kanbounds 来る2010年10月27日、現在廃盤になっているKANのオリジナルアルバム「テレビの中に」から「KREMLINMAN」までの12枚が『THE RESTORATION SERIES』と称されて再発されることになりました。
 そのシリーズの番外編、すなわちエクストラとして、今までオリジナルアルバムに収録されることのなかったシングルのカップリング曲を中心に構成された「Songs Out of Bounds」も同時発売されます。今回のCDレビューでは、再発+αを記念して、この「Songs Out of Bounds」に収録される全12曲を1曲ずつレビューしていこうという、あまりニーズのなさそうな(苦笑)企画に挑戦です。あまりにマニアックな曲達の紹介ゆえ、興味を持たれた方は「続きを読む」よりご覧くださいませ。
KAN「Songs Out of Bounds」発売直前全曲レビュー

1.OVER YOU
 1988年10月25日発売の4枚目のシングルタイトル曲。
 3枚目のアルバム「GIRL TO LOVE」と4枚目のアルバム「HAPPY TITLE」の間にリリースされた曲ではあるが、オリジナルアルバムには収録されず、非公認ベスト「ゴールデン☆ベスト」に収録されただけで、公式には今回アルバム初収録となる。
 タイトルは和製英語とのこと。歌詞は、彼女に手を出そうとしたが未遂に終わった明け方のレストランでのやり取り、という結構とんでもない舞台設定の曲(笑)。「僕が君の身体に興味持つことはごく自然なことさ」というフレーズをサラリとメロディーに乗せるKANも凄いがこれをシングルカットしようと思ったスタッフも当時のKANのパブリックイメージから考えると凄いかも。
 なお曲のほうは実験的な軽い打ち込みサウンドで、林部直樹氏がアレンジに参加している。この妙な軽さは「HAPPY TITLE」のアルバムカラーに馴染まないので収録を見送られたのかも?今聴くと軽妙なところに哀愁が漂う…気がする。

2.NEVER LEAVE
 「OVER YOU」カップリング曲。
 最初はピアノ独唱で始まるが、途中から「OVER YOU」同様に実験的サウンドが導入されるミディアムナンバー。この曲も林部直樹氏がアレンジ参加。
 KANの著書「ぼけつバリほり」によるとタイトルの「NEVER LEAVE」は「ねばり」とかけたダジャレということ(苦笑)。とはいえ、「大きなことこそ小さなもんからはじまるさ」といったメッセージ性を持った歌詞はなかなか良いと思う。

3.それでもふられてしまう男(やつ)
 1990年9月1日発売のシングル「愛は勝つ」のカップリング曲。
 情けないタイトルとは裏腹に「どんなにあがいても君は僕のものになる」とやけに強気な歌詞が目を引く。が、最後は「頼むから僕を嫌わないで」と、一転弱気になるのが面白い。1曲目で「必ず最後に愛は勝つ〜♪」と歌っておきながら2曲目のタイトルは…その結末というかオチ?その辺りのセンスが個人的にツボである(笑)。先述の著書によると仮タイトルは「ギネス」だったとか。
 アレンジは佐藤準氏。リードシンセの使い方が時代を感じさせる1曲。「愛は勝つ」をシングルカットしたアルバム「野球選手が夢だった。」製作初期のストック曲らしい。
 200万枚を売り上げたシングルのカップリングだが、この曲の知名度はどれぐらいあるのだろうか?

4.恋する気持ち
 1991年7月11日発売のシングル「プロポーズ」の両A面曲…だったはずが、公式サイトなどではカップリング曲扱いになっている。
 「プロポーズ」がアルバム「ゆっくり風呂につかりたい」からのシングルカットだったので、こちらはアルバムリリース後初の新曲ということに。「やまだかつてないテレビ」の中の1コーナーの真面目っぽい(?)ドラマの主題歌になっていた記憶がある。
 ポップな曲調で、「二度と恋はできないはずの僕だったのに君が現れて恋しちゃったみたい」(大意)という、当時中学生だった筆者にはとても共感できたナンバーで今でも好きな曲。
 翌年のベストアルバム「めずらしい人生」に収録されたが、今回の再発にベストは含まれなかったために今回このアルバムに収録されたと思われる。アレンジはKANと小林信吾氏の共作。「野球選手〜」以降のKANの曲は基本的にこの二人のタッグでアレンジされている。

5.めずらしい人生
 1992年2月28日発売のベストアルバム「めずらしい人生」のオープニングを飾るタイトル曲にして新曲。後の非公認ベストアルバムに収録されたこともある。
 1コーラスは幼少時から18歳までを、2コーラスはそれ以降の人生を、リフレインではこれからの人生をシリアスな歌詞で綴る名曲。「終わりある人生 一番大切なことは愛する人に愛されているかどうかということだ」というラストのくだりが胸を打つ。
 前述のとおり今回このベストアルバムは再発されなかったが、KAN入門編には依然としてこの曲を含め最適な1枚であるので、KANに興味を持った方には是非一度聴いてもらいたいアルバムである。ブックオフとかで安く買えるし。

6.こっぱみじかい恋
 1992年1月29日発売、11枚目のシングルタイトル曲。
 ベストアルバム「めずらしい人生」の先行シングル。「恋する気持ち」と同じ理由で今回アルバムに収録された様子。
 映画「夜逃げ屋本舗」のテーマソングということだったが、歌詞は映画とは特に関わりはないらしい。歌詞の内容は、付き合ってあっという間に別れを切り出されてしまった「僕」の嘆きと恨み節(?)。レトロなオルガンが鳴り響いたり、間奏でブラスとストリングスが絶妙に絡みあったりとサウンド的な聴きどころも満載。この頃からだろうか、前年までのポップな好青年的イメージからもう少しアダルトな路線に詞も曲も徐々にシフトしていったような気がする。シングルのジャケットもモノクロで渋め。

7.Long Vacation
 1993年1月21日発売のシングル「丸いお尻が許せない」のカップリング曲。
 カップリングだが福岡国際マラソンのテーマソングというタイアップが付いていた。だからなのか「君の背中に光る汗を見た」といった、およそKANらしくない(笑)青春なフレーズが入っていたりする。とはいえマラソンをテーマにした曲ではなく、どこか広い世界に君を連れていくよ、といったバケーションお誘いソング(?)。爽快なポップナンバーで、発売当時アルバム「TOKYOMAN」に収録されなかったのが残念だったので、今回の収録はとても嬉しい。

8.はやくふってくれ
 1993年11月17日発売のシングル「いつもまじめに君のこと」のカップリング曲。
 ほのぼのとしたシングルタイトル曲とは裏腹に、こちらは彼女の気持ちが離れてしまったことに感づいてしまった主人公が「苦しいからはやくふってくれ」と心象を吐露するヘビーな楽曲。「いまさらどうにemotion〜♪(いまさらどうにも)」とこっそり歌詞に遊び心もあるが、マイナー調で切ない曲。当時、苦しいなら自分からふればいいのに、ふられるのを待っているなんてズルい、と思っていた若かりし記憶が(笑)。

9.君たちはうまく行く
 1994年11月26日発売のシングル「Sunshine of my heart」のカップリング曲。
 主人公の友達のカップルの片方の女友達からの相談を受けて「色々あるけど大丈夫、君たちはうまく行くよ」といったある種の励ましソング。とはいえ、「心配ないからね〜♪」的なノリではなく、ミドルなビートに「まあ、何とかなるでしょ君たちはきっと」みたいな、一種達観したかのような歌詞の乗った落ち着いた曲である。地味な曲なので当時は正直ピンと来なかったが、最近自分の中でこの時期のアルバム「東雲」の評価が高まってきているので、今回改めて聴いたらまた違う感想が出てくるかもしれない。

10.ライバル
 1995年1月25日発売のシングル「すべての悲しみにさよならするために」の両A面…だったはずが、今では(以下「恋する気持ち」の項と同様)。「すべての〜」がアルバム「東雲」からのシングルカットだったので、こちらは新曲扱い。
 ブルボンのバレンタイン&ホワイトデーのキャンペーンCMソング。舞台は高校。中学からの腐れ縁でライバルの二人の男子が一人の女の子への告白を巡ってあれやこれや、という微笑ましい青春ソング。この時期の彼にしては作風が若く、1990年代序盤の爽やかボーイポップ路線をセルフパロディしたような作品。シングルの裏ジャケットにも詰襟の学生服を着たKANの姿が映っている(当時三十代中盤)。

11.練馬美人
 1995年5月10日発売のシングル「東京に来い」のカップリング曲。「東京に来い」も「すべての〜」同様、アルバム「東雲」からのカットで、こちらは純粋な新曲となる。
 練馬に住む上流階級の美人を車で迎えに行ってデート、みたいな感じの曲だが、歌詞を読んでいくと彼女とはまだ恋人未満という状況の気がする。それでも諦めないで今日も迎えに行くのさ、という健気な主人公が泣かせる(?)。初期ビートルズを意識したメロディーラインやコーラスワークが心地よい。

12.続ライバル
 1996年5月27日発売のシングル「MAN」のカップリング曲。
 パッと見「ライバル」の後日談のように思えるが、実質は「ライバル」の別バージョン楽曲。具体的に挙げると「ライバル」の歌詞にさらに1コーラス追加されたり、ところどころに遊びのフレーズ(楽曲早回しなど)が入ったりと、カップリングだから許される自由な実験の場所にこの曲を使ったという感じ。
 そして追加された歌詞の最後に、思わぬ展開が待っている(笑)。何が起きたのかは…このアルバムを聴いて確認を!(おい)


 …というわけで全12曲をご紹介いたしました。
 KANのアルバム未収録曲はこの1枚ですべてコンプリート!・・・と言いたいところですが実際はそうではなく、既発表曲のリメイクバージョン、ライブ音源、カヴァー等々を含めると、実はあと1枚ぐらいアルバムが作れそうなほど未収録音源が残されていたりします(汗)。中でも1990年代末の彼のシングルのカップリングにハイ・ヴィジュアル系バンド「ボン・マルシェ」名義で収録されていた「女神(VENUS)」「天使(ANGEL)」「迷宮(LABYRINTH)」の三部作の収録を見送られたのはちょっと残念(笑)。
 とはいえ、KAN名義のオリジナル曲でアルバム未収録曲は本作ですべて収録。この作品を手に取って、彼の隠れた名曲を楽しんでいただければ、ファンの一人としてこれほど嬉しいことはありません。