
B'z結成前はTM NETWORKをはじめとして数々のサポートやレコーディング活動を行っていた松本孝弘。彼のアーティストとしてのデビュー作は、B'zとしてデビューする前、1988年の「THOUSAND WAVE」というソロアルバム。ギタリスト松本としての腕を存分に見せつける、全編インストのギターロックアルバムという印象が強かった前作。今作も「ギターを軸にしたインストアルバム」という点では変わっていませんが、音楽性はアダルト・コンテンポラリー的要素が強く、当時のヒットシーンを駆け登っていったB'z的なサウンドともまた一線を画すアルバムに仕上がっているところが前作との最大の違いだと思います。
まず、1曲目にしてタイトル曲の「Wanna Go Home」からして、抒情的なフレーズが全編を占めるスローナンバー。B'zでおなじみの明石昌夫に加え、葉山たけしをアレンジャーに迎えた「99」(前作収録曲のリメイク)は静と動が交錯するナンバーにお色直し(ダンサブルな部分は大黒摩季の初期っぽいアレンジのような?)、フュージョン的なアプローチを試みた「Air Port」や、ややエロティックな「Love Ya」など、かなり大人びた雰囲気の曲が前半〜中盤は続きます。
個人的にはシングルのカップリングとして既発表だった「LIFE」が「Life II」となってリアレンジされていたのにはビックリ。あれほどスピード感満載だった原曲のロックナンバーを、リズムやキーを変更し、ゆったりとした曲に生まれ変わらせてしまうとはと驚くと共に、失礼ながらロック一辺倒というイメージが強かった松本孝弘、そして明石・葉山両氏のアレンジメント能力の懐の深さに、当時脱帽してしまった次第です。
後半になると先行シングルであり、2010年の現在でも「Mステ」のオープニングテーマとして流れ続けている「♯1090〜Thousand Dreams〜」や、続く終盤の「Jammin' of The Guitar」「Speed」など、松本孝弘の魅力のひとつである「エレキをガンガンに引き倒す」的な熱いプレイが披露されている曲もあるのですが、最後はタイトル曲「Wanna Go Home」のリプライズで締めているように、それらもあくまで「今作の側面のひとつ」であり、アルバム1枚で「松本孝弘の持つ引き出しを多数に開いて紡ぎだした1枚」という作品になっていると感じました。
個人的な思い入れ、というか、この曲を聴くと思い出すというのは「Long Distance Call」。かなり長い間TOKYO-FMの交通情報で流れていたので、この曲が流れるとFMをよく聴いていた中高生の頃が頭に浮かんだり、また「'88〜Love Story」は1991年の秋にリリースされたシングルだったのですが、そのシングルを買った当時の冬休みに旅行に出かけ、電車で移動中に冬の海を眺めていたらこの曲がその風景にとてつもなくハマっていたなぁ、という、相当昔の思い出がフラッシュバックしたりと、なかなか懐かしい気分にさせてくれました。久々にこのレビューを書くためにこのアルバムを引っ張り出してきたら思い出も一緒に引っ張り出してきてしまったようです(笑)。
この年の暮れに、B'zは彼らのルーツであるハードロック路線に舵を切り、いよいよB'zも人気絶頂時代を迎えます。その前夜にリリースされたこの「Wanna Go Home」は、その後のB'zの路線から比べると地味なアルバムではあるわけですが、どの曲もギターがヴォーカルの代わりにしっかりと「歌って」おり、各曲ごとに聴き手にとってのそれぞれの情景が浮かんでくるであろうという点はインストアルバムならでは。生音を軸に打ち込みも含めて作り込まれたトラックは、今聴いてもそれほど古さを感じさせません。特にこれからの季節、静かな秋の夜長にしっとりと聴いてみると、また新しい発見があるかもしれませんね。
コメント
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松本のソロですか。基本的にこの人のソロアルバムって、インストが多いですよね。99年頃は歌ってたそうですが...。やっぱり、B'zがソロ活動すると稲葉の方が売れるんですよね。やはり、歌入りじゃないと、売れないんですね...。でも、松本さんのインストアルバムは出せばTOP10に入るので、それは凄いなと思います。
あと、今年の6月にラリー・カールトンと手を組んでインストアルバム出しましたね。それは聴きましたか?
どうも初めまして。
管理人のSASAです。ご来訪、そしてコメントどうもありがとうございます。
インストアルバムはなかなか売れませんよね…。それでも松本さんのアルバムは売れているほうでしょうね。インストということで、本体であるB'zとは明確な違いがあってまた魅力だと思います。
カールトンとの共作アルバムはまだ聴いていませんが、機会があれば手を出してみようと思います(レンタルあるかな?)。
カールトンと共作した「Take Your Pick」は、国内盤は発売元がB'zが所属しているVERMILLION RECORDSなので、国内盤という扱いになっています。
なので、既にレンタルは開始されていますね。秋口によく似合うアルバムなので是非ご一聴を…。
松本のアルバムは、やはりB'zのネームバリューもあってかソロギタリストとしては異例の売り上げを誇っていますね。「Wanna Go Home」も20万枚近く行ったそうで。
松本と言えば基本的にハードロック要素が強いと言われていますが、このアルバムを聴くとフュージョンからAORまで、非常に間口が広い作風だと感じます。
最近は音的にも年齢的にも渋みを増してきているので、もう一回こういう路線のソロを聴いてみたいですね。
国内盤なんですね。近く(といっても自転車で20分^^;)のTSUTAYAにあるかな…チェックしてみます。
「Wanna Go Home」はちょうどB'zの人気がうなぎ上りだった頃出たアルバムだけあって、ソロアルバムにも売上げは良い影響を受けたようですね。
ハードロック要素だけではない松本氏の一面がうかがえるアルバムなので、近年のB'zファンの方々にも聴いていただきたいアルバムです。
でも、実はこのアルバム、完全に「#1090」目的で買ったアルバムであり、実際聴いて
みたら、アップテンポの「#1090」とは正反対に、意外にも聴かせる系の曲が多かったの
で、あんまり聴いてなかったんですよね・・・(^^;。(個人的には、聴かせる系より、ノ
リのいいアップテンポ曲の方が好みなんで(^^;。)
しかし、久々に聴いてみたら、どの曲もギターの色気が出ている美しい楽曲が揃ってい
るアルバムであったことに気づき、とてもいいアルバムだと思えてきました。歌詞カード
に載っているポエムもいい感じで、これを読みながら曲を聴くと、1曲1曲にまた違ったイ
メージが沸いて、とても新鮮な気分で聴けますね。
にしても、B'zは基本的にハードロック系の曲が多いから、やはり昔は松本さんも、ロ
ックなギターリストのイメージだったんですが、最近は「華」や「House Of Strings」
等、聴かせる系の曲が多いですね。このアルバムも、その手の曲が多いから、実は松本さ
んはロック系より実は聴かせるタイプのギターリストなのかなとも最近は思えてきます。
(そう言えば、どこかのサイトで、松本さんが「最近は早弾き等のかっこ良さより、ギ
ターと曲との調和を大切にしている」と言うような内容をおっしゃってたのを読んだこと
があります。)
ちなみに、最近リリースされたラリー氏との共作のアルバムもやはり聴かせる系の内容
で、松本さんとラリー氏とのギターのぶつかり合いが面白く、ジャジーでおしゃれな楽曲
が揃った素敵なアルバムに仕上がっていましたよ!こちらも是非、聴いてみてください
ね!
確かに「♯1090」のノリを期待してアルバムを聴かれたら面食らうかもしれませんね。前年にシングルで出ていた「'88〜Love Story」の雰囲気に近いといえば近いでしょうか。個人的には「♯1090」のカップリング「Life」の疾走感溢れるオリジナルバージョンが今も昔も大好きなのですが、このアルバムの大人っぽいバージョンには本当に驚かされました。
そうそう、曲ごとのポエム、なかなか味があっていいですよね。インストなので当然メロディーに歌詞はないわけですが、あのポエムを頭に入れて楽曲を聴いていくと、また何か違う感想を抱いたりしますね。
松本さんはわりとオリエンタルな旋律をフレーズに取り入れる印象がB'zでも感じるんですが、この侘び寂び感を聴かせるところがまた魅力だと思います。共作アルバムも探してみたいと思います。