
秦基博は2007年にミニアルバム「僕らをつなぐもの」でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター。所属事務所はオフィスオーガスタ。オーガスタといえば杏子(元BARBEE BOYS・・・って肩書きももう不要?)を筆頭に、スガシカオ、山崎まさよし、元ちとせ、そして近年ではスキマスイッチなど、個性の強い音楽性を持ったアーティスト達が所属するというイメージがあるのですが、この諸先輩方達に対し、秦基博の個性は・・・というと、現時点では彼らに比べれば(キャリアの差があるので当然ですが)薄味、といった点は否めないと思います。
ファーストオリジナルアルバム「コントラスト」に続く今作も、前作同様、各曲のアレンジをそれぞれの音楽プロデューサーに委託するという形を取っていることもあり、ポップなサウンドをベーシックにしながらも、そこで打ち出される個性はあくまで「各プロデューサーのカラー」に終始している印象が強く、それがそのまま秦基博の個性とは呼べないのではないでしょうか。
そんな「オーガスタの中では(一見)地味」な彼が作り上げたこの「ALRIGHT」、なぜここで「今週の1枚」としてプッシュするのか?というと、彼の手による今作の楽曲のレベルがとてつもなく高いというのがその理由です。
既に「僕らをつなぐもの」、「鱗」などといった佳曲を世に送り出している秦基博。今回のアルバムの収録曲(ここでは通常盤全12曲のことを指します)の内訳は、シングル3曲、アルバム曲9曲。これらの楽曲の中で、一聴しただけで凄いインパクトがあるような突き抜けた楽曲というのは実はそれほどなかったりするわけですが、このアルバム、何回か通して聴いていくうちにだんだんと耳にこびり付いて離れなくなる・・・という、スルメ的な中毒性(?)を持ったメロディーラインを持った曲が多く収められた内容になっている、そんなイメージの作品という気がします。
冒頭サビのメロディーがやがて頭に残って仕方ない「Honey Trap」、ポップな楽曲が揃う中、まったりと地味な存在というところがアルバム収録曲の中でも異彩を放つ「休日」、シンプルなメロディーながらじわりと胸に響く1曲目「夕暮れのたもと」、本編ラストを飾る力強い「新しい歌」の2曲にサンドイッチされた楽曲達は、どの曲も派手さはないものの、しっかりとしたメロディーラインを持った粒の良い曲揃い。
歌詞の面でも今作はバラエティ豊か。ラブソング「キミ、メグル、ボク」を筆頭に、言葉遊びが冴える「ファソラシドレミ」、擬人法を用いた「花咲きポプラ」、タイトルとは裏腹にコミカルな「最悪の日々」、そして今日への想い、明日への旅立ちを綴った「虹が消えた日」「フォーエバーソング」(個人的にはこういう歌詞に筆者は弱い・笑)など、彼のリリックの引き出しの豊富さを、メロディーライン同様見せつけてくれる充実のラインナップになっています。
また、先ほどの「プロデューサーのカラー」により彩られたアレンジ面では、「バイバイじゃあね」での皆川真人、「Honey Trap」での島田昌典、「夜が明ける」での松浦晃久など、同じキーボーディストによるプロデュース、アレンジでも、これだけ音の使い方に違いが出るんだな、という楽しみ方もできると思います。もともとはギター一本弾き語りがベーシックにある(と思われる)秦基博の楽曲に、これだけ色を付けて仕上げることができるのは、プロデューサーの力量もありますが、それだけ彼の書く楽曲には素材としての可能性がある、ということではないでしょうか。
なお、初回盤は前述の12曲に加え、楽曲提供やユニット参加した3曲の秦基博バージョンが収録されています。これらはあくまで「ボーナストラック」扱い。本編は本編で隙のない世界が展開されているので、この3曲に関してはライブでいう「アンコール」的なポジションなんだ、と完全に切り離して聴くのがアルバムのトータルバランス的にも良さそうな気がします。この辺りの収録事情は分かりませんが、ちょっとサービス精神旺盛かな、と思わなくもないです(笑)。
今年の3月には初の武道館ワンマンライブを行い、もう「オーガスタの期待の新人」的なポジションからは完全に脱した感のある彼。あとは諸先輩方の持ついわゆるキラーチューン的楽曲をヒットさせることができれば、更なるステップに上がることができるのではないかと思います。まだまだ成長途中にある(と思われる)秦基博。これからの活躍にも期待したいところです!!
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