evergreen 9月もあっという間に下旬。そんな中ご紹介する「今週の1枚」はMY LITTLE LOVERのデビューアルバム「evergreen」。1995年12月5日発売。トイズファクトリーからのリリースでしたが、何でも今年、現在所属のエイベックスから再販されたとか。

 この年の5月、シングル「Man&Woman」でデビューしたマイラバことMY LITTLE LOVER。当初はヴォーカル担当のAKKOと、ギター担当の藤井謙二の二人組ユニットを、小林武史がプロデュースするという形態を取っていました。前年、Mr.Childrenを大ブレイクに導いた小林氏が、新たなユニットをプロデュースということで、デビュー曲から既に世間一般的にも注目を受けていたことを思い出します。筆者もミスチルファンであり、彼らのシングル「【es】〜Theme of es〜」の中に「Man&Woman」の告知カードが入っていたこともあり(笑)、マイラバの活動にはごく自然とチェックを入れていました。
 デビュー曲がロングセールスという形で結果を出した彼らは、続く「白いカイト」、そしてミリオンセールスとなった「Hello,Again〜昔からある場所〜」で一気にブレイクへの道を進み、満を持して発売されたデビューアルバム「evergreen」も、当時280万枚近くのヒットとなる、新人としては破格のセールスを記録。そしてこのアルバムより、小林武史が正式に3人目のメンバーとして加入しています。

 そんな彼らのデビューアルバムを聴いて最初に思ったこと。「・・・こんなクオリティの高いデビューアルバム作る新人は見たことがない」(笑)。まあ、すでに80年代からキャリアを積み重ね続けていたコバタケ先生が全面的にプロデュース・楽曲製作を担当している時点で、彼らを「新人」と呼ぶのはかなり語弊があると思うのですが(苦笑)、とにかく全10曲、かなりの気合が各作品に込められているのが聴いていて伝わってくるアルバムです。

 例えば、サウンドの多面的なアプローチ。現在の小林氏がしばし行う、ミスチルの他、レミオロメンやbank bandのプロデュースで良くも悪くも代名詞的になってしまった「ストリングスを導入して壮大に楽曲を盛り上げる」といった画一的な手法ではなく、曲調に合わせてキラキラしたグロッケンでファンタジックに曲を彩ったり(「Magic Time」で特に顕著)、ブラスを聴かせたり、隠し味的に打ち込みサウンドを使ったり、細かいギターのカッティングテクを多用したり(これは藤井謙二の功績?)、と、彼自身のアレンジの引き出しをどんどん開けて、効果的に楽曲に注入していっているという、サウンド職人的な嗜好がこのアルバムでは(というか、この後のマイラバのアルバムでもほとんどそのスタンスで製作していると思うのですが)かなり見受けられます。
 また、バンドのメンバーが一通り揃っているミスチルとは違って、あくまでユニットであるという特長を活かして、曲ごとにゲストミュージシャンを使い分けてそれぞれの色を出しているという点にも注目。まさにポップセンスの結晶といったこの完成度の高さは、大御所の風格を身に着ける前の、彼のギラギラした野心もうかがい見ることができるのではないでしょうか。

 そして多分、このアルバム、というよりも、マイラバ自体に欠かせない最大の魅力、それはAKKOのヴォーカル。彼女の歌声はどこか幼く、そしてつたない印象を受けるのですが、それが上に書いたコバタケ先生のトラック、さらに彼がほとんどを手がける歌詞のテーマにもピッタリとマッチしていたというのが、彼らがブレイクした最大の要素ではないかと思います。
 彼女のヴォーカルには何といいますか、「年齢不詳の少女性」のようなものがあって、メルヘンチックだったり、日常的な恋愛風景だったり、または哲学的で難解といった歌詞を歌わせても、すべてが彼女の歌声から発せられる世界観のもとに統一されてしまうような、不思議な魅力があると思うんですね。彼女よりも表現力が豊富で歌唱力も上の女性ヴォーカリストは、多分他に山ほどいると思うのですが、彼女にしか出せないあの独特な味こそが、おそらくマイラバに最も適した世界観なのでしょう。

 まあ、前にも書きましたが筆者は女性ヴォーカルに関しては技巧に走るよりも、ストレート主体な歌唱法のほうが好きなので、贔屓目だと言われてしまえばそれまでなんですが^^;。
 ついでに言わせていただきますと、メロディーがあっちこっちに展開するような曲を歌う時のAKKOの歌声は絶品ですね。「Free」とか「Delicacy」はまさにその典型例。完璧に歌い上げているわけではなく、展開されるメロディーに付かず離れずという、あのギリギリ感で発せられるヴォーカルはかなりツボです(笑)。それとは別に個人的に好きな曲は、この年の夏ヘビーローテーションで聴いていたシングル曲の「白いカイト」、フレンチポップス風の「My Painting」、ピアノをバンドサウンドの中心に据えた「めぐり逢う世界」もお薦め曲。

 このアルバム発売と同時ぐらいに小林氏の加入が発表された時は、「プロデューサーがメンバーになるなんて、globeみたいだなぁ」とか思っていたのですが、globeもマイラバも、時期は違えどメンバー内でくっついちゃったという面でも共通点がありましたね(笑)。まあマイラバは現在ではAKKO一人のソロユニットになり、小林氏とも離婚してしまいましたが、それとは関係なく、本作は日本のポップス史に残る、今聴いても時代を感じさせない、まさに「evergreen」の名を冠するに相応しい、普遍的な輝きを放っている名盤です。当時このアルバムを購入した280万の皆様、久々にCDラックの奥から取り出して聴いてみませんか?