inochikumahoroba 2016年12月6日発売、井乃頭蓄音団通算4枚目となるオリジナルアルバム。全10曲収録。

 前々作の「おかえりロンサムジョージ」、そして前作の「グッバイ東京」と、アルバムを重ねる毎に元々持っていたアングラ感、特徴的でもあった変態性あふれる(笑)歌詞がどんどん薄れていく路線に意図的に向かっている彼らですが、本作もまさにその延長線上。前作でも数曲あった「意味不明なエネルギーに溢れたワケわからん系」の楽曲がついに今回は皆無に。どの曲も普遍性・抒情性を濃くした内容になっています。また、前作ではメンバー共作が多めだったのですが、本作は松尾よういちろう、ジョニー佐藤、ヒロヒサカトーが単独で詞曲を手掛ける曲がほとんどで、共作は1曲目の「ようこそ我が家へ」(三人での共作)のみとなっています。

 サウンド的には通常のバンドサウンドに加えてマンドリンやウクレレを積極的に起用する「アメリカーナサウンド」(というらしい)で雰囲気を統一。ラウドなブルース調の「偶然金メダル」のようなバンドならではの曲もありますが、バンドを基調+αというよりも、ほぼウクレレの伴奏のみで一曲を通したラスト「ただいま」などのように、上記の楽器を聴かせることにかなり重点を置いており、カントリーっぽさを自らの作風に加えた、という点では彼らの新たな個性獲得への挑戦、と呼べるのかも。

 かつての特徴であった詞に関しては等身大のモノローグに終始しており、各々のメンバーの個性がはっきりと分かれた、という作風でもなく、正直インパクトという点では初期の頃に比べるとパワーダウンの感は否めません。ですが、奇を衒わない穏やかなメロディーラインを含めた楽曲の良さ、演奏面での深化、という意味では地味ながら確実に彼らの成長がうかがえるアルバムでもありました。特に、自分達を支えてくれるライブスタッフの事を歌ったであろう「ここにいて」は名曲。