
1994年のTMN「終了」以降、音楽プロデューサーとして台頭してきた小室哲哉。特に1994年から1997年ぐらいまでの、いわゆるTKブームの全盛期と言ってもよいこの時期、女性シンガーを中心に、数々のプロデュース業をこなしてきた彼ですが、1995年にシングル「keep yourself alive」でデビューさせたこの華原朋美は、他のアーティスト、シンガー達とは小室にとっては一線を画す存在、というのは周知の通り。
まあ、ぶっちゃけた話「小室哲哉の恋人」という売り出し方でデビューした彼女は、デビュー後間もなく、そのセールスポイントを十分に活かし、そして小室哲哉も良質の楽曲で彼女をプロデュースし、シングル「I BELIEVE」「I'm proud」はミリオンセールスを達成、そして満を持してリリースされたこのアルバム「LOVE BRACE」も200万枚オーバーの大ヒットを記録と、当時の二人にとっては記念碑のような作品になったのではないでしょうか。
そんな今作は、アルバム1枚を通してひとつの物語になっているかのよう。荘厳なストリングスで始まる冒頭の「LOVE BRACE-overture-」はまさにシンデレラストーリーの幕開け。街を彷徨う孤独な少女が、探し求めていた「あなた」に出逢う「Just a real love night」、「過去の痛手はもう繰り返したくないから」「自分を磨き出」すことを誓う「Living on...!」、「あなた」への揺るぎない信頼を力強く歌う「I BELIEVE」、そんな想いが受け入れられた喜びを奏でる「MOONLIGHT」(この曲のみ本作での小室・華原の共作詞)、紆余曲折を経て「あなた」と一緒の居場所を見出した「I'm proud」を経て、タイトル曲「LOVE BRACE」で物語は大団円を迎え、ラストの「I BELIEVE-play piano-」でエンドロールという、まるで映画のト書きを読んでいるかのような構成。
こういった擬似恋愛的なコンセプトアルバムは、聴き手の男女それぞれを自分自身に見立てて投影できる部分を残しておくのが通常だと思うのですが、今作には限っては「私」(華原)の眼差しの向こうにいる「あなた」はどうしても小室哲哉というイメージに固定されてしまう、つまり聴き手にとっては自己投影し辛い、というのは仕方のないところなのですが(苦笑)、この「アルバム1枚でラブストーリーを完結」というコンセプトのもと、華原のキャラクターに合わせた小室の手による作詞も破綻がなく(英文法までは保障できませんが…^^;)ことごとく「私」の気持ちに寄り添った視点でのリリックはお見事としか言いようがありません。
そして、数ある小室プロデュース作品でもこのアルバムで群を抜いているのは、メロディーラインの秀逸さ。どの曲も気合いが入りまくった良メロの連発で、小室メロディーの一番良い部分を抽出した大変美味しい楽曲群が並んでおります。中でも個人的には「summer visit」での矢継ぎ早のメロディーや、サビ途中の「going to the sea〜♪」から始まるリフレインが好きです、何かTMっぽくて(←結局、私の選考基準はそれかい・笑)。また、トータルプロデュース作品で彼がよくやる「実験的な試み」もこのアルバムでは陰を潜め、強いて挙げるなら中盤に登場の「I BELIEVE」を地味めのアレンジに変更して収録したぐらいですが、これもアルバムのバランスを考えるとごく自然な流れの中に収まっていますし、何から何まで計算し尽くして「最高のアルバムを作って彼女を輝かせる」という、小室哲哉の献身的なプロデュースぶりには脱帽。これも一言で言ってしまえば愛情の成せるワザ、なんでしょうか。
そんな彼からの愛情を一身に受け止める華原朋美のヴォーカル。彼女の歌唱力は技巧的とは言いがたいですが、あの微妙に濡れているけれど過剰に艶っぽくない独特の歌声は、今作で提示された詞曲を歌いこなすには十分魅力的。そんな彼女の歌声、その持ち味を最高に引き立たせる小室のプロデュース、これが最高のバランスで成り立った作品と呼べるのではないでしょうか。
今作で蜜月時代の最高潮を迎えた小室哲哉と華原朋美。その後の二人の顛末について嫌でも知っている現在の時点でこのアルバムを聴き返すと、何やら複雑な心境になってしまうわけですが、1996年夏、二人がタッグを組んだこの頃の作品は最高に輝いていたと思うし、これから先も色褪せることのない名盤だと思っています。
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