goodtimesrollin 前回から久々の更新となってしまいました「今週の1枚」。実に半年ぶりの第43回目として紹介する1枚は、憂歌団のオリジナルアルバム、「Good time's rollin'」。

 憂歌団は1975年にデビューした、日本が誇るブルースバンド。メンバーはヴォーカル&ギターの木村秀勝(現・充揮)、リードギターの内田勘太郎、ベースの花岡憲二(現・献治)、そしてドラムスの島田和夫という四人編成で、1998年の年末にその活動を休止するまで不動のメンバーでした。ちなみに今回ご紹介するアルバムは1990年9月21日発売。管理人はその当時小学生。そんな頃にこんな渋いアルバムを愛聴していたのか、と言うともちろんそうではなく(笑)、聴いたのは大学に進学してから。「今まで聴かなかった幅広いジャンルの音楽を聴く」という目的のもとで彼らを聴き始めて、ファンになったという経緯があります。

 さて、前述の通り、憂歌団はこの時点ですでにデビュー15周年を迎え、その音楽性も徐々に変わりつつあった頃。デビュー当時は木村氏のヴォーカルもやけに若く棘があり、曲もバンド名の通り土着的というか泥臭いブルースを地で行く曲をメインに据えていたわけですが、レコード会社をトリオからフォーライフに移籍した1980年代前半以降、とりわけ1988年発売のアルバム「BLUE'S」(代表曲「大阪ビッグ・リバーブルース」収録作)からの作品では、ストリングスやキーボードサウンドも随所に取り入れて、メンバー以外の楽器の音を鳴らし、木村氏の歌声も円熟を見せ、内田氏を中心とした演奏陣の演奏も洗練されたものが増えてきていた時期だったように思います。そしてこのアルバム「Good time’s rollin’」はそんな彼らのフォーライフ在籍時代の最後のオリジナル作品ということもあり、この「ソフトな憂歌団」路線のひとまずの集大成といった趣のアルバムとなっています。

 収録曲は全12曲。後年に発売された「CD選書」(オリジナルCDを廉価盤で再販するシリーズ)の帯にも「ブルースのカテゴリーを飛び出し、より多彩なサウンド・アプローチを見せる」と記載されているように、本作はピアノをメインにした軽やかなポップ調サウンド「Good time’s rollin’,Bad time’s rollin’」で幕を開けると、マイナーコードのブラスロック「CRY」、ボサノヴァの「サンセット理髪店」、シングルにもなった情歌「わかれのうた」ではストリングスを大々的に採用、そして「おまえひとりさ」ではムード歌謡(?)など、ブルースを根幹にしながらも、様々な味付けで楽しませてくれるのが大きな特徴。
 また、歌詞の面でも、初期の作品に多く見られた「ワーキングブルース」的な歌詞や、ラブソングでも惚れた腫れたのドロドロ模様を描いたような曲はやや影を潜め、風景描写や人物描写を綴りつつもどこか第三者的な視点で俯瞰する先述の「サンセット理髪店」、お互いを魚と小鳥に喩えた穏やかなラブソング「空に生まれたさかな」、空の上にいる雨を降らす誰かに向かって「ここまで降りておれと飲まないか」と呼びかけるフレーズが全体の歌詞を鑑みるに切ない「Rain〜天使もブルースを知っている」、ラストを飾る「気持ちいいメロディ」など、どこか聴いていて心が温かくなるような、ヒューマンな魅力が詰まっていると思います。

 ヒューマンな魅力といえば余談になるのかもしれませんが、このアルバムジャケットは木村さんがダルメシアン犬を抱きかかえているのを背中から映した写真なわけですが、裏ジャケではこの写真の正面からのショットで、はにかみ笑顔の木村さんの姿が確認できます。だいたいクールなポーズのジャケット写真が多い憂歌団ですが、本作ではジャケットの面からもアルバムのほんわかした暖かさが伝わってくるかのようです。
 ・・・とはいえ、それだけで終わらないのがベテランバンドの妙技。日常のボヤキをけだるいバンドサウンドに乗せた「嫌だ」(沖てる夫氏による作詞)や、従来の路線に近い「オールド・サウス・ブリッジ・ロード」「Night Walk」などもしっかりとラインナップに並んでいたりと、初期の頃からのファンの心もしっかりと捉えている心憎い内容構成となっているのではないでしょうか。

 この後は1枚のベストアルバムを発表し、ワーナーミュージックジャパンへ移籍した憂歌団。そこでオリジナルアルバムとしてはさらにポップな「GON-TA」、そして本来のブルース路線に一気に回帰した「ブルース・バウンド」という2作を発表し、1998年に「休眠」という名の活動停止状態に入り、四人がそれぞれ別々に活動している状態がもうすでに10年続いています。その間、2年に1度ぐらいのペースで内容が似たりよったりの(笑)レコード会社主導のベストアルバムが発売され続けているわけですが、憂歌団のパブリックイメージとやや異なるからか、この時期のオリジナルアルバムの曲はやけにベストアルバムから外される(レコード会社の関係もあるかもしれませんが)確率が高いのが残念。確かに初期の路線が好きなファンの方の中から「甘すぎてちょっと・・・」という声も挙がる気持ちも分かるのですが、この時期のソフト路線がなければ私は憂歌団のファンになっていたかは結構怪しい(笑)ので、今でも彼らのことを語るのに、この「Good time's rollin'」は、私にとっては重要な1枚であるのです。