wannagohome  実に前回からちょうど半年ぶりにご紹介する(汗)「今週の1枚」。第51回目の今回は、B'zのギタリスト、松本孝弘のセカンドソロアルバム「Wanna Go Home」をピックアップ。1992年4月22日発売。

 B'z結成前はTM NETWORKをはじめとして数々のサポートやレコーディング活動を行っていた松本孝弘。彼のアーティストとしてのデビュー作は、B'zとしてデビューする前、1988年の「THOUSAND WAVE」というソロアルバム。ギタリスト松本としての腕を存分に見せつける、全編インストのギターロックアルバムという印象が強かった前作。今作も「ギターを軸にしたインストアルバム」という点では変わっていませんが、音楽性はアダルト・コンテンポラリー的要素が強く、当時のヒットシーンを駆け登っていったB'z的なサウンドともまた一線を画すアルバムに仕上がっているところが前作との最大の違いだと思います。

 まず、1曲目にしてタイトル曲の「Wanna Go Home」からして、抒情的なフレーズが全編を占めるスローナンバー。B'zでおなじみの明石昌夫に加え、葉山たけしをアレンジャーに迎えた「99」(前作収録曲のリメイク)は静と動が交錯するナンバーにお色直し(ダンサブルな部分は大黒摩季の初期っぽいアレンジのような?)、フュージョン的なアプローチを試みた「Air Port」や、ややエロティックな「Love Ya」など、かなり大人びた雰囲気の曲が前半〜中盤は続きます。
 個人的にはシングルのカップリングとして既発表だった「LIFE」が「Life II」となってリアレンジされていたのにはビックリ。あれほどスピード感満載だった原曲のロックナンバーを、リズムやキーを変更し、ゆったりとした曲に生まれ変わらせてしまうとはと驚くと共に、失礼ながらロック一辺倒というイメージが強かった松本孝弘、そして明石・葉山両氏のアレンジメント能力の懐の深さに、当時脱帽してしまった次第です。

 後半になると先行シングルであり、2010年の現在でも「Mステ」のオープニングテーマとして流れ続けている「♯1090〜Thousand Dreams〜」や、続く終盤の「Jammin' of The Guitar」「Speed」など、松本孝弘の魅力のひとつである「エレキをガンガンに引き倒す」的な熱いプレイが披露されている曲もあるのですが、最後はタイトル曲「Wanna Go Home」のリプライズで締めているように、それらもあくまで「今作の側面のひとつ」であり、アルバム1枚で「松本孝弘の持つ引き出しを多数に開いて紡ぎだした1枚」という作品になっていると感じました。

 個人的な思い入れ、というか、この曲を聴くと思い出すというのは「Long Distance Call」。かなり長い間TOKYO-FMの交通情報で流れていたので、この曲が流れるとFMをよく聴いていた中高生の頃が頭に浮かんだり、また「'88〜Love Story」は1991年の秋にリリースされたシングルだったのですが、そのシングルを買った当時の冬休みに旅行に出かけ、電車で移動中に冬の海を眺めていたらこの曲がその風景にとてつもなくハマっていたなぁ、という、相当昔の思い出がフラッシュバックしたりと、なかなか懐かしい気分にさせてくれました。久々にこのレビューを書くためにこのアルバムを引っ張り出してきたら思い出も一緒に引っ張り出してきてしまったようです(笑)。

 この年の暮れに、B'zは彼らのルーツであるハードロック路線に舵を切り、いよいよB'zも人気絶頂時代を迎えます。その前夜にリリースされたこの「Wanna Go Home」は、その後のB'zの路線から比べると地味なアルバムではあるわけですが、どの曲もギターがヴォーカルの代わりにしっかりと「歌って」おり、各曲ごとに聴き手にとってのそれぞれの情景が浮かんでくるであろうという点はインストアルバムならでは。生音を軸に打ち込みも含めて作り込まれたトラックは、今聴いてもそれほど古さを感じさせません。特にこれからの季節、静かな秋の夜長にしっとりと聴いてみると、また新しい発見があるかもしれませんね。