ公演を収録したビデオ1本のみ。復活の噂も近年出てはいたが、未だ実現していない。

9.Magic
 1992年10月1日リリースの6枚目のシングル。
 TMNとしての活動を休止し、メンバーのソロ活動の口火を切った作品。提供楽曲をセルフカヴァーしたアルバム「HIT FACTORY」からの先行シングル。
 TMNの前年のアルバム「EXPO」でのハウスミュージック的な流れを汲みながらも、ブラスやホーンなどの生楽器を積極的に導入した実験的なサウンドだが、α波が出そうな心地良い響きの楽曲である。
 話は変わるが、この年の春まで茶髪で前髪をツンツンに立てていた小室が、黒髪マッシュルームカットに健康的に日焼けをしているという姿でCDジャケットに写っているのを見た時は、そのあまりのイメチェンぶりにかなり衝撃を受けた(笑)。

10.50/50
 1992年10月21日発売、アルバム「HIT FACTORY」収録曲。
 1987年に中山美穂に提供した曲のセルフカヴァー。
 作詞は同じ田口俊であるが、歌詞がオリジナルと全く違い、深遠な恋愛世界を描いたものに差し替えられている。アレンジもマイナー調を押し出し、サビ手前のメロディーの間の取り方も変更されていたりと、原曲とかなり印象が異なる。個人的には小室好きということを差し引いてもこちらのバージョンのほうが好みである。

11.Too Shy Shy Boy!
 アルバム「HIT FACTORY」収録曲。
 同年に観月ありさに提供した曲のセルフカヴァー。いわゆるこの時点での小室の最新ヒット曲である。
 印象的なピアノやサックスのフレーズが間奏を彩ったりと、原曲よりもさらにラテン的な踊れる感を強調したアレンジになっている。観月バージョンでも作詞を手がけた小室であるが、セルフカヴァーするにあたり歌詞を一部変更。男性視点からのラブソングとなっている。
 ところで「HIT FACTORY」の歌詞カードはすべてローマ字綴りでとても読みづらい。歌詞を聴き取りたいならローマ字を解読するよりもCDを聴いた方が早いような気がする(笑)。

12.Pure *Hyper Mix*
 1992年11月27日発売の7枚目のシングル。
 この年の10〜12月にオンエアされた、フジテレビ月曜9時のドラマ「二十歳の約束」の音楽を担当。同名のサントラと同日発売されたインストシングルである。
 このドラマは未見だが、ドラマチックな場面で流れそうな印象的なフレーズを持った楽曲である…が、あまり小室哲哉の色というものを感じさせない作りになっている。あくまでBGMということで抑えて作ったのだろうか?アレンジが小室本人ではない(クレジットに編曲:三宅一徳とある)のもそう感じる一因なのかも。

13.RUNNING TO HORIZON(SHEP PETTIBONE SPECIAL REMIX)
 デビューシングル「RUNNING TO HORIZON」のカップリングとして収録されていた、SHEP PETTIBONEによる8分近くに及ぶ同曲のリミックスバージョン。アルバム初収録。
 リミックスならではの長いイントロ(原曲もイントロ長いのだが・笑)、ヴォーカルとコーラスのバランス、全体的な構成の変更など、素材をうまく調理したロングバージョン。原曲との聴き比べが楽しいリミックスである。
 本作には13曲目(ラスト)という、ボーナストラック的な配置で収録されたが、どうせならば未収録となった「CHRISTMAS CHORUS」(サードシングル)も収録して欲しかったかな、というのが正直な感想である。


 以上、全13曲のレビューをお送りしました。
 本作品はCD+DVDの2枚組での発売。DVDのほうは「TK “eZ-TV”Collection」と銘打たれた、80年代末から90年代初頭にかけて深夜に放送されていたソニー系列の音楽番組「eZ」に、小室哲哉がソロやV2として出演した際のスタジオ演奏やライブダイジェストを収録。当時の貴重なアーカイブスで、コアなファンほど嬉しい内容です。TMNもこの番組で結構特集されていたので、同じような内容のベストアルバムばかり出すのなら、こういう映像集DVDをリリースすればいいのに、と思ったりしました(苦笑)。

 本作は1992年までに小室哲哉が残した音源からのコンピレーション。翌年彼はtrfをブレイクさせ、1994年TMN終了後以降のプロデューサーTKとしての活躍、そしてその後の顛末は皆様ご存知の通り。現在は他アーティストへの楽曲制作提供を中心に再起をめざしている彼ですが、来月には久々にオリジナルソロアルバムがリリースされるということです。本作での小室哲哉と2011年のTK。聴き比べる意味でも来月のアルバム、聴いてみようと思っております。