lifeis またも三連休最終日にギリギリ更新(汗)。今週ご紹介する1枚は、平井堅の通算5枚目のオリジナルアルバム「LIFE is…」。2003年1月22日発売の作品です。

 1995年、デビュー曲「Precious Junk」がいきなりゴールデンタイムのドラマの主題歌に採用されるという、幸先の良いスタートを切った平井堅。ですが、その後はCDの売上げが芳しくない時期が長い間続いた・・・というのは、よく知られている話だと思います。
 そんな彼に転機が訪れたのは2000年。今までの正統派ポップス路線から、当時最先端のサウンドとなっていたR&B路線に転換した勝負作のシングル「楽園」のロングヒットをきっかけに、全国的に人気を獲得して現在に至るわけですが、今回ご紹介するアルバム「LIFE is…」は、松尾KC潔氏によるトータルプロデュースにより全編をR&Bムードに染め上げた「THE CHANGING SAME」、R&Bをベースにしながらも「陽」の部分を濃く打ち出した「gaining through losing」に続く、いわゆる路線変更後3枚目のアルバム。初めてプロデュースとして平井堅自身の名前がクレジットされ、前二作の路線の継承と、新たな路線への挑戦をうかがわせる内容になっている1枚です。

 ブリブリのファンクチューン「Strawberry Sex」で軽快に幕を開ける本作。序盤は従来のR&B路線を機軸にした曲調が並びます。続く「REVOLVER」は「THE CHANGING〜」路線ですかね。3曲目、クールなサウンドに乗せて元カノとの奇妙な友情を歌う「ex-girlfriend」が終わると、ここでバラード曲「Ring」が登場。富田恵一氏の編曲による大々的なストリングスや、生音満載の温もりを感じさせるこの曲を4曲目という位置に配置することで、クールな前3曲との対比が鮮やかになり、歌詞の内容も含めて闇から光が差し込んでくるような印象。いやはや名曲(笑)。

 中盤は全編裏声の異色作「Come Back」でスタート。そして途中で英語のラップを取り入れた「somebody's girl」、コミカルな歌詞が面白い「I'm so drunk」と、このブロックは野心的な試みがなされています。この流れで聴くBabyfaceプロデュースのR&Bバラード「Missin' you〜It will break my heart〜」はシングル単体で聴くよりもかなり盤石感(?)が。この頃はシングルで王道をやって、アルバムで色々実験していた時期だったんですかね。シングル曲とアルバム曲の印象がかなり違う^^;。

 そして終盤。ジャズピアニスト・クリヤマコト氏とのコラボレーション「世界で一番君が好き?」あたりからは、近年感じられる「ポップな平井堅」の姿が徐々に顔を出してくる展開。続く「メモリーズ」は後の「バイマイメロディー」を思い起こさせる四つ打ちビート曲。実質ラストの「Life is...」はピアノの独奏に平井堅の切々としたヴォーカルが胸に響く、歌詞もパーソナルな要素が濃い美メロバラード。この手のバラードはこの後の作品でも結構出てきます。そして最後はアンコール的に収録されたカヴァー「大きな古時計」で締めくくり大団円。ちなみに、この曲のアレンジを手がけた亀田誠治氏は、この後も平井堅とタッグを組み、「瞳をとじて」や「POP STAR」といったヒット曲を世に送り出しています。

 ・・・とご紹介してきたように、本作の曲調はトータル的には良く言えば「バラエティに富んだ」、悪く言えば「ごった煮」状態。ただし、使用されている音色はそれなりに統一感があるので、意外とバラバラな印象は受けませんでした。また、このレビューを書くために今聴き返してみると、平井堅のヴォーカル、現在と比べて結構違うということに初めて気がついたりして(苦笑)。この頃は今よりもずいぶんと抑制の効いた声で歌っているように聴こえます。現在の彼のクセのある歌唱法には賛否あると思いますが、このアルバムに関しては必要以上に感情を表さないことが、1枚を通しての「聴きやすさ」にも繋がっているのかもしれませんね。

 本作の後、「SENTIMENTALovers」、そして「FAKIN' POP」と、ポップ寄りの作風にシフトしたオリジナルアルバムをリリースしてきている平井堅。このアルバムは2003年初頭時点での平井堅の「過去」(「楽園」以降のR&B路線)、「現在」(R&Bとポップの中間路線)、そして結果的に「未来」(デビューから一回りして帰ってきたポップ路線)を1枚に凝縮した、過渡期ならではの作品と言えるのかもしれません。逆に言うとこのアルバムのバラエティの豊かさは、彼のキャリアの中でも頭ひとつ抜きん出ていると思います。
 R&Bシンガー、カヴァー歌手、バラードの歌い手、そして最近ではポップアーティストと、ここ7〜8年の間、活動時期によって様々な認識をされている彼ですが、本作はそれらのテイストをすべて味わえる、非常に美味しい1枚(笑)として、平井堅の色々な側面をこのアルバムから感じ取ることのできる、お薦め作品です。