moriguchibest 今年初の「今週の1枚」は、本ブログではちょっと珍しいタイプのシンガーの作品で始めたいと思います。1995年11月22日発売、当時も今も歌手としてよりもバラエティタレントとしての露出で有名(?)な、森口博子の通算4枚目のベストアルバム「Best of My life -Moriguchi Hiroko Single Selection-」をご紹介。

 90年代前半から中盤にかけて、バラドル(=バラエティアイドル)としての活動全盛期を迎えていた森口博子ですが、元々は純粋なアイドルシンガーとして、1985年にアニメ・機動戦士Zガンダムの主題歌「水の星へ愛をこめて」でデビュー。この曲はアニメ人気と相俟ってヒットになったのですが、その後の作品はセールス的に低迷していたこともあり、徐々に歌手としてではなく、バラエティもこなせるアイドルタレントとしての活動にシフトし、一定の知名度を上げてきた1991年、再びガンダムシリーズの映画主題歌として「ETERNAL WIND 〜ほほ笑みは光る風の中〜」が起用され、現在に至るまでの本人の最高売上を記録。この時は曲の良さも勿論ありますが、ガンダム人気+森口の知名度との相乗効果もあったロングセラーだったと記憶しています。その後は90年代中盤を過ぎる頃までは大きなヒットはないものの、シングルで10万枚程度をコンスタントに売り上げ、「夢がMORI MORI」という看板番組を持つなど、歌手としてもタレントとしてもバランスの良い活動を続けてきました。そして満を持してリリースされた本ベストは、彼女がこの時点まででリリースしてきた全20枚のシングルの中から15曲を選曲し、リマスターを施した、タイトル通りのシングルセレクションとなっています。

 ざっと内容を紹介すると、収録順は時系列ではなく、緩急の流れを感じさせる曲順。冒頭に車のCMソングとしてオンエアされ自身の2番手ヒットとなった「もっとうまく好きと言えたなら」を配置、続いてDual Dreamとのコラボシングル「Let's Go」広瀬香美からの楽曲提供で広瀬自身もカバーした「LUCKY GIRL 〜信じる者は救われる〜」と、まずはアッパーチューンで攻め。前述の「水の星〜」を通過した後はミディアム〜バラードゾーンへ。1986年作品なのでやたら声が若い「Still Love You」、80年代末リリースにしてアーリー90'sサウンドを予感させる(?)「夢の合鍵」などでしっとりと聴かせた後、当時PRINCESS PRICESSの奥居香が提供した「スピード」から曲名通りに加速。現在は日本を代表するアレンジャーとして名を馳せる本間昭光のほぼ無名時代の編曲作品「誘惑してよね夏だから」(ラテン風)「あなたのそばにいるだけで」(アロハ風)を経由し、最大ヒットのバラード「ETERNAL〜」、最後に当時の最新シングル「あなたといた時間」で締めるという、ライブを意識した構成が光っています。

 さて、このベストを聴いて思うことですが、森口博子はデビュー時から当時に至るまで、かなり良質の楽曲を提供してもらっている…というか、制作スタッフにかなり恵まれているのが、上述の提供関係者を挙げるだけで一目瞭然。まあDual Dreamも広瀬香美もかなり自身の作品に寄せている感じだし、奥居香提供の「スピード」「ホイッスル」の2曲に至っては生バンドアレンジということもあり、ボーカルを奥居にすればまんまプリプリじゃん、という感じで(笑)提供者寄りの楽曲カラーになっている点は否めないのですが、森口のボーカルはあまり特徴的な声質ではないものの、当時のアイドルの中では上手い部類に入り、与えられた曲にはバンドサウンドから打ち込みバラードまで、順応性をもって対応できているところは好印象。秋元康が作詞を手掛けた「夢がMORI MORI」などは今回改めて聴いて何なんだこの歌詞?!と思ったのですが(苦笑)彼女が元気気味に歌うと許せてしまう雰囲気を作っていけるのは築いたキャラクターのおかげでしょうか。また、同じレコード会社繋がりなのでしょうが、「ETERNAL〜」を提供し、93年には正式に歌手デビューを果たした西脇唯が関わった楽曲(本作では5曲収録)は秀逸なものが多く、提供作家としての西脇の実力もしっかりと見せつけられました。

 全20枚のシングルのうち、漏れた5曲はいずれも90年までの作品(91〜95年のシングルはすべて収録)ということもあり、良い意味での「90年代中盤までのJ-POP(ガールポップ)の幕の内弁当」的な本作品。ちょうど「夢MORI」終了直後のリリースということもあって、彼女の活動全盛期のひと区切り、という感じだったのでしょうか、以降はシングル・アルバムリリースとも落ち着き、アニバーサリー的なベストアルバムを連発するようになってしまうので歌手活動としては第一線を退いた感があり、森口が歌手としてコンスタントに活動していた、というのをリアルタイムで知る世代というのも筆者ぐらいの年代がもしやギリギリ…?という感覚に時代の流れを感じてしまいますが、数ある彼女のベストアルバムでどれか1枚、と言われれば、現在中古屋で結構安く買えるということもありますが(汗)、良質のポップスが約70分にわたってぎっちり詰め込まれた本作を強くお薦めいたします。