BEGIN5 来る2015年3月18日に「BEGINシングル大全集 25周年記念盤」をリリースするBEGIN。タイトル通り、歴代の全シングルを収録したベストアルバムなのですが、実質的には15周年時の「BEGINシングル大全集」(2005年2月23日発売)、20周年時の「BEGINシングル大全集 特別盤」(2011年2月16日発売)のアップグレード盤ということで、これら三作を同シリーズと勝手に位置付け(笑)、「CD Review Extra」では、彼らの全シングルを1曲ずつレビューしていこうと思います。
 前編の今回は、DISC-1に収録された1990年3月発売の「恋しくて」から1998年3月発売の「家へ帰ろう」までの14曲をご紹介。「続きを読む」からご閲覧ください。
「BEGINシングル大全集」シリーズ全収録曲レビュー・前編
 ※特に表記のない場合は作詞・作曲:BEGIN。


1.恋しくて
 1990年3月21日発売、記念すべきデビューシングル。
 前年にテレビ番組「いかすバンド天国」に出演した際に演奏され、デビューのきっかけとなった楽曲。メンバーの失恋経験を基に生まれた曲だそうだが、直球フレーズの失恋バラードといったところで普遍的な響きがある。元々なシンプルなアレンジの曲だったが、商品化するにあたって白井良明の手によるストリングスアレンジが導入され、ゴージャスな雰囲気に。デビューアルバム「音楽旅団」ではストリングスをカットしたバージョン、初のベスト「FAN -LITTLE PIECES-」(1995年)ではアコギメインの新録音、「ビギンの一五一会」(2003年)では一五一会バージョンと、様々なバージョン違いのスタジオ音源が存在する曲でもある。
 日産自動車のCMソングのタイアップが付き、オリコンでの最高位は4位。20万枚以上を売り上げ、デビュー曲にして彼らの歴代最高ヒット曲の座は未だに揺るがない。この後しばらくヒット曲に恵まれなかったこともあり、この時代をリアルタイムで経験した世代は「BEGIN=恋しくて」のイメージが根強いそうである。ちなみに筆者が音楽に目覚めたのは90年の夏であったので、当時この曲のことはまったく知らず、後追いで知った。

2.Blue Snow
 1990年12月1日発売、2ndシングル。
 作詞は川村真澄と、作曲は山田直毅と共作名義、編曲は白井良明が担当と、初期BEGINを支えた制作陣で作られた楽曲。舞台はクリスマス当日、片想いの相手に気持ちを伝えられず思いが募るばかりの主人公のモノローグ。「今夜だから 逢えない」のフレーズが切ないクリスマスソングである。
 アレンジは華やかな「恋しくて」とは対照的に、シンプルな音使いで実に渋く落ち着いており、シングルとしては地味な点が否めないが、この渋さが個人的にお気に入りの曲。セールス的にはここから不遇の時代が始まるのだが、メンバー自選バラードベスト「BALLADS」(1999年)に収録されたり、「BEGINライブ大全集」(2008年)に選曲されたりと、初期の楽曲の中でも扱いは良いほうだと思う。

3.YOU
 1991年11月10日発売、3rdシングル。
 作詞は真名杏樹と共作、編曲は岡田徹。ユニマットのCMソングとしてオンエアされ、筆者はBEGINの曲とは知らなかったがこの曲の存在は知っていたので、リアルタイムで初めて聴いた彼らの曲、ということになる。
 身近な知人の旅立ちにエールを送るメッセージソング的な歌詞であり、キャッチーなサビも覚えやすい。その反面、アレンジはあっさりし過ぎており、耳をスッと通り抜けてしまうのが弱点か。歌詞を英詞に翻訳し、アレンジにスパニッシュ風な味付けを施した「You -ENGLISH VERSION-」(編曲:白井良明)が1996年のベスト「CM COMPILATION Twelve Steps」に収録されており、こちらがこの曲の完成形のような気がする。
 なお、このシングルは両A面であり、2曲目に「これがはじまりだから」(作詞:松井五郎、作曲・編曲:小林武史)という曲が収録されているのだが、未だにアルバム未収録のままである。

4.あふれる涙
 1992年10月25日発売、4thシングル。
 テイチクからファンハウスへとレーベルを移籍。移籍は「所属レーベルが消滅したから」という理由だったらしい。作詞は沢ちひろ、編曲は岡田徹が担当。
 BEGINの歴代シングル曲を見渡しても一、二を争うぐらいの歌謡曲寄りの、どバラード。「あふれ〜る〜涙〜♪」というサビがインパクト大だが、このフレーズを大元にして歌詞を組み立てていったかのような印象を受ける。この曲からオリコンチャート100位内に入らなくなってしまうが、後に「FAN -LITTLE PIECES-」、「BALLADS」という二作のベストに収録され、位置付けとしてはファンハウス期の代表バラードといったところだろうか。

5.さよなら、そしてありがとう
 1993年2月25日発売、5thシングル。
 卒業シーズンを意識したのか、別れと感謝、そして旅立ちをモチーフにした楽曲。乾いた感じのアレンジは山田直毅が担当。
 シンプルな構成ながらなかなかの佳曲で、テイスト的には次の5thアルバム「MY HOME TOWN」に繋がる素朴さを感じるのだが、オリジナルアルバムには未収録。ベスト盤にも毎回スルーされ、一時期は一部で入手困難なレアシングルと化していたが、2005年の「BEGINシングル大全集」にて発売から丸12年の時を経て、ついにアルバムに初収録となった。

6.誰かが君を呼ぶ声が
 1993年7月25日発売、6thシングル。
 アメリカ・ナッシュビルでレコーディングされた5thアルバム「MY HOME TOWN」からの先行シングル(アルバムには若干異なるアルバムバージョンで収録)。編曲は白井良明。
 ゆったりとしたシャッフルビートを用いた軽快な一曲。「今日が動き出す」「街が光り出す」など、朝を連想させるフレーズが散見されるのは、タイアップ先の日本新聞協会「新聞配達の日」のキャンペーンソングということを意識してのものだろうか。デビュー15周年時のインタビューではこの曲と次の「花待ち人」はタイアップ決定後に曲を作ったことが語られていた。
 1996年のベスト「CM COMPILATION Twelve Steps」にはBEGIN、松永俊弥、竹沢訓の連名による新アレンジでリメイク新録。テンポが上がったこともあり、受ける印象がガラリと変わった。オリジナル・リメイクの両者共に甲乙つけ難い。

7.花待ち人
 1993年11月11日発売、7thシングル。
 作詞は田代五月が担当。BEGINのパブリックイメージからややズレた(?)ロマンチックな歌詞がなかなかに珍しい。花キューピットの「ごめんねブーケ」のイメージソングだったそうで、「この世界中の花を贈るよ 君は明日の花待ち人」という歯の浮くフレーズが登場するのも納得(笑)。重実徹のストリングスを効果的に使ったバンドアレンジも楽曲に華を添えている。
 オリジナルアルバムには未収録だが、一年半後のベスト「FAN -LITTLE PIECES-」でアルバム初収録。またその翌年の「CM COMPILATION Twelve Steps」にも収録されるが、イントロの頭に4小節を追加した(というか元々存在した4小節を最終的にカットしたものを復活させた?)バージョンで収録されており、こちらのほうが収まりが良いと思う。

8.OKINAWAN SHOUT
 1994年7月25日発売、8thシングル。
 デビュー以来、沖縄出身という出自を音楽性には出してこなかった彼らが、三線の音やエイサー風の掛け声など、初めて沖縄色を打ち出した曲をリリースしたターニングポイント的な作品。作詞は田口俊との共同名義だが、編曲はシングルタイトルで初のBEGIN名義という記念すべき楽曲。
 歌って踊って悩みなんて笑い飛ばせ!(要約)といった陽気なお祭りナンバーで聴いていて楽しい。2000年以降に展開し、今や彼らの代名詞ともいえる「オリジナル島唄」のプロトタイプと呼べるのでは。なお、6thアルバム「Chhaban Night」では、歌詞をすべて沖縄方言に置き換えた「ウチナーグチ・バージョン」(BEGINと同級生のシンガーである大島保克による訳詞)で収録されている。

9.君だけをつれて
 1995年3月25日発売、9thシングル。
 初のベスト盤「FAN -LITTLE PIECES-」と同時発売でベストにも収録。作詞は川村真澄、作曲・編曲は山田直毅が担当。BEGINの全シングルの中で唯一、メンバーが楽曲制作に関わっていない作品である。
 ワンフレーズでこの曲を表現するならば、「ライトで耳あたりの良いポップな曲」…なのだが、提供楽曲ということもあってかBEGIN以外のアーティストが演奏しても違和感のない曲であり、前作「OKINAWAN SHOUT」やアルバム「Chhaban Night」で見せた独自性は感じられない。作風に試行錯誤が見られるこの時期特有の一曲と言ってもいいかも。

10.声のおまもりください
 1996年7月6日発売、10thシングル。
 作詞は田代五月と一倉宏(コピーライター)の共作名義。一倉の考えたサビのフレーズを基に作り上げられた経緯があるらしい。シンプルな音数に絞ったアレンジは山田直毅の手によるもの。
 ポケベルに代わる新たなコミュニケーションツール・アステル東京のPHSのCMソングとして大量にオンエアされ、久々にオリコンチャート50位内に浮上し、最高位は36位ながら10万枚を超えるロングセラーを記録(BEGIN自身の二番手ヒット)。メンバーがアステルのイメージキャラクターの前園真聖(当時ヴェルディ川崎所属)と共にCMに出演するなどして知名度を広げた。恋にときめく主人公の初々しさが何とも眩しいが、覚えやすいサビのメロディーは彼らの作品の中でも頭ひとつ抜けていた。
 「恋しくて」のヒットをリアルタイムで知らない筆者ぐらいの世代にとっては、この曲こそがBEGINというイメージが強いのではと思われる。個人的にはこの曲でBEGINに興味を持ち、同年のベスト「CM COMPILATION Twelve Steps」を手にしてファンになったという流れがあり、現在でも思い入れの深い曲である。2003年にはセルフカバーベスト「ビギンの一五一会」にて再録された。

11.Birthday Song
 1997年5月21日発売、11thシングル。
 古巣のテイチクへ復帰し、仕切り直しとしての第一弾シングル。「作詞・作曲・編曲:BEGIN」の完全自作体制はシングル表題曲では初。
 メンバーに姪が誕生したことをモチーフに描かれた、新たな生命を祝福する心暖まる一曲。アレンジはピアノにギター、リズムセクション程度の小編成なのだが、この辺りからの彼らは楽曲制作・アレンジも含めて「すべて自分達で作り上げる」姿勢に入り、その成果が早くも表れている。2000年の「空に星があるように」の再発盤(後述)では2曲目に収録。
 余談だが、PV撮影の際に自前の衣装に穴を空けられ羽根を付けられた、というエピソードは本当なのだろうか(笑)。

12.空に星があるように
 1997年9月3日発売、12thシングル。
 荒木一郎作詞・作曲のカバー。編曲は梅林茂との共同名義。
 アルバムでは何曲かカバー曲を発表しているBEGINだが、シングル表題曲にカバー曲を起用するのは初めて。往年の名曲に対して特に気負うことなく、この時期の彼ららしいシンプルな編成の味わい深いアレンジで「BEGINの楽曲」として成り立っており、完成度の高いカバーだと思う。
 発売当時は映画「私たちが好きだったこと」の主題歌に起用。バラードベスト「BALLADS」(1999年)、10周年ベスト「BEGIN BEST 1990-2000」(2001年)収録と前後して、2000年にフジテレビの月9ドラマ「天気予報の恋人」の挿入歌に採用され、カップリングを変更して同年5月31日にマキシシングルで再発。この時にオリコン50位内にランクインしている。また10thアルバム「BEGIN」には新アレンジで再録を果たした。

13.愛が走る
 1997年11月21日発売、13thシングル。
 TBSの時代劇「南町奉行事件帖 怒れ!求馬」のオープニングテーマ。作詞は辻仁成が担当。曲中「ポケベル」「地下鉄」「ゲーム」等々、時代劇に相応しくない歌詞が登場するが、オンエアでは該当部分を避けて構成されたバージョンが流され、その編集ぶりに感心したものである(笑)。
 楽曲はラテン調の軽やかかつ爽快なアップテンポナンバーで、ライブの起爆剤になりそうな印象である。2000年にカップリングを差し替えて発売された「空に星があるように」の3曲目にライブバージョンが収録された。

14.家へ帰ろう
 1998年3月21日発売、14thシングル。
 「Birthday Song」以来の完全自作シングル。「家」は「うち」と読む。
 一緒に暮らしてはいるが仕事などですれ違う「僕」と「君」。だからこそ「(どこかへ遊びに行くよりも)まだしゃべり足りないから さぁ家へ帰ろう」という普遍的なテーマを軽快なメロディーとリズムで表現。「モノクロの地図広げて 未来にシールを貼りつけよう」という一節が個人的に気に入っている。
 エオリアのCMソングに起用され、地元沖縄バージョンのCMも制作されたらしい(未確認)。


 以上DISC-1、全14曲のレビューでした。
 デビューからちょうど八年間の活動の記録が収められているわけですが、この時期は「恋しくて」と「声のおまもりください」しかヒットらしいヒット曲がなく、またインディーズ経験がないままメジャーデビューを果たした彼らの苦闘ぶりが初期の楽曲からは窺い知れます。そんな彼らを制作スタッフがバックアップし、一人前に育て上げた成果が、特にテイチク復帰後からは色濃く出始め、2000年以降のブレイクに繋がったのだと思います。さしずめこの時代は「BEGIN助走期」といったところでしょうか。
 さて、「BEGINシングル大全集 25周年記念盤」の発売まで二週間を切りました。次回は中編としてDISC-2に収録の1998年6月〜2004年12月までのシングルをレビューする予定ですが、通常レビューを間に挟み、時間をかけてエントリーすることになると思いますので、しばしお待ちください。
 ここまでの長文レビューにお付き合いくださり、ありがとうございました。